俺の寝る場所!
「じゃあ、改めておめでとうございます。当分の間、ケンさんはお城で留守番ですね」
「だよなあ。こんな可愛い子達を置いて狩りに出かけられるかって」
「俺もここにずっといたい〜〜うああ、どの子も可愛すぎる〜〜〜!」
草原エルフ三兄弟の、本音ダダ漏れの言葉に俺も遠慮なく吹き出す。
「あはは、確かにそうだな。うん、しばらく俺は留守番して引きこもるから、狩りに出かけるなら弁当ぐらい渡すよ」
「ありがとうございます!」
なぜか三兄弟だけじゃなくて全員の声が重なり、揃って大爆笑になったのだった。
笑顔で手を振ってそれぞれの部屋に戻る彼らを見送ってから、俺は改めて産室に横になっているニニを抱きしめた。
「ご苦労さん。どうだ? 子猫達は寝てるみたいだし、何か食べるか?」
しばらくの間抱きついてもふもふを堪能してから、顔を上げた俺はニニの顔を覗き込みながらそう尋ねた。
「そうね。じゃあ、もらおうかな。ハイランドチキンの胸肉に鰹節たっぷりでお願い!」
「はあい、ご注文承りました〜〜〜!」
笑ってそう言い、跳ね飛んで来てくれたサクラから、いつものニニ用のお皿にハイランドチキンの胸肉の塊を大きめに切ったのを出してもらい、そこにたっぷりの鰹節をふりかけてやった。
「はいどうぞ。あ、カッツェも食べるか?」
「ああ、そうですね。折角ですから少し頂きたいです」
ニニの横に座っていたカッツェがそう言うので、同じくカッツェ用のお皿にもハイランドチキンの胸肉を出して鰹節をここにもたっぷりとふりかけてやった。
仲良く食べるのを、俺はもう笑み崩れながら見つめていたのだった。
「ただいま〜〜〜!」
その時、ズサーって感じにシャムエル様がどこからともなく滑り込みながら戻ってきた。
「おかえり。それで、どうなったんだ?」
ニニがいなくなったのに気付いてまた起きたらしく、お互いに蹴り合いっこしながらモゾモゾし始めた子猫達を見て和んでいると、座った俺の膝の上でシャムエル様は得意そうに胸を張った。
「ふふ〜〜ん。頑張ったもんね〜〜! 感謝しなさ〜〜い!」
「はい、感謝するので、具体的にどうなったのか教えてください!」
シャムエル様を見ながらそう言うと、不意に消えたシャムエル様は一瞬で子猫達の側に現れた。
「ええとね、まず、今のこの子達は、完全な野生の状態じゃあなくて、ケンに確保された状態になっていると思って貰えばいいよ。ニニちゃんに紐付けされたままの状態だから、ニニちゃんのご主人であるケンにも紐付けされている状態だね。だから、とりあえずはこのままで大丈夫だよ。それでだいたい二十から三十日くらいで目が見えるようになって、だんだん意識が鮮明になってくるよ。まあ、まだまだ赤ちゃんの思考なんだけど、そこから更にひと月くらいでそれなりに言葉が通じるようになるからね。そうなったらもうテイム出来るよ。その辺は、ニニちゃんや他の子達になら分かるだろうから、気がついたらケンに教えてあげてね」
「へえ、それならふた月くらいか。さっきのリナさんの体験談よりも若干早めだな」
感心したようにそう呟くと、シャムエル様は子猫達を見てから笑った。
「ああ、それは、彼女が確保した時の以前のルルちゃんが相当弱っていたみたいで、その後もすぐには回復しなかったからなんだよね。だから、普通のリンクスよりもテイム出来るくらいまで育つにはかなりの時間がかかったみたいだね。だけどこの子達は栄養状態も抜群だし、しっかり身体も出来ているから。かなり早いと思うよ」
「成る程、よく分かりました。じゃあ、それまでは一緒に寝るのは我慢だな。あのピカピカの細い爪と、尖った牙にやられたら、子猫達に悪意が無くても、俺は間違いなくスプラッタになるよ」
笑って子猫の前脚をそっと手に取る。ニニに比べたらはるかに小さいとはいえ、この大きさではみ出したままの鋭い爪は、俺にとっては凶器以外の何者でもない
