リナさんの子供達
「ああ、ルルと同じだわ。可愛い……」
寝ている間に子猫達を順番に触らせてやり、リビングへ行こうとしたところでリナさんが小さくそう呟く。
「やっぱり思い出しちゃいますか?」
廊下へ出て歩きながら小さな声で遠慮がちに俺がそう尋ねると、リナさんは困ったようにしつつも頷く。
「確かに、色々と辛い事も思い出しますけど、それでも可愛いからやっぱり見にきちゃうんですよね。ニニちゃんには感謝しかないです。あの子達を産んでくれてありがとうって」
「そうですね。俺もそれは思いましたよ。それにその……」
「どうかしましたか?」
不思議そうに俺を見上げるリナさんを見て、俺は小さく笑って肩をすくめた。
「俺ももちろん、ニニには感謝しかないですよ。あの子達を産んでくれてありがとうって、心の底からそう思っています。だけどその……実を言うと俺は今まで、人であれ動物であれ、出産とか子育てとかとはほぼ無縁の人生でしたからね。兄弟もいなかったし。だから友人や知り合いから、子供が産まれて大変だって話を聞いても、所詮は他人事だったんです。なので今回ニニのお産に立ち会って思ったんですけど、冗談抜きで出産って生む方も生まれてくる方も命懸けなんだなあって……本気で感心したんですよね」
あの時の、ニニの苦しそうだった様子や、詰まってしまって無理やり引き出されたけれども、息をしていなかったマニを思い出して、ちょっと気が遠くなった俺だったよ。
「そうですね。実を言うとアーケルの時はすごく楽だったんですけど、後の二人ずつを産んだ時には、本当に大変だったんですよ。正直言ってもう死ぬ、絶対無理、今すぐ殺してって本気で思いましたからねえ」
「ああそっか。オリゴー君とカルン君は双子ですからねえ。そりゃあ産むのは大変そうだ……ええ! 王都にいるって言っていた娘さん二人も双子なんですか? もしかして、草原エルフって双子が普通なんですか?」
驚きすぎてそう叫ぶと。三兄弟が揃って吹き出した。
「いやいや、そんな事ありませんよ。たまたまです。偶然ですって」
笑ったアーケル君が、顔の前で手を振りながらそう言ってまた笑う。
「俺の母も双子だったし、祖父も双子でしたからね。俺の方が、おそらく血統的に双子が多い家系みたいです」
苦笑いしながらの夫であるアルデアさんの言葉に納得して頷いた。確かに、双子の家系って遺伝するんじゃあないかって話はネットで聞いた事があるような気がする。まあ、実際に本当なのかどうかは知らないけどね。
「うわあ。双子の出産と子育てなんて、聞いただけで大変そう」
本気の俺の叫びに、リナさんは声をあげて笑っていた。ううん、さすがは肝っ玉母さんだよ。
「産んでくださってありがとうございます!」
そしてその会話を聞いて、揃って叫ぶ三兄弟。
「そうね、確かに大変だったわね。だけど今はこう思ってるわよ。私のところに生まれてきてくれてありがとうってね。愛してるわよ、オリゴー、カルン、アーケルもね」
「母さん!」
涙目になった三人に揃って抱きつかれながらアルデアさんと軽いキスを交わす二人を見て、ちょっと羨ましさのあまり涙目になった俺だったよ。
ああ、ニニと子猫達のむくむくとふかふかに今すぐ癒されたい……。
そんな話をしつつリビングに到着した俺達は、いつもの定位置に座ってサクラの入った鞄からサンドイッチをはじめ色々と取り出して並べた。
ううん、この辺りももうちょい作っておくか。
ランドルさんやアーケル君達も色々と出してくれたよ。
今朝はご飯な気分だったので、おにぎりを色々取り、だし巻き卵、おからサラダと鶏ハムと温野菜も色々取ってから席に着こうとしたら、シャムエル様が、ランドルさんの出してくれた赤いスパイスを振った串焼き肉の横でステップを踏んでいたので、それも二本頂いたよ。飲み物は緑茶だ。
小さいテーブルを取り出していつもの敷布を敷いてから、まずはそこに並べる。
「おはようございます。今朝は、おにぎりとだし巻き卵、おからサラダと鶏ハム、温野菜と串焼き肉です。緑茶も一緒に、少しですがどうぞ」
目を閉じてそう呟く。いつものように俺を撫でる感触に目を開けると、収めの手が料理を順番に撫でてお皿ごと持ち上げてから消えていった。
「シルヴァ達にも、子猫達を見てもらいたいなあ。春の早駆け祭りで会えないかなあ」
シルヴァ達が、歓声を上げて子猫に抱きついて大はしゃぎする姿が容易に想像出来てしまい、小さく笑った俺だったよ。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜っじみ! ジャカジャカジャン!」
今朝は定番の味見ダンスだ。当然、カリディアのダンスもいつもの如く見事なまでの完コピ。
「お見事〜〜!」
最後は二人揃ってキメのポーズだ。
カリディアには激うまブドウを、それからシャムエル様にはご希望の串焼きを丸ごと一本と、俺の分も色々と一緒に盛り合わせて渡してやる。
「ありがとうね。うわあ美味しそう! では、いっただっきま〜〜〜す!」
ご機嫌でおにぎりに頭から突っ込んで行くシャムエル様を眺めつつ、俺も自分のおにぎりにかぶりついたのだった。
さて、今日は後で長老が来るって言っていたけど、何を聞かれるんだろうねえ?