お帰りと夕食準備
『おおい、そろそろ撤収して戻るぞ〜〜〜』
『全員腹ペコなので、早めに夕食をお願いしま〜〜す!』
ソレイユ達と爪も牙も全開でワイルドに戯れあっている子猫達を若干ドン引きしつつ眺めていると、ハスフェルとギイからの念話が届いて顔を上げた。
『おう、お疲れさん。俺は今、今日の仕込みが終わって子猫達と戯れていたところだよ』
『ああ、そりゃあご苦労さん。だけどどちらかと言うと、料理している時間より子猫達を眺めていた時間の方が長かったんじゃあないか?』
からかうようなギイの言葉に、堪える間も無く吹き出す。
『うん、まあ否定はしないよ。だけどしっかり料理も作ったんだからいいんだい!』
拳を握って断言する俺の叫びに、二人が遠慮なく吹き出す声が聞こえた。
『否定しなかったな。でもまあ、その可愛い子猫の時間は有限なんだから、主人の特権だ。好きなだけ眺めているといいさ。だが怪我には気をつけろよ。あの子猫の爪や牙なら、お前さんなんてどう考えてもちょろい獲物だろうからなあ』
『あはは、さすがはよく分かってるなあ。もちろん気をつけてるよ。実はそれ、従魔達からも言われたんだよなあ。まだ分別のついていない子猫にとって、俺なんて思いっきり獲物サイズだから、迂闊に近寄るなって』
また吹き出す声が聞こえて、俺も何だかおかしくなって一緒になって大笑いしたよ。
『まあ、気を遣って教えずにいて、お前が怪我をする方が大変だからな。正直で主人思いな従魔達に感謝しろよ』
『全くだ。ああ、いい事思いついたぞ。それなら新しく作ったあの防具をフル装備すればいい。顔まで覆ってさ。あの防具なら、子猫の爪や牙くらい何とかなるんじゃあないか?』
笑ったハスフェルとギイの言葉に、一瞬マジで考えたよ。確かに、多少は窮屈かもしれないけど、全身フル装備だったら……。
『いやいや、それって全然子猫に素手で触れねえじゃんか! 俺がもふもふに触れないならくっつく意味ねえよ!』
思わず拳を握って断言すると、また揃って笑われたよ。
『あはは、確かに、防具を、身に、つけていたら、素手では、触れない、な……』
笑いすぎて呼吸困難になってるギイの言葉にハスフェルも大爆笑している。
『大丈夫だよ。ちゃんと俺のひ弱さを心得てくれている従魔達がしっかり監督してくれているからさ。あの子達が満腹になって熟睡している時なら、俺でもくっつけるんだよ』
いっそ開き直った俺の言葉にまた二人揃って遠慮なく吹き出して大爆笑しているので、もう放っておいてトークルームをサクッと閉じてやった。
「さてと、じゃあ腹ペコで戻って来るあいつらの為に、夕食の準備をしておくか。今夜はどれを出すかねえ。よし、せっかく大量の鍋料理を作ったんだから、今夜は鍋パーティーにしよう」
手を打ってそう呟くと、スライム達を引き連れてリビングへ向かったのだった。
ちなみに他の従魔達は、全員部屋で留守番だ。
見ていると、どの子も子猫達が可愛くて仕方がないみたいで、先を争うみたいにして添い寝役を務めている。
「あれって、明日以降の留守番は、どうやって決めるんだろうなあ」
廊下へ出て、小さく笑ってそう呟いた俺だったよ。
「ただいま戻りました〜〜〜!」
「いやあ、今日も素晴らしかったですよ!」
ご機嫌なアーケル君達の声を聞きつつ、取り出したコンロの上にいろんな鍋を並べていく。
「おかえり。今日はいろいろな鍋料理を仕込んだから、鍋パーティーにしま〜す!」
「おお! 素晴らしい!」
拍手が沸き起こり、ちょっとドヤ顔になる俺。
「では、解説しま〜〜す! 右から、岩豚入りキムチ鍋〜〜〜! それからグラスランドブラウンボアの牡丹鍋〜〜〜! こっちはシンプル水炊きだから、このポン酢かごまだれで食べてくれよな。ちなみに入ってるのはハイランドチキンの胸肉と手羽団子だよ。それからこっちの二つが、甘辛い味付けのすき焼き〜〜〜! すき焼きの肉は、グラスランドブラウンブルの肉と普通の牛肉の両方があるから、お好きな方をどうぞ!」
それぞれの鍋の蓋を開けるたびに沸き起こる拍手。
「って事で、あとは好きに食え! 以上!」
追加の肉と野菜もそれぞれの鍋のそばに並べておいてやり、追加用の出汁や割り下も用意して並べておく。
俺の宣言と同時に即座に取り出した携帯用の鍋セットを手に、それぞれ好きな鍋に突撃していく仲間達を見て、俺もキムチ鍋にとりあえず突撃したのだった。