嫌がるように身をよじって転がったミニヨンが、マニを完全に下敷きにしてそのまま収まってしまった。
「フビャウ!」
嫌そうに鳴いたマニが、逃げようとするが大きな体に押さえ込まれて逃げられない。
「こらこら、マニを潰すつもりか?」
笑いながら何とかマニを救出してやる。
「フビャウ! フビャウ! フビャウ!」
また元気よく鳴き始めて、何故か俺の指を吸い始めるマニ。
「おいおい、そんなところを吸っても何も出ない、ぞ……ってか、くすぐったいって! ほら、お前のおっぱいはこっち!」
食べ終えて、満足そうにカッツェとお互いを舐め合っていたニニのお腹にマニを置いてやる。
モゾモゾと這い上がるみたいにしてニニのおっぱいを咥えて早速お乳をもらい始める。
「キャウ! キャウ! キャウ!」
「ピイ! ピイ! ピイ!」
ミニヨンとカリーノも、自己主張するかのように元気よく鳴き始めた。
「ニニ母さん、お子様達がおっぱいを所望しておられますよ〜〜〜!」
笑いながら、順番に二匹を抱いて二二のお腹に運んでやる。
すぐに元気よくお乳を飲み始める二匹を見て、俺はもう満面の笑みでただただ見つめていたのだった。
「あ、だけどそれなら子猫達に言葉が通じるまでは、さすがに俺はまだ一緒に寝ないほうが良いよな。万一、寝ぼけた子猫達に戯れつかれたりしたら、その瞬間に俺の異世界人生終わるって」
寝ていて、うっかりガブリで人生終了はマジでやめて欲しい。
「じゃあ、残念だけど俺が子猫達と一緒に寝るのはもうちょっと後だな。それまでニニのここは子猫達専用だ」
笑ってニニの額を何度も撫でてやり、一つ大きな欠伸をする。
「じゃあ、ここはニニとカッツェと子猫達専用って事で、俺はマックス達といつものベッドで寝るよ」
「そうね。確かにまだこの子達加減を知らないから、うっかりご主人に怪我をさせる可能性が高いものね。じゃあ、しばらくお別れね、ご主人」
苦笑いするニニの額にキスをしてからカッツェも撫でてやり、それからもう一回子猫達を順番に撫でてやった。
まあ、皆お乳に夢中で、全然無反応だったんだけどね。
「マックス! しばらくニニがいないからよろしくな」
「ご主人! それなら私がニニの代わりになります!」
俺の言葉に、猫族軍団が全員一瞬で巨大化する。
「うああ〜〜最高〜〜!」
もうどこを見てももふもふしかない。目を輝かせた俺は、腕を組んで考えた後に笑って手を打った。
「よし、こうしよう! まだ当分の間ニニは子猫達と一緒だから、俺は従魔達と順番に一緒に寝よう。さて、今日は誰のお腹で寝ようかなあ」
笑って一番大きな紙とペンを取り出した俺は、まずは一番下の部分に順番にニニの代わりになりそうな子達の名前を書いていった。
つまり、お空部隊と鱗チーム、ハリネズミのエリー、それからモモンガのアヴィ以外の子達だ。もちろんニニとカッツェも除外。ラパンとコニーは折角だから参加したいと言うので、ここのメンバーに入れておいた。
「ご主人! 私も参加したいで〜〜す!」
突然のフランマの乱入に、慌てて名前を追加した俺だったよ。
それぞれの名前から真っ直ぐに線を上側まで引いていき、横線を適当に入れてあみだくじを作る。見えないように真ん中部分を折りたたんでから、適当に選んで数字を1から書いていく。
興味津々の従魔達に見守られながら、あみだくじを仕上げて引いていった。
「一番はティグ〜〜〜!」
「わあい! って事は今夜一緒に寝て良いのね!」
巨大化したティグが、もの凄い音で喉を鳴らしながら俺に擦り寄ってくる。
「二番はヤミー! 三番がフラッフィ〜〜〜!」
順番に読み上げていく度に皆それぞれ大喜びしている。
俺もなんだか楽しくなってきて、寝る順番を決めるあみだくじは大いに盛り上がったのだった。