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買い物

「お待たせ。これでご希望の品は全部だな」

 今のうちにクーヘンに話を聞こうと思っていたのに、大きな台車に細々とした品を入れた箱を乗せた爺さんは、すぐに戻ってきた。

「一体どんなものが欲しいのかと思ったら、この程度では値引きするまでも無いぞ」

 苦笑いしながら爺さんは次々に机に品物を出していく。

「では、順番に説明していくぞ。まずご希望の携帯用のコンロだ。これはバイゼンのヴェスター工房の最新作でな。今の一番のお勧めだ。この組み立て式の箱型の覆いを被せて弱火で使うと簡易オーブンになるんだ。中の金網に乗せて両面からパンを焼いたり、チーズを乗せたオーブン料理を作ったり出来るぞ。だがこれは、携帯式とは言ってもそれなりの大きさになってしまうんだよ。まあ、これはお前さんが好きな方を選んでくれ」


 後ろで話を聞いていた俺は、思わず身を乗り出して爺さんの手元を覗き込んだ。

 今、聞き逃せない事を言ったぞ。簡易オーブンだって? それは絶対欲しいぞ。


 俺が覗き込んでいるのに気付いたクーヘンが、小さく吹き出し振り返って手招きをしてくれた。

「どうぞ良かったらこっちへ来て見てください。これは、どちらかと言うと私よりもケンに必要なのでは?」

「ああ、そうだな。これは正直言ってかなり欲しい」

 横に行って、組み立てた簡易オーブンを覗き込む。

「ですよね。ではこれはケンにお譲りします。私が買ってもせいぜいパンを温めるくらいしか使い道を思いつきませんから」

 俺達は、顔を見合わせて同時に吹き出した。


「この最新式は、こちらの彼が買うと思いますので、置いておいてください。私はこちらの定番の分を二つお願いします」

 いつも使っているのと変わらない、定番の携帯コンロを指差すクーヘンを見て爺さんは笑って頷き、箱からもう一つ定番の携帯コンロを取り出して机に並べた。

「調理道具だが、一人用で良いんだよな?」

「ええ、大した事はしないので、言った程度があれば充分だと思いますね」

「ならこれがお勧めだ。大小の鍋と小さいがフライパン、それから深鍋と片手鍋、全部取っ手が折りたためるようになっていて、まとめると一つに重ねられる。鍋とフライパンの蓋は、そのまま皿として使えるぞ。まあ、冒険者達や一人旅の商人なんかの必需品だな」

 俺が最初にシャムエル様から貰った鍋セットも、確かそんな感じだった。まあ、最近ではすっかり使う機会も減ったけどな。


「カトラリーセットはこれがお勧めだな。調理用のナイフは?」

「一応一つはあるんですが、出来れば食べ物専用にもう一本あっても良いですね」

「なら、こっちの折りたたみ式かな。これもバイゼンのリンゲン工房製だ。切れ味には絶対の自信があるぞ」

 取り出して並べた折りたたみ式のナイフは、刃の部分が10センチ程度の小さな物から、包丁よりも大きなサイズまで、全部で五種類の大きさがあった。


 うわあ、これもちょっと欲しいかも!


