マックスとビアンカは……?
「よし! じゃあもう休むからな。ニニはカッツェと子猫達と一緒にここで休んでくれよな」
もう一回子猫達を撫で回し、ニニとカッツェも撫でてやってから俺は自分のベッドへ戻った。今日の俺のベッド役担当の巨大化したティグが嬉々としてついてくる。
ベッドには、いつものようにマックスとビアンカが並んで待っている。
「ええと、それじゃあティグはここに横になってくれるか?」
いつもニニが寝ている場所をポンポンと叩くと、本当にいそいそって感じに巨大化したティグがベッドに上がってゴロンと横になった。
「これでいいですか? ご主人」
ティグの太い尻尾がゆらゆらと揺れる。
「ううん、こうして見るとニニとティグだと全然骨格が違うなあ。なんて言うかティグは骨が太い」
お腹にもたれかかるみたいにして横になった俺は、笑ってそう呟いていつもと違う寝心地に、まるで子猫みたいにその場でモゾモゾと動いてジャストフィットする位置を探した。
「あ、ここがいい感じだ」
なんとなくいい位置を見つけたのでそこに収まると、待ち構えていたマックスが俺を挟んで横になり、足元にはビアンカがくっついて収まる。
それを見たラパンとコニーのウサギコンビが俺の背中の定位置に収まった。
「今日は私〜〜!」
フランマとフラッフィーとタロンが、先を争うようにして俺の腕の中に飛び込んでくる。しばしの無言の場所取り合戦の結果、今夜はフランマが見事に俺の腕の中をゲットしたらしい。
悔しそうなフラッフィーが、モフモフ尻尾で俺の鼻先を叩いてからするりと逃げてベリーのところへ走って行った。
タロンは、少し考えて俺の顔の横にくっつくみたいにして丸くなった。
それを見てソレイユとフォールが慌てたように俺の頭の反対側へきてくっついた。
「勝ったわ!」
フラッフィーを見たフランマの得意げな呟きに、思わず吹き出した俺だったよ。
「では、明かりを消しますね」
笑ったベリーの声が聞こえた直後に、部屋の明かりが一斉に消える。
「ベリー、今日は本当にありがとうな。長老にも改めてお礼を伝えてくれるか。ベリーがいなかったら、俺、何をどうしていいのか分からず、きっと……きっとマニを助けてやれなかったと思う。本当に感謝してるよ」
顔を見て正面からお礼を言うのがどうにも照れ臭くて、明かりが消えたのをいい事にこっそりお礼の言葉を伝えた。
「どういたしまして。私も、とても勉強になりましたから、お礼は必要ありませんよ。それに一応、私も旅の仲間なんですから、私にとってもニニちゃんは大切な仲間なんですよ。まあ、もし次があればもう少し上手くやれるように頑張りますね」
俺の気持ちなんか全部お見通しなんだろう。笑ったベリーの言葉に俺も笑った。
「そうだな。それにしても、こんな調子で子供が増えたらちょっと大変な事になる気がするなあ。どうしたらいいんだろう?」
苦笑いしながらそう呟くと、ベリーがまた笑った。
「気持ちは分かりますが、少なくともニニちゃんとカッツェは当分は子育てに専念するでしょうから発情しませんよ。まあ、マックスちゃん達の方は、まだまだこれからと言ったところですかね」
面白がるようなその言葉に、俺は思わず起き上がってベリーの声がする方を見た。部屋はもう真っ暗なんだけど、目が慣れて来たみたいでベリーのぼんやりとした影くらいは見える。
「ええ、それってどういう意味? 発情期って毎年くるんじゃあないのか?」
俺の感覚だと、最低でも年二回は猫って発情していたような覚えがある。同僚の猫好きによると、健康なら下手したら毎月みたいに発情期が来る奴もいたなんて話も聞いた覚えがある。それで、ニニは早めに避妊手術をしてもらったんだっけ。
「まずリンクスは、猫と違って発情期は年に一度程度で、しかも非常に短いんです」
ベリーの説明に思わず目を見開く。
「へえ、そうなんだ」
「ええ、しかも受精率も決して高くはありません。ですので全体の個体数もかなり少ないんですよね。まあ、食物連鎖の頂点に君臨する子達ですから、そうそう数が増えてもらっては困るので、それくらいでバランスが取れているのだと思いますよ」
笑ったベリーの言葉に、カッツェをテイムした時の事を思い出す。
「そうか。カッツェをテイムした時に聞いたけど、雄は個体数も少ないし、かなり広いテリトリーがあるんだって言っていたもんなあ」
「そうですね。ですからニニちゃん達の場合は、あと数年は次の子供はまず産まれないと思ってもらっていいですよ」
ベリーの言葉に、密かに安堵する俺だった。
ちなみにマックスは、俺が引き取った時にはすでに去勢手術は終えていたんだよ。確か。
そんな事を密かに思い出しつつ、俺の横に転がって俺を見ているマックスに手を伸ばして撫でてやる。
「マックスとビアンカは、いつも一緒にいるみたいだけど、カップルとしてはまだまだなんだ?」
「そうですね。少なくともまだお友達と言うか仲間意識の方が強いようで、ニニちゃん達のように番として完成してお互い以外目に入らない風にはなっていませんよ。ですので、こちらはまだまだこれからに期待、と言ったところですね」
「そうかあ、頑張れマックス!」
笑ってマックスを撫でてやると、尻尾扇風機状態になったマックスが何故か大興奮状態で俺に飛び掛かってきた。
ついでに言うと、ビアンカまで大喜びで一緒に飛び掛かってきた。
「どわあ〜! 暗闇でいきなりはやめろって!」
マックスとビアンカの二匹がかりで、ティグのお腹に押し倒された俺は顔や手をベロンベロンと大きな舌で思い切り舐められて、情けない悲鳴をあげるハメになったのだった。
ううん、マックスは立派な雄の大人だと思っていたけど、実際にはまだまだ気分は子供だったって事なのかねえ……?