三匹目の驚き!
「痛い痛い! だ〜か〜ら〜! 俺の顔を蹴るなってば〜〜!」
俺の腕の中でジタバタと力強く暴れる子猫。
さっきまで死にかけていた事なんて冗談としか思えないくらいに元気いっぱいだ。
「痛い痛い!」
抱き直そうとしてはまた蹴られて、あまりの元気さに泣き笑いの俺は怒るやら喜ぶやら俺はもう何が何だかわからなくなって表情筋が大忙しだ。
「ご主人、綺麗にするね〜〜子猫ちゃんも〜〜〜!」
その時、いつものサクラの声が聞こえて一瞬で包まれ、元に戻った時にはサラッサラになっていたよ。相変わらず良い仕事するねえ。
そして、俺の腕の中で絶賛大暴れ中の子猫も、ピカピカのサラサラのふわふわになっていた。
「あはは、何だこれ。お前、面白い模様だなあ」
さっきまでは助ける事に夢中で子猫の模様なんて見る余裕は無かったんだけど、冷静になって改めて子猫を見てみた俺は、予想外の面白さに思わず力一杯吹き出したのだった。
まず、この子は短毛種のカッツェの血を受け継いだみたいで、見る限りほぼ短毛種の短い毛だ。だけど毛はふわふわの三毛みたいだ。って事は女の子確定。
そして、俺が吹き出した最大の要因は、いわゆるズラヘッドだ。何しろ、三毛の黒い部分が頭の上部から両耳の辺りにまで広がっているので、正面からだけでなくどこから見ても完全にカツラ状態。しかも飛び出している耳は白っぽいまだら模様だから、さらにカツラっぽく見える。
そして最大の爆笑ポイントが、鼻の横にポツンとある鼻くそ模様……。
しかも鼻の穴の中から外まで続いているもんだから、もうどこから見ても鼻くそ以外の何ものにも見えない!
「お、女の子なのに鼻くそ模様って……」
もう一回吹き出してから、なんとか抱き直してニニのお腹に置いてやった。
「ほら、お前もおっぱいもらっておいで」
うつ伏せの状態で置いちゃったところでもう一回吹き出す。
普通の三毛だと思っていた背中は、ほぼ全身が白くて右肩の横と左のお腹の横辺りに、それぞれまん丸な形をしたやや濃いマダラの縞模様があった。なんとも個性的な模様の子だよ。
「模様は個性的だし小さいけど、お前も可愛いなあ」
笑いながら背中を撫でてやる。
子猫はモゾモゾとしばらく暴れていたが、おっぱいに気がついたみたいで夢中で吸い始めた。おお、リアルふみふみいただきました〜〜!
「はあ、これでもう大丈夫だな。ええと……」
そこまでやって、俺は部屋が静まり返っている事に気が付いたよ。
戸惑いつつ振り返った瞬間、リナさんの甲高い歓声と野郎達の低い歓声、そして拍手大喝采になった。
「ケン! す、素晴らしい! 素晴らしいです!」
そして、目を潤ませたベリーがそう言いながら突然俺に飛びついてきた。そのまま抱きしめられる。
「私は、私は、無理やり引き出したあの子がぐったりとして息をしていないのを見た時、もう助ける事を完全に諦めていました。それなのに貴方は、貴方は……」
「いや見事だった。貴方の素早い決断力と勇気に、心からの賛辞を贈ります。まだまだ我らには知らなければならない事が数多くありますね。我らも良き経験をさせていただきました」
そして満面の笑みの長老の言葉に、俺はその場にヘナヘナと座り込んだ。
「あはは、とにかく助けようと必死だったもんで……今更ですが、腰が抜けたかも……」
座り込んで床に手をついて力無くそう言って笑う俺の言葉に、全員揃っての大爆笑になったのだった。
「いやあ、大騒ぎだったが無事に生まれてよかったよ」
なんとか復活して立ち上がった俺の言葉に、笑顔のハスフェル達が揃ってサムズアップをしてくれた。リナさん一家は、産室の入り口に集まって中を覗き込んでいる。
「いやあ、無事に生まれてよかったねえ。間に合った!」
その時、突然俺の右肩にシャムエル様が現れて、笑ってそう言いながらバシバシと俺の頬を叩いた。
「お、おう。なんとか無事に生まれたよ。それで、何だかよく分からないけど手伝ってくれていたんだって?」
小さな声でそう言うと、シャムエル様は笑いながらうんうんと頷いた。
「一応、レオにも知らせて見守ってもらえるようにしていたんだ。だけどなんだか急に産気づいた上に初めてのお産だった事もあって、ちょっと色々とニニちゃんがよくない状態になっていたみたい。だから急いでレオにお願いして、急遽追加で彼の守護と守り、それから彼の眷属の一人で動物の繁殖を守る神にも追加で守りをお願いしたの。間に合ってよかったよ。それに、ケンの機転にも助けられたね。ありがとうね」
笑ったその言葉に、俺はようやく安堵のため息を吐いた。
「そっか、レオにも改めてお礼を言わないとな。シャムエル様もさすがだな。ニニの為に動いてくれてありがとうな」
そう言いながら笑ってもふもふの尻尾をそっと指で撫でるみたいに触る。これはシャムエル様が怒らない触り方だもんな。
「ふふん、もっと褒めてもいいのだ。向こうにいる彼らなら、少しくらいは個別のお願いも聞いてもらえる事があるからね」
得意げに胸を張るシャムエル様の言葉に、俺もなんだかおかしくなって両手でシャムエル様を捕まえてやった。
そっか、こっちの世界にシャムエル様自身は手出し出来ないって言っていたけど、向こうにいる神様である彼らなら、少しくらい守ってくれたりする事も出来るんだ。
「お祝いのもふもふ〜〜〜!」
仰向けに抱いたシャムエル様のお腹に、心底安堵した俺はそう言って顔を埋める。
力一杯蹴り返されたのは、言うまでもない。
「ケン! こ、これは……」
シャムエル様に蹴られて仰け反っていた俺は、あの小さな三毛の子猫を抱いたベリーの大声に慌てて起き上がった。
「何! まだ何か問題あったか?」
素人の俺には分からなかったけれど、もしかしたら何か重篤な問題が隠されていたとか?
思いっきり焦った俺は、シャムエル様を引っ掴んだままベリーのところへ駆け寄る。
「ケン、この子は……」
「何? だからなんの問題? 病気? 万能薬とかでは治らないやつ?」
本気で泣きそうになりつつそう叫んだ俺に、ベリーが子猫を後ろ向きにさせて何故かお尻を見せてきた。
「ええと、よく分かりませんが……?」
「生まれたばかりの子猫の性別は、よく分からない事が多いのですが、この子は恐らく男の子です。三毛の雄猫なんです!」
目を輝かせてグイグイと子猫のお尻を俺の目の前に押し付けてくるベリーの言葉に、手でガードしつつ俺も驚きの声を上げたのだった。
ベリー、珍しい発見に興奮するのはわかるけど、頼むから子猫の尻を顔にくっつけるな。