明日の予定と新アイテム?
「ああ、どれも美味しくて食べる手が止まりませ〜〜ん」
満面の笑みのリナさんの言葉に、既に満腹になって戦線離脱していた俺は笑うしかない。
だって俺以外の全員が、リナさんも含めてまだまだご機嫌で食べているんだよ。しかも、全員が全部の鍋を既に二周以上している。いやあ、相変わらずよく食うねえ。
まあ、一種類の鍋の時よりは減る勢いは少ないみたいだけど、追加で出した肉はどの鍋もそれなりに減っている。好きなだけ食っていいから、お前ら野菜も食え。
ううん、それにしてもあれだけ出しても料理が余らない、お前らの胃袋が俺は怖いよ。
これって予算が潤沢にある上に時間停止の収納持ちだから、よく食べるなあって笑っていられるけど、一般庶民の人とか、冗談抜きでどうしてるんだろう? まあ食材の値段は朝市なんかだとかなり安いから、まだマシなのかもしれないけどさあ……などと見も知らぬ誰かのお財布事情を勝手に心配していると、ようやく皆の胃袋が満杯になってきたみたいで、食べる勢いがグッと遅くなった。そろそろ限界かな?
「ごちそうさまでした! いやあ、どれも美味しかったです!」
「ごちそうさまでした! どれも美味しかったけど、俺はこのすき焼きってのが気に入りました!」
「ごちそうさまでした! 確かにすき焼きは美味かったよな。でも俺はこのキムチ鍋が最高だと思うぞ!」
草原エルフ三兄弟は、ごちそうさまのあとも、まだお酒を片手にどれが美味しかったとご機嫌で話をしている。
「はい、お粗末様。それだけ綺麗に食ってくれたら作った俺も嬉しいよ」
すっかり空っぽになった鍋をスライム達に綺麗にしてもらいながら、俺は乾いた笑いをこぼした。
だって、一通りの具材が無くなったところですき焼きの鍋では締めにうどんを、水炊きはたまご雑炊、キムチ鍋はチーズ入り雑炊をそれぞれ鍋いっぱいに作っていて、もちろんそれも綺麗に平らげた上でのさっきの台詞だ。そりゃあ笑うしかないだろう?
「まあ、せっかく作ったのを残されるよりはずっと良いんだろうけどさ。ああ、ありがとうな」
吟醸酒を入れてくれたハスフェルにお礼を言ってグラスを受け取り、のんびりと飲みながら今日のジェムと素材、それからドロップアイテムの確認をしていったのだった。
ちなみに、そろそろ収納袋の大フィーバー期間は終わったみたいで全部で数十個出ただけで、今のところ特に他のアイテムなどは出ないみたいだ。
「もう終わりなのか?」
テーブルの上で、摘みに用意したチーズを齧っていたシャムエル様にこっそり尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「まあね。だって、予定数に達したからさ」
半分以下になったチーズを齧っていたシャムエル様は、俺の質問に平然と答えて笑っている。
「よ、予定数? ええとつまり、おまけで出す収納袋の数を最初に決めていたって事?」
驚く俺の言葉に、笑ったシャムエル様が頷いている。
「一応さ、この世界に出る収納袋の数もそれなりに全体数では設定してあるんだよね。それで今回地下洞窟で出す予定だった量が全部出たので、一応特別期間は終了です! まあ、次も考えてはいるんだけど、すぐに欲しい?」
「ええと……何が出るのか、聞いていい?」
「ええ、そこを聞く?」
笑ったシャムエル様に腕をバシバシと叩かれて、困った俺はこっそりハスフェルとギイを見た。
『俺も知らないが、何が出るんだ?』
念話で届いたハスフェルの質問に、俺の方が驚くよ。ええ、ハスフェルでも知らないって、超レアなんてもんじゃあないだろう?
