春の予感
子猫達が生まれてから、本当に毎日があっという間に過ぎていくよ。
一応、週に一回くらいは、俺も腕が鈍らないようにする意味もあって地下洞窟への狩りに同行している。
時々休日を入れてはいるが、ほぼ毎日嬉々として地下洞窟へ入っていくハスフェル達は、ケンタウロス達と一緒に最下層の下にある巨大な地底湖へ入っている。
まあ、俺が一緒に入った時には、ハスフェル達も一緒に地下を回る事もあるんだけどね。
彼らがこの冬の間に集めたジェムと恐竜達の素材の量がどれくらいになっているのかは、もう考えないようにしているくらいだ。腐るものでなし、まあ良いかと、もはや悟りの境地である。
シャムエル様が言っていた新しいアイテムの無限水筒も、既にいくつも出現している。
まあ、出現数は収納袋ほどの数ではないので、出るのは一回の探検で一つか二つ程度だ。
とりあえず出た分は、まずは順番に全員に一つずつ渡し、相談の結果、次からは俺が貰ってハスフェルが貰い、また俺がもらってギイが貰い……と言った風に、俺が一個おきに貰って順番に全員に渡す事になったよ。
俺的には絶対に取り過ぎだと思うんだけど、リナさん一家とランドルさんには、これでも自分達が貰いすぎだと揃って真顔で力説されたので、まあ彼らが納得してくれるのならそれなら良いかって事で、この方式になったよ。
そして、毎日見ていても分かるくらいに、子猫達はどの子も順調すぎるくらい順調に成長している。
朝起きて、挨拶した時に目が開いているのに気が付いた時には、もうあまりの可愛らしさに感激の悲鳴を上げてその場で悶絶した俺だったよ。ちょっと興奮し過ぎてまたしても萌え鼻血が出たのは内緒だって。
どの子も、とても綺麗なグレーっぽいブルーアイだった。
だけど、その日も子猫達の顔を見に来たリナさんに教えてもらったんだけど、実はこの青い瞳、キトゥンブルーって言って、目が開いた直後からわずかの間だけ全ての子猫の目がこうなっているんだって。本当に綺麗なブルーグレーになっているんだよ。
これが本来の色だと思っていた俺が驚いて詳しく教えてもらったところ、だいたい百日前後、つまり三ヶ月くらいで本来の色に変わるらしい。
「へえ、目の色が変わるのか。それは知らなかったなあ。じゃあこの色は本当に今だけなんだな」
ご機嫌でミルクをもらっている子猫達を眺めながら、どうしてここにカメラが無いのかと、密かに悔し涙を飲んだ俺だったよ。
気がつけば、あれだけ降り積もっていた庭の雪もどんどんと減っていき、まだまだ寒いとはいえ日中は日差しもやわらぎかなり暖かくなってきていた。
季節はゆっくりと春に移行しているみたいだ。
一応、ケンタウロス達への雪スライムのテイムは一段落していて、残った子達は日中は雪の残る庭へ出て、後は地下洞窟内で好きに過ごしているんだって。
ちなみに雪スライム達が頑丈な鍵がかかっている地下洞窟へ入るための扉なんだけど、扉の上の部分に、地下の空気を循環させるための小さいがめっちゃ分厚い鉄格子の窓があって、どう考えても人力での破壊は無理なレベルなんだけど、形状自在のスライム達にとってみれば、この小さな隙間でも扉が開いているのと大差ないらしい。
なので、俺達がいなくても地下洞窟へのスライム達の出入りは可能なんだってさ。
しかも、春以降の俺達が留守の間は、雪スライム達が地下洞窟内の警備まで担当してくれるらしい。
要するに、万一勝手に扉を何らかの方法で開けて誰かが入って来たら、入り口部分のあの広場で迎撃してくれるんだってさ。
ケンタウロス達も、ここには色々と彼らの術を使って安全上の細工をしてくれたらしい。
俺にはよく分からないのでハスフェル達に詳しく聞いてもらったんだけど、話を聞いたハスフェルとギイが大爆笑していたから、マジで留守の間の安全は保証されたみたいだ。
「まあ、ここの地下洞窟にはお宝が大量に眠っているからなあ。保安上の安全度は高いに越したことはないって」
今日のお弁当を用意してやりながら、小さく笑った俺だったよ。
せっせと仕込んだ各種料理の方も、もう当分は作らなくても良いくらいに大量に用意された。
特に、岩豚で作った豚の角煮がどれだけ美味かったかは、しばらく俺達の間で語り草になったくらいだった。その角煮を使った角煮丼と角煮まんは、当然ものすごい量が用意されているよ。
そんな感じで、日々ケンタウロス達も一緒に楽しく狩りをしていたもんだから、俺はもう、ここへ来てすぐの時に遭遇したあの岩食いの一件は、もう完全に終わったものだと思っていたんだよ。
だって、春になったら出現の期間も終了するって言っていたしさ。
だから、地下洞窟に来ていないケンタウロス達が血眼になって何かを探していたなんて、その時の俺には知る由もなかった。
ベリーや長老も、特に何も言わなかった。
だから、実はとても危険な状態になっているんだって事を知ったのは、雪解けが更に進んでそろそろ地面が見え始めた頃だったんだよ。
まさか、あんな事になるなんてさ……。