子猫達の事と今日の予定!
「里親探しかぁ。まさかこっちの世界に来て、そんなこと考える日が来ようとはなあ」
ベリーの言葉にカリーノを撫でていた俺は、小さくそう呟いて熟睡していてなすがままなカリーノをそっと優しく抱きしめた。
「だけど確かにそうだよなあ。金で売買するのは絶対に嫌だ。それに、出来れば大きくなった子達の様子も知りたいもんなあ。となると……知り合いに貰ってもらうしかない気がするんだけど……」
寝ぼけて俺の指を吸い始めたカリーノの様子に、俺の理性が崩壊寸前だ。
「ああ、駄目だ。この子達を抱いて考え事なんて絶対に無理だって。まあ、これはまだ時間があるから、後でしっかり考えるよ。忠告してくれてありがとうな」
顔を上げた俺の言葉に、ベリーも苦笑いしつつ頷く。
「従魔の扱いに口を出すのは余計なお世話かと思ったんですが、そのまま黙っていたら、きっとケンは全員手元に置きたがるのではないかと思いましてね。過剰に街の人達に怖がられたり、自分の存在そのものがご主人である貴方に迷惑をかけるのは、従魔達にとっても決して本意ではありません。お互いが良い形で収まる先が見つかると良いですね」
ミニヨンを抱き上げたあと、何度も嬉しそうに撫でているベリーの言葉に、小さく笑った俺も頷く。
「そうだよな。一番に考えるべきはこの子達の幸せなんだからさ。ああ、でも一匹くらいは手元に置きたいなあ。だけどさすがに物理的にもう無理かな?」
俺の連れている従魔達の中で、大きさを自在に変えられるジェムモンスターと違って小さくなれない、大きさそのままの魔獣は、マックスとビアンカにニニとカッツェの四匹だ。
冷静に考えたら、これだけでもちょっとした大きなワゴン車四台分レベルの大きさだからなあ。いや、手足と尻尾がある事を考えたら、感覚的にはもっと大きいかな?
すっかり見慣れていて存在しているのが当たり前だからさ。大きい子達が並んでいても、俺としては、ああ可愛い! くらいにしか思わないけど、確かに世間の人はそうではないだろう。この大きさだけで怖がる人だっているもんな。
まだまだこれから先、行った事のない世界を見て回る予定なんだから、行った先の人達を不用意に怖がらせるのは俺の本意じゃあない。
「うん、手元に残すとしても一匹が限度だよなあ。ううん、これはどうするべきだろうなあ」
ため息を吐いた俺は、堂々巡りの考えを一旦やめてまずは身支度を始めた。
「ケン、長老が貴方に聞きたい事があるそうですので、後ほど部屋にお伺いしても構いませんか?」
背後からのベリーの言葉に、思わず手が止まる。
「へ? 俺に聞きたい事? 何だろう? まあ別に構わないよ。一応今日は、俺は部屋で子猫達を眺めながら料理をする予定だったんだけどなあ」
シャツの袖口を引っ張りながらそう呟くと、ベリーは苦笑いしている。
「まあ、恐らく貴方の元の世界の事だと思いますよ。ああ、もちろん話したくない事があれば、遠慮なく断ってくださって構いませんよ。そこは無理しないでください」
慌てたように付け加えるベリーの言葉に、笑って頷く。
「ああ、そこはまあ……質問次第だな。もちろん、嫌な事は堂々と断るよ」
笑って肩をすくめる俺の言葉に、ベリーもにっこりと笑って大きく頷いてくれた。
「さてと、そろそろ腹も減ったしリビングへ行くか」
大きく伸びをしてそう呟いた時、扉をノックする音が聞こえた。
「あれ、今日は念話じゃなかったな。はあい、誰か開けてやってくれるか」
返事をしながらそう言うと、近くにいたイプシロンがササっと扉を開けてくれた。
「おはようございます。あの、子猫達の様子ってどうですか?」
扉から目を輝かせたリナさんとアーケル君達、それからランドルさんやハスフェル達の姿も見える。つまり全員集合だ。
「おはようございます。構わないからどうぞ入ってください。子猫達はミルクを貰って熟睡中ですよ」
笑顔で手招きしてやると、真っ先にリナさんが入ってくる。
俺に一礼してから、嬉々として産室を覗き込んだ。当然全員がそれに続く。
「ああ。可愛い! 可愛い可愛い可愛すぎる〜〜〜!」
握りしめた両手を胸元に当てて、延々と小さな声でそう呟きながら悶絶しているリナさん。その後ろではアルデアさんとアーケル君達三兄弟も似たような有様だ。
「ああ、可愛い! 可愛い可愛い! 可愛すぎる〜〜〜!」
そしておっさんなのに、リナさんと全く同じポーズに同じ台詞で、こちらも悶絶しているランドルさん。まあこれはこっちの方が声はかなり大きいぞ。
うん、リナさんならともかく、おっさんの身悶える姿は見たくないな。
バッサリと脳内でそう切り捨てた直後、不意に閃いた。
ああ! いるよここに。間違いなく喜んで子猫を引き取ってくれそうな人達が!
「あ、でもそれならクーヘンに引き取って貰うのもアリかな?」
あれだけ大きくて立派な家と厩舎のあるクーヘンなら、リンクスでも、もしかしたら引き取ってくれるかもしれない。全くの見ず知らずの人にあげるのはやっぱりどう考えても嫌なので、出来れば魔獣使いの誰かに引き取ってもらいたいなあ、なんてのんびり考えていた俺だったよ。
ああ、それにしても、やっぱり三匹とも可愛すぎるよ……。