「あ、そりゃあ当然だよ。一応オマケでは一度しか出した事の無いアイテムだからね!」
ドヤ顔のシャムエル様の言葉に、素知らぬ顔でお酒を飲んでいた金銀コンビが揃ってものすごい勢いで振り返った。
「ど、どうしたんですか?」
さすがに今のは気がついたみたいで、アーケル君達が驚いてる。
「お、おう、何でもないよ」
誤魔化すみたいに笑ったハスフェルが、そう言って手を伸ばしてつまみのチーズを口に放り込んだ。
「さて、腹もいっぱいになったしそろそろ解散かな。今日はかなり疲れたし、明日は探検は休みにしようと思うがどうだ?」
「いいと思いま〜〜す!」
ギイの若干ダルそうな提案に、アーケル君達とランドルさんも笑って頷いている。
って事でその場はそこで解散になり、それぞれ部屋に戻った。
だけど、当然のようにハスフェルとギイは俺の部屋に集合だ。
「それで、何が出るんだ?」
部屋に入るなり尋ねた興味津々のハスフェルの質問に、シャムエル様がまた笑っている。
「ええ、どうしようかなあ」
焦らすみたいにそう言って笑うシャムエル様を見て、俺はにっこり笑ってシンプルタマゴサンドを取り出した。
「情報料って事でどう?」
「商談成立〜〜〜!」
あれだけ食った後だし俺的には冗談のつもりで出したんだけど、速攻でそう答えたシャムエル様は、俺の手からお皿をものすごい勢いで奪い取るとその場で嬉々として食べ始めた。
「食後のタマゴサンドも格別だねえ〜〜」
ご機嫌で膨れたもふもふ尻尾をこっそりともふりつつ、とりあえずシャムエル様が食べ終わるのを待つ。
「はあ、美味しかった。ええとね、これはまだどこにも出していない企業秘密なんだけどさあ」
インサイダー取引かよ! って脳内で突っ込みつつ一応聞く態勢になる。
「ジャジャーン! これです!」
そう言って取り出したのは、水筒だった。
どこからどう見てもただの水筒なんだけど、収納袋の事を考えると出てくる答えは一つだけだ。
「おい、もしかして無限水筒か?」
驚くハスフェルの言葉に、嬉しそうに笑ったシャムエル様はうんうんと頷いた。
「やっと、これの量産の目処が立ったんだよね。オンハルトに感謝しないとね。だから、手始めにまずはここの地下洞窟で出してみて、大丈夫そうなら他の地下洞窟へも順次解放するよ」
突然の神様っぽい言葉に、俺の目が見開かれる。
「ああそうか。これだってどうやってか知らないけど誰かが作っているからアイテムとして出るわけだもんな」
自分用にしている、あの五万倍の小物入れを見る。
「そうそう。まあ詳しくは企業秘密なんだけど、無限アイテムを専門に作ってくれる子達がオンハルトが管理してくれている精霊達の中にいるんだよね。ここで色々と知識を吸収したでしょう? それで戻った後に、色々と指導をしてくれたみたいなんだ。おかげでアイテムの生産がかなり効率化出来たんだよね」
「オンハルトの爺さんが管理する精霊? ええと、眷属とかっていうアレ?」
確か、あのイケボミミズのウェルミスさんは、大地の神様のレオの眷属だって聞いた覚えがあるぞ。
「ううん、それとはちょっと違うんだけど、まあそれに近いと思ってもらって間違いではないね」
神様のランクとか関係なんて俺が知るわけもないので、これは全部まとめて明後日の方向にぶん投げておく。
「成る程な。オンハルトが急に帰ったのはそれが理由か。だが無限水筒があれば、冒険者達は大喜びするだろう。良いじゃないか。是非高確率で出してやってくれ」
笑ったハスフェルの言葉にギイも頷いている。
「まあ、皆が楽になるアイテムならなんであれ大歓迎だよ。それなら俺も、様子を見てちょっとくらいは一緒に行こうかなあ」
目を輝かせるハスフェル達に、俺は慌てて顔の前でばつ印を作った。
「待った待った! 行くとは言ったが、俺が行くのは地下洞窟の最下層まで! その下の水の中には行きません! 俺は、従魔達やランドルさんと一緒に地面のあるところで狩りをします!」
あんな怖い思いは絶対嫌だよ。
必死でそう叫んだ俺は、間違ってないよな? だって人は水の中では息は出来ないんだからさ!