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二人の乗船券と恐竜ジェムの買い取り

「お待たせしました。じゃあまずは苦労して確保した、無期限乗り放題乗船券だよ。こちらに右の掌を当ててくれるかい。登録するからね」

 そう言ってナフティスさんが持って来たのは、冒険者ギルドに初めて登録した時に使ったのと同じ、あのコピー機みたいに光る石の板だった。

 頷いたハスフェルが手袋を外して板に乗せる。

 布を被せてナフティスさんが手元で何かすると、前回と同じように石が左から右にゆっくりと光って移動していった。そして、板の横からペロッと一枚のカードが出て来たのだ。

「はい、これがハスフェルの分だよ。念の為ここにサインを頼むよ」

 俺は感心して、裏側にハスフェルがサインをするのを黙って見ていた。


「へえ、前回は驚き過ぎて殆ど見なかったけど、本当に指紋をスキャニングしているみたいだ。あれどんな仕組みになっているんだろうな?」

 小さく呟いたが、さすがに仕組みは聞いても分からなさそうだ。


 それから、ハスフェルはサインしたカードと一緒に自分のギルドカードを取り出して、もう一度二枚揃えて渡した。

 ナフティスさんは、また違う箱の隙間に二枚のカードを揃って差し込む。

 しばらくすると、またペロッとカードが出て来た。

「はい、これで手続きは完了だよ。ギルドカードに連結しておいたから、万一紛失などがあった場合には、速やかにどちらかのギルドに連絡を頼むよ」

「了解だ。手間を掛けさせてすまなかったな。感謝するよ」

 ガッチリと握手を交わした二人は笑顔で頷き合っている。

「じゃあ、ケンも座ってくれるかい。右手の手袋は外してね」

 さっきの石の板を出されたので、俺も手袋を外して板の上に乗せた。

 布を被せて、石が左から右に中でピカーっと光るのを眺めていた。

 出て来たカードの裏にサインをしてから、俺も渡していたギルドカードに連結してもらった。



「じゃあ、まずはこれで乗船券の手続きは終了だよ。乗る際にはこのカードを受付で見せてくれれば良いからね。船によっては、指紋の確認をさせてもらう場合があるから、申し訳ないんだけど、その際には協力をお願いするよ」

「指紋の確認って?」

「今やったように、確認の石版に手を置いてもらうだけだから、どうか協力しておくれ。唯一、それだけが乗船券を発行するに当たっての、全員の一致した意見だったんだ」

「ええと要するに、別の人物に乗船券を使われないようにするための用心って事?」

「まあ、ぶっちゃけて言えばそう言うことになるね。例えばの話、盗難された場合以外にも……気を悪くしないで欲しいんだけど、君が金を積まれて誰かに乗船券を売り飛ばさないとも限らないでしょう。ほかのギルドの長達も、ハスフェルと、彼が認めた人物への協賛なら喜んで協力するが、それ以外の人に悪用されるのは困るんだって言ってね、それで妥協点が、こちらからの人物確認に同意してもらうって事だった訳」

 申し訳なさそうに言われて、俺はハスフェルを見た。彼も俺を見ている。

「俺は別に構わないよ。ってか、本人確認は当然だと思うけどな」

「なら問題無い。こちらは調べられて困る事など無いからな。喜んで同意するよ」

「ありがとう。じゃあそう言う事で頼むよ。それじゃあもう一つのジェムの買い取り金額だよ。ブラウングラスホッパーのジェムが一万個と、亜種が五千個だったね。どれも状態は良かったので、こちらが一つにつき金貨12枚、亜種は金貨40枚を付けさせてもらったよ。なので、合計金貨320,000枚になりました。って事で、これが明細だ」

 呆然と明細を受け取ってから、金額欄にとんでもない金額が並んでいるのを見て思わず立ち上がった。

「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。乗船券代は? ちゃんと払いますから取ってくださいよ。ジェムの買い取り金額を全額もらったら、俺達二人分の乗船券代、払ってない事になりますよ!」

 払う気満々でそう叫んだんだけど、ナフティスさんはにっこりと笑って首を振った。

「そもそもこの無期限乗り放題の乗船券は、一部の有力貴族や王族など、特別な人物にしか渡していません。そして、当然それらの人達から、乗船券代など頂いた事はありません。まあ言ってみれば、これは船舶ギルドにとって利のある、こちらにとって大切にしたい人へ贈る、いわば贈り物なんですよ。まあ、ハスフェルに関してはもっと早くに贈るべきだったとの意見が多数でしたけどね」

「ええ、そんな……」

「良いのか?じゃあ遠慮無くもらう事にするよ」

 平然と答えるハスフェルを見て、俺も小さく頷いた。そして決めた。やっぱりあの大量の恐竜達のジェム、絶対引き取ってもらおう。出来ればサービス価格で!


