まずは朝食だ!
「ああ、キリがないよ。よし、とにかく顔を洗って来よう」
ニニの元へカッツェが戻っていったので、俺もため息を一つ吐いてからとにかく顔を洗いに水場へ向かった。
「うわあ、目が覚める〜〜!」
氷みたいな冷たい水に飛び上がりつつバシャバシャと顔を洗う。ついでに手と足も軽く洗う。別に汚れているわけじゃなく、これは気分的なものだよ。
「ご主人、綺麗にするね〜〜〜!」
元気よく跳ね飛んできたサクラが、一瞬で俺を包んで綺麗にしてくれる。
「いつもありがとうな。ほらいっておいで〜〜!」
今日はバスケットボールのフリースローで、水槽目掛けて放り込んでやる。
綺麗な弧を描いてサクラが水槽にイン!
「よし、高得点だ〜〜!」
笑いながらそう言い、これまたいつものごとく次々に跳ね飛んでくるスライム達を捕まえてはフリースローで放り投げやった。
よしよし、プロバスケット選手も真っ青なレベルの命中率100%だ! まあ、実際には投げているボールのスライム自身が、自主的に軌道修正して自らゴールに飛び込んでくれているんだけどね。
「ちゃんと、濡れたところは片付けるんだぞ〜〜」
「はあい、ちゃんと綺麗にしま〜〜す!」
水槽から豪快に噴き出す噴水を見て笑った俺がそう言うと、とっても良い子な返事が返ってくる。
「おう、お前らも水浴びか。じゃあ俺は退散するから好きにどうぞ」
マックスとビアンカが並んで走って来てすれ違いざまに俺に頭突きをしてから、スライム噴水に突っ込んでいった。
狼コンビやセーブル達も走って来たので、両手を広げてこちらもすれ違いざまにタッチしてやる。
バシャバシャと賑やかな水音を聞きながら、一旦ベッドへ戻って手早く身繕いをした。
まあ、俺は出掛けないから防具は無しだよ。
「あいつらは、今日も地下へ行くのかねえ。皆元気だなあ」
しばらく待って、水遊びに満足したスライム達が戻って来たところで、鞄の中にスライム達に入ってもらってリビングへ向かった。
もちろん出かける前には、もう一回子猫達とニニに挨拶してから行ったよ。
「おはようございます」
ちょうど廊下に出たところで、リナさん一家と鉢合わせした。
「ああ、ケンさんがまだだったら、声掛けするふりして部屋に突撃しようと思っていたのに!」
本音ダダ漏れのアーケル君の叫びに、廊下で全員揃って大爆笑になったよ。
「あはは、まあ気持ちは分かるよ。もう、あの子達を見ただけで、俺の顔面が毎回崩壊しているからさあ」
笑った俺の言葉に、もの凄い勢いで何度も頷くリナさん。
「今でも充分可愛いと思っているでしょう? 言っておきますけど、これから一年、いつ見ても可愛いしかありませんから、覚悟しておいてくださいよ。特に最初の半年はもう、もう他には何もしたくないくらいに、ずっと見ていたいくらいに可愛いですからね!」
そして拳を握りしめたリナさんは、真顔でそう言っている。
その言葉には全面的に同意しかない俺も、首がもげそうな勢いで何度も頷いたよ。ああ、俺の心臓、可愛さの過剰供給に耐えられるかなあ。
「何をしてるんだ。入らないのか?」
背後から声が聞こえて振り返ると、ハスフェルとギイ、それからランドルさんが部屋から出て来ていて、リビングの扉の前で立ち止まって話をしていた俺達を見て笑っている。
「いや、子猫が可愛いんだって話で盛り上がっていたんだよ」
力説する俺を見て、三人も揃って大爆笑していた。
「まあ、気持ちは分かる。あれは確かに可愛い」
ようやく笑いの収まったハスフェルの言葉に、もう全員揃ってまたしても首がもげそうな勢いで頷き合っていたのだった。
「さてと、お待たせ〜〜。じゃあ飯にしよう」
なんとか笑いを収めた俺達は、揃ってリビングへ入っていつもの席に座る。
「じゃあ、いつも同じで申し訳ないけど、色々出すから好きに食べてくれよな」
在庫の少なくなって来ているのを中心に、作り置きを色々と出しておく。
「おにぎりが食べたいから、色々出しておくか」
なんだか今朝はおにぎりの気分だったので、おかずになりそうな和食や鶏ハム、お味噌汁も出しておく。
「あ、だし巻きがもう無いぞ。じゃあこれも作っておかないとな」
ゆで卵や目玉焼きはまだあるんだけど、気がつけばだし巻き玉子が減っている。これは俺が好きなので切らしたくない。
何から作るか、今日の料理の手順を頭の中で考えつつシャムエル様用のタマゴサンドを小皿に取り、あとは自分用のおにぎりと鶏ハムをはじめ色々と取っていった。
ランドルさんがまた色々と出してくれていたので、いつものピリ辛な唐揚げもしっかり確保しておいたよ。
「じゃあ、まずはお供えだな」
スライム達が用意してくれた簡易祭壇のいつもの敷布の上に、取り分けた料理を並べていく。飲み物は緑茶を出しておいた。一応、シャムエル様用のタマゴサンドとホットコーヒーも一緒にお供えしておいたよ。
「おはようございます。今朝はおにぎりとそれに合うおかずにしてみました、少しですがどうぞ。ええと、おかげで子猫達もニニも元気一杯です。どうぞこれからもお守りください」
目を閉じて小さな声でそう呟く。
いつもの収めの手が俺の頭を何度も撫でてくれるのを感じて、不意に込み上げて来た涙をぐっと飲み込んだ俺だったよ。
ああ、シルヴァ達やレオ達に、実際に子猫を見てもらいたいなあ……きっと、大喜びしてくれるだろうになあ……。
手を振って消えていく収めの手を見送りながら、ぼんやりとそんな事を考えていたのだった。