電動ノコギリ??
こちらの投稿ですが、一部推敲前の下書きのものをそのまま上げていたようで、リナさん一家は別行動中でここにはいませんでしたね。大変失礼いたしました。
該当部分を訂正いたしましたm(_ _)m
「で、こちらが新しく出来上がった、例の硬いイバラを切る為のノコギリだよ。どうだ?」
にっこり笑ったジャックさんがそう言って別の木箱から取り出したのは、さっき見た火炎放射器と本体部分の形は全く一緒だった。違うのは、掃除機もどきの吸い口に当たる部分が、さっきの火炎放射器はやや尖った隙間用ノズルみたいな形になっていて、今取り出したそれは電動草刈り機そのまんまな形をしていたって事。
ちなみに、その掃除機もどきの先端に取り付けられていたのは、俺がアイデアを出した例の丸鋸だよ。
そしてやっぱり、本体の後ろ側に紐が取り付けられていて、その先にあったのは、例の巨大乾電池入れもどき。
成る程、既存の物で使える部分は流用して、中身を新しく作っているのか。さすがだな。
「おお、これが言っていた回転式のノコギリの刃の部分か。成る程、丸くするとはこういう意味か」
「これを回転させるのか。確かにそれならばかなりの強度のものでも切れそうだなあ」
ハスフェルとギイが、感心した様に丸鋸の草刈り機もどきを見て感心している。ランドルさんも、初めて見る道具に感心したような声を上げている。
どうやらこの世界で初の、丸鋸誕生の瞬間に立ち会ったみたいだ。
「ちなみに、これってどれくらい切れるんだ?」
興味津々なハスフェルの質問にこれ以上ない笑みになったジャックさんは、木箱の中から鞄を取り出した。
これは俺でも分かった。ここで出るって事は、あれは収納袋だな。
「最強でぶん回せば、この丸太が簡単に切れるぞ」
そう言って鞄から取り出したのは、直径が30センチは余裕でありそうな丸太。しかもよく見るとめっちゃ年輪が細かいから、恐らくだけど相当硬い木なのだろう。
「ええ、それを切るのは簡単ではないでしょう?」
ランドルさんの若干呆れた様なその声に、俺は首を傾げた。
「そうですか? あれくらいの太さの木なら、確かに簡単に切れそうですけど?」
俺の質問に、ランドルさんが苦笑いして首を振る。
「いやいや、あれはアイアンウッドと呼ばれるクスノキの一種なんですが、とにかく木目が詰まっていてめちゃくちゃ硬いんですよ。あの太さなら、かなりの力の持ち主でも相当の時間がかかりますよ」
そう言ってチラリとハスフェル達の方を見る。成る程、彼らくらいの腕力の持ち主でも、あれをノコギリで切ろうと思ったら相当かかるくらいに硬いって事か。
「ほお、冒険者なのにお詳しいですな」
ジャックさんの感心したような言葉に、ランドルさんが照れた様に笑う。
「ああ、先日引退した相棒のバッカスが、こういうのにとても詳しくてね。色々と聞かされたので、俺もそれなりに知識はありますよ。その彼は、今はハンプールで自分の店を持っています」
「へえ、バッカスさん、鍛治だけじゃあなくて木工にも詳しいんだ」
感心した俺の呟きに、ランドルさんが笑顔で振り返る。
「今は、仲間達が増えて分業になっていますが、冬場に炉さえ借りられれば、ナイフくらいなら一人で全部作っていましたよ。ナイフの柄のすげ替えなんかも簡単にやってくれましたから」
そう言って、自分が装備しているナイフを取り出して見せてくれた。
綺麗な木目の柄の部分は、艶々と輝いている。
「へえ、すごく綺麗ですね。さすがバッカスさんだ」
「ありがとうございます。これは俺も気に入っているんですよね。ああ、すみません。話がそれましたね。要するに、あの木を簡単に切れるなら、恐らくあの飛び地のイバラも切れるだろうって事です」
ランドルさんの言葉に納得した俺が、改めて取り出された丸太を見る。
「ただし、切れるには切れたんだが、さっきフクシアが言っていたのと同じで、これも最強でぶん回すと滅茶苦茶にジェムの減りが早いんだよ。なので、そこはまだまだ改良の余地ありってところだよ」
「まあ、だけどあの飛び地へ行く為ならそれなりのジェムを使ったとしても、すぐに元が取れそうですけどね」
「確かにな。だが今後、こいつを実際の山での仕事なんかに使う事を考えればなあ……」
「確かにそうですね。ええと、じゃあせっかくですから、これを切るところを見たいです」
にっこり笑った俺が取り出したのは、鞄に入ったアクアが出してくれたステゴザウルスのジェムだ。
「ああ、ジェムなら用意してあるから、それはどうぞ収めてくれ」
「誰かさん達のおかげで、研究に使えるジェムもたくさんもらえる様になりましたからね」
笑ったフクシアさんの言葉に、ジャックさんも苦笑いしつつものすごい勢いで頷いていたよ。
まあそうだろう。街の人々の日々の暮らしにさえ不足していたジェムを、すぐに結果が出ない研究用に回していたとは思えないからな。
「ジェムが無い間って、どうしていたんですか?」
思わず声をひそめてフクシアさんにこっそり尋ねる。
「そりゃあ大変でしたよ。とにかくまずは机上で考えて考えて、試作を作るまで持っていった後は、使えるジェムが届くのを待っていましたね。その間にまた別の研究をしたりしていました。ですが、それではお金になりませんからね。ここの工房もそうですが、長い間、壊れた道具の修理や改良などで食べていたって感じですね」
苦笑いするフクシアさんの言葉に、この世界へ来て本当に良かったなあと、密かに思った俺だったよ。
「よし、じゃあ見てくれよな!」
ジャックさんが、収納袋から取り出した大きな恐竜のジェムを乾電池入れもどきの中に押し込む。ジェムの大きさに応じて、端の部分が多少動く様になっているから、いろんな大きさのジェムが使える工夫なんだろう。
「では、参ります。一応申し上げておきますが、とにかく凄い音がしますので、もう少し離れていただいた方が良いと思いますぞ」
ジャックさんのその言葉に、ランドルさんとハスフェル達が数歩後ろへ下がる。俺もそれに倣った。
フクシアさんが、床に置いたジェム入れを手で押さえる。
頷いたジャックさんは、床に立てた丸太の横に立ってスイッチを入れた。
凄い回転音が部屋中に響き渡る。うん、これは間違いなく電動ノコギリの音だよ。
苦笑いする俺と違い、ランドルさんとハスフェルとギイ、ついでに言うとシャムエル様までが揃って飛び上がって耳を塞いで悲鳴を上げていたよ。
「おお、すっげえ切れる切れる!」
もの凄い音を立てておがくずを撒き散らかしながら、電動ノコギリもどきは本当にあっという間に丸太の上部を輪切りにしてしまった。
スイッチを切って音が止んだ途端に、俺以外の全員のもの凄いため息が聞こえて、俺は笑いそうになるのを必死で堪えていたのだった。
さすがにこの世界の人達は、こういった機械の駆動音には耐性は無かったみたいだ。
まあ、確かにあの爆音は、初めて聞いたらそりゃあビビるよな。
そんな事を考えながら改めて丸太の切り口を見る。そりゃあまあ、見事なまでにスッパリと切れていたよ。お見事!
丸鋸のアイデアを教えたとはいえ、この仕組みを自力で考えて作っちゃったフクシアさんは、確かに天才だと思うよ。
俺には絶対に出来ない芸当だね。
改めて感心して、拍手を送った俺達だった。