 ハスフェルが何か言いたそうにしているので、俺は念話で確認した。

『なあ、恐竜のジェム、トライロバイトとイグアノドン、ラプトルと、ステゴザウルスまでなら良いよな?』

『まあそうだな。何か聞かれたら、俺が手伝ったって言っておけ』

『ありがと。じゃあそうさせてもらうよ』


 念話で答えてから、俺はナフティスさんに改めて向き直った。


「じゃあ、感謝のジェム大放出しますんで、引き取ってもらえますか?」

「何でも喜んで買うよ。何があるんだい?」

「実は、洞窟でハスフェルに協力してもらって大量のジェムを確保してきたんです」

「洞窟って事は、恐竜?」

 頷く俺を見て、ナフティスさんは身を乗り出した。

「何があるのか聞いて良いかい? 君が良いだけ買い取るよ」

「ええとまずブラックトライロバイト、これは亜種と亜種の角もあります。正直言って大量にあるのでどうしますか?」

「なら、二百、亜種は……百買おう。角は混ざっているのかい?」

「ええと、ちょっと待ってくださいね」

 足元に置いた鞄にこっそりアクアに入ってもらい、まずはジェムを取り出す。

「角ってどんな状態?」

「こんなのだよ」

 一通り出してもらったら、角は全てバラバラになっていて、どれがどれだかは分からないらしい。

「ええと、こんな状態なんですけど、構いませんか?」

「トライロバイトは二本角の奴と、三本角の奴、それから五本角のがいるからね、構わないよ、どうせ加工する時にはバラバラにするから手間が省けて有難いよ。それなら角は二百本もらおう」

「次はブラックイグアノドンですね、亜種もあります。亜種の素材は爪です」

「ちなみに、他には何があるのか聞いて良いか?」

「ええと、ブラックラプトルと亜種、これも素材は爪ですね。それからブラックステゴザウ……」

「ブラックステゴザウルスを狩れたのか!」

 立ち上がったナフティスさんは、ものすごい勢いでそう叫んで身を乗り出してきた。

「有りますよ。あの……」

「まさか亜種も?」

「有りますよ。ええとこれの亜種の素材は、背板ですね。大きさは大小有ります」

「待ってくれ。ちょっとだけ待っててくれ! 確認してくる!」

 深々と頭を下げたナフティスさんは、いきなりそう叫んで部屋を飛び出して行ってしまった。

「やっぱりこうなったか。まあ、気にするな」

 平然とハスフェルが笑ってそう言っているのを聞いても、俺はちっとも安心出来なかった。


 ジェムを引き取ってもらうのに、一体何があるっていうんだよ?


 しばらくすると、ナフティスさんは、満面の笑みで戻って来た。

「お待たせしました。いやあ、ちょっと取り乱してしまいましたよ。ジェムの種類は以上でしょうか?」

 ちらりとハスフェルを見ると、苦笑いして首を振られた。

 まあそうだよな。これでティラノサウルスのジェムがあるなんて言ったら、絶対ナフティスさん、泡吹いて倒れるよ。

 どうやら、買い取り資金が大丈夫か予算部に確認に行っていたらしい。まあ当然だよな。

 そして、恐竜のジェムや素材は、何と飾り物としても需要が高いらしい。


 へえ、ジェムにもいろんな使い方があるもんだね。



 相談の結果、何とか引き取ってもらうジェムの数が決まった。

 ブラックイグアノドンは50個、亜種は30個、爪は60個。ラプトルは、それぞれ30個ずつと爪も60個。そしてブラックステゴザウルスは以前から欲しいと言う話が来ているらしく、50個ずつと背板も大小いろいろ200枚、これだけ引き取ってもらう事になった。


 数えながら、それぞれのジェムを取り出していく。

 いやあ、どれもこれもデカい!

 もう一度一緒に数えてから、預かり明細を貰った。

「あ、これの代金もギルドの口座にお願い出来ますか?」

「了解しました、ではそのように計らいます」

 って事で、満面の笑みのナフティスさんに見送られて、俺達はギイとクーヘンの待つロビーへ向かった。



 はあ、何だかものすごく疲れた気がするのは気のせいじゃないよな?

 歩きながら、横を歩くニニの首に縋り付いて顔を埋める。

「ああ、やっぱりこのふかふかが一番癒されるよ……」

 そう呟いて顔を上げて深呼吸した俺は、呆れたようにこっちを見ているハスフェルに