殺人毛玉爆誕!
「ふああ〜〜〜可愛すぎる〜〜〜〜!」
もうさっきからこれしか言っていない気がするんだけど構うもんか!
一つ深呼吸をしてからまた産室を覗き込んだ俺の顔は、もはや原型をとどめないレベルに笑み崩れているよ。
だって、それも無理ないだろう?
以前、リナさんがリンクスの子猫は殺人毛玉だって言っていたけど、今ならその意味がものすご〜〜くよく分かるよ。いやマジで。
これは確かに、動く殺人毛玉だ。見た人をことごとくキュン死に至らしめる、恐るべき生物兵器だよ。
ただの人間である俺なんかに、そんな恐ろしい生物兵器への耐久性能などあるわけもない。
なのでこれは不可抗力だ!
抗えないんだから、さらわれるしかない! 可愛いが交通渋滞をひき起こしているこの状態に!
さあ、今こそ怒涛の勢いで押し寄せる可愛いにこの身を委ねるのだ! 乗るしかないぞ。このビッグウエーブに!
「ああ、駄目だ。だんだん自分でも何言っているのか分からなくなってきたぞ……」
大混乱する頭を押さえながらそう言いつつ、いつの間にか垂れてきていた涎を拭き取った俺は、何とかして深呼吸でもして落ち着こうとした。
はあ、吸って〜〜吐いて〜〜〜もう一回吸って〜〜〜吐いて〜〜〜〜……。
「キャウ! キャウ! キャウ!」
「ピイ! ピイ! ピイ!」
「ウビャッ! ウビャッ! ウビャッ!」
しかし、顔を上げた拍子にニニの腹の場所取りをするかのように個性的な鳴き声を上げながらもじょもじょと動き回る子猫達が視界に飛び込んできて、また悶絶する。
「ああ、存在自体が可愛すぎる〜〜〜〜〜!」
またしても我慢出来ずに声を上げたところで、何やら香ばしい香りが漂ってきて不意に我に返った。
「あれ? 何の香りだ?」
振り返って見ると、俺の部屋に置いてあるテーブル式のコタツの上に、アーケル君達やランドルさんがそれぞれの収納袋から手持ちの料理を色々と取り出して並べてくれていたのだ。
ちなみにハスフェルとギイは、せっせと酒瓶を取り出しては並べている。
あれ? もしかして……。
「なあ、もしかしてそれって……夕食か?」
突然始まったニニのお産に付き合っていたから、俺は完全に飲まず食わず。食事の事なんて完全に頭からすっぽ抜けてたよ。
チラッと見えた窓の外は、また雪が降り出しているみたいだけど大した量じゃあない。
そして、まだまだエンドレスにどんどん増え続ける作り置きの料理の数々。
「あはは、ごめんごめん。全然気がつかなかったよ。ありがとうな」
素直に謝って俺もコタツの方へ行こうとした時、またしても響き渡る子猫達の鳴き声。
「キャウ! キャウ! キャウ!」
「ピイ! ピイ! ピイ!」
「ウビャッ! ウビャッ! ウビャッ!」
「うああ〜〜〜〜〜可愛すぎる〜〜〜〜〜!」
そして、またしてもその場で可愛さのあまり悶絶する俺。
「はい、ケンさんはそこで好きなだけ子猫達を見ていてください」
笑ったアーケル君の声と同時に、大きなお皿に山盛りになった料理が差し出される。
「お、おう、ありがとうな」
「お酒はこれですよね?」
声と同時に、冷えた白ビールと大きなグラスが差し出される。
「まあ、今日は乾杯してもいいよな」
笑顔で頷き合った俺は、ささっと鞄に入ってくれたサクラから、小さい方の机を取り出して横に組み立てた。
料理とお酒は一旦そこへ並べておき、冷えたビールの栓を抜く。
「じゃあ、乾杯はケンさんにやっていただきましょう」
オリゴー君とカルン君の声に、ビールを持った俺は立ち上がった。
「ええ、それでは僭越ながら。無事に生まれてきてくれた子猫達と、頑張ったニニに、乾杯! 愉快な仲間達バンザ〜〜イ!」
満面の笑みの俺の言葉に、笑った全員の声が重なる。
って事で、とりあえず乾杯して、冷えたビールを一気に飲み干す。
「くああ〜〜美味い!」
「キャウ! キャウ! キャウ!」
「ピイ! ピイ! ピイ!」
「ウビャッ! ウビャッ! ウビャッ!」
「ううん、子猫の鳴き声をBGMに祝杯をあげる。良いねえ。良いねえ」
笑ってそう呟いた俺は、自分で収納している白ビールをもう一本取り出した。当然そのまま栓を抜いておかわり〜〜〜!
「はあ、空きっ腹に飲むのは駄目だよな。よし、食おう! あ、だけどその前に……」
食べようとして、ふと思い出して慌てる。
「カッツェ、怪我の具合はどうだ?」
立ち上がった俺は、ニニの側にずっとくっついたままだったカッツェに声をかけた。
「まあ、痛くないといえば嘘になりますが、これくらい舐めておけば治りますよ」
産室から笑った声が聞こえて、俺も笑顔になる。
「格好良かったぞ。ニニと子猫達を守ってくれてありがとうな。名誉の負傷だけど治療させてくれよ」
貴重な万能薬だけど、ここは使っても許されるだろう。
一応、ハスフェル達の方を横目で見てみると、笑顔の二人にシャムエル様まで加わって揃ってサムズアップをしてくれた。
ちなみにシャムエル様の位置は、当然だが料理が山盛りになっているお皿の横だよ。
「ほら、怪我しているのはどこだ?」
ゆっくりと立ち上がって出てきてくれたので、産室の外で、噛まれてたところにせっせと万能薬を垂らして塗り込んでやった。
ちょっとだけ出ていた血も、サクラとアクアが一瞬で綺麗にしてくれたよ。
「ええと、ニニは何か欲しいものはあるか?」
いつの間にか鳴き声も止んでいて、見るとニニのお腹に潜り込んだ子猫達は三匹揃って熟睡中だ。
「うああ、これまた可愛い〜〜〜〜!」
三匹とも毛の長さに差はあれども産毛が妙に力強く立っていて、全体にツンツンしている。
「今はいいわ。また後で鰹節付きのハイランドチキンをもらうわね」
大きな欠伸をしたニニは、そう言って子猫達を順番に舐め始めた。
「キャウ、キャウ、キャウ……」
「ピイ、ピイ、ピ……」
「ウビャッ! ウビャッ! ウビャッ!」
先の二匹は半ねぼけで鳴き返している感じだけど、あの三匹目のちびっ子は突然目が覚めたのかまた力一杯鳴き始めた。
「お前元気だなあ。腹一杯になったのならちょっと寝ていろよ」
思わず手を伸ばして、子猫達を順番に撫でてやる。
ああ、殺人毛玉……。
もうこれから先、毎日が俺の理性がどこまで耐えられるかの耐久レース状態な気がするぞ。
しかも、どう考えても勝てる要素が一つも無いぞ。
諦めのため息と共に苦笑いした俺は、三匹目のチビミケを何度も撫でてやったのだった。
ああ、可愛い……可愛すぎるぞ〜〜〜〜!