 落ち着け自分。これもまずはクーヘンが選んでからだよな。覗き込みたいのを必死で我慢していると、一番小さな折りたたみ式のナイフをクーヘンは手に取った。

「私はこれで充分ですね。ですが、この大きなナイフもケンが欲しそうにしていますね。これも、あとで彼にも見せてあげて下さい」

 それから、テント道具一式と寝袋も選び、最後に雨コートも新しいものを選んだ。

「あと、お前さんは言わなかったが、荷物に余裕が有るならこれも持って行きなさい。これがあると、野外で格段に楽だぞ」

 それは、三本足の折りたたみ式の椅子だった。三角の座面部分は、しっかりとした厚手の布で作られている。

 確かに、これなら畳んでしまえば三本の棒だけになる。四十倍の収納袋がある今ならこれは買いだろうな。

「ああ、確かに椅子があると食事の時なども楽ですよね。じゃあこれも一緒にお願いします」

「水筒は有るのか?」

「はい、これになりますが」

 クーヘンが、イグアノドンのチョコの鞍の後ろの荷物入れに取り付けた水筒を指差した。

「あれ以外に、もう一つ小さいのをいつもここに入れていますね」

 背中に背負っている、今まで使っていた小さなリュックを指差す。

「なら大丈夫だな。それとこれも持っていけ。岩塩だよ」

 小さな缶に入れた岩塩を渡してくれる。

「それで全部でお幾らになりましたか?」

「だから言っただろうが。こんな程度では、値引きした内に入らんぞ」

「ええと、それはどう言う意味でしょうか?」

 分かっていないクーヘンに、爺さんは笑って顔の前で手を振った。

「これだけ全部まとめて金貨百二十枚。いや、百十五枚でどうだ?」

「おお、更に下がったぞ」

「いえいえ、追加で品物を頼んだのに、それでは私がお願いした追加分は、実質タダって事になりますよ。そんなの駄目ですって」

「いや、店側が安くすると言うておるんだから、ここは素直に喜べよな。お前さん」

「いえ、ですが……」

「んな事言うなら、もっと下げるぞ!」


 我慢の限界! と言わんばかりの爺さんの叫ぶ声を聞いて、後ろで聞いていた俺達三人はほぼ同時に、堪えきれずに揃って吹き出した。そのまま大爆笑になる。


「なにこの掛け合い漫才。面白すぎるぞ」

 笑いすぎで出た涙を拭いながら、なんとか俺がそう呟くと、しゃがみ込んで大笑いしていたハスフェルも大きなため息を吐いて立ち上がった。

「いやあ、全くだ。しかもこれで双方大真面目なところが更に笑えるよな」

「全くだ、こんなに笑ったのはいつ以来かな。はあ、腹が痛いぞ」

 ハスフェルとギイも、好き放題言ってまた笑っている。

 途方に暮れた様子で振り返ったクーヘンの背中を、ハスフェルが笑って軽く叩いた。

 しかし、それでも仰け反って痛がる彼に、ハスフェルは優しく笑って爺さんを見た。

「クーヘン。悪いと思うならこれくらいで諦めて手を打っておけ。放っておくと、まだ下がるぞ」

「わ、分かりました! これで手を打ちましょう! 金貨百十五枚です!」

「了解だ。沢山のお買い上げ感謝するよ。で、支払いはどうする? 現金か? それともギルドに口座があるのか?」

「あ、冒険者ギルドの口座から支払いをお願いします」

 そう言って、小物入れからギルドカードを取り出して渡した。

 爺さんが金額を書いた一枚の紙をクーヘンに見せて、彼はその紙にサインをして返した。

「じゃあすまんが、またちょっと待っててくれよな」

 そう言って、サインをした紙と一緒に、ギルドカードを持ってまた部屋を出て行ってしまった。


 しばらくして戻ってきた時には、ギルドカードだけを持っていた。

「ほれ、お返しするよ。いやあ、良い商談をさせてもらったよ。また何かあったらいつでも相談してくれよな」

 がっしりと握手を交わしたクーヘンは、笑顔で自分の名前を名乗った。

「ゲルハルトだよ。もちろん、売った品に何か不都合があれば、いつでも言ってくれよな」

「ありがとうございます、大事に使わせてもらいます」

 嬉しそうにそう言って手を離したクーヘンは、今買ったばかりの品物を順番に収納袋に詰めていく。

 今まで使っていた鞄は、このままここに引き取ってもらう事になったらしい。


「おお、全部入ったぞ」

 机の上に並べられていた品物は、見事に全部収納袋の中に収まった。

「まだまだ余裕がありますね。これで、ジェムも少しは持てるようになりました」

 新しい収納袋を斜めに掛けて背中側に回した。

「よく似合ってるぞ」

 笑い合って、ハイタッチして場所を交代した。



「で、こちらの兄さんは、何をご所望だね? なんでも言ってくれよな」

「ええと、俺はそんな大したものじゃ無いです。まず欲しかったのは、ジェムを等分する道具なんです。後はこの簡易式のオーブン付きコンロと、さっきのクーヘンが見ていた折りたたみ式のナイフの一番大きなのをお願いします」

「ああ、それなら店へ行こう。ジェムを砕く道具も種類があるからな」

 爺さんは、俺が買う簡易オーブン付きコンロと、大きな折りたたみ式のナイフだけを避けて別の箱に入れ、それを持って一旦店へ出る。そのまま俺も一緒に店に出て行った。


 で、店に並んでいた品物を前に、もう一度使い方の説明を聞いて、相談の結果、ハスフェルが持っていたのと同じタイプの全種類のサイズが切れる一番大きなセットを選んだ。

 俺は言われた金額を現金で支払い、それぞれ別々の袋に入れてもらった品物を受け取った。

 いつものように、四次元鞄に放り込む。

「お前さん、収納の能力持ちか。羨ましいな」

 笑顔の爺さんに見送られて、俺達は店を後にした。



「お疲れさん。さて、そろそろ昼時だし、このまま何か食ってから戻るか」

 店を出たところでハスフェルがそう言い、このままいつもの広場で屋台で昼食を済ませて戻る事にした


 さてと、後は大量のジェムの整理だな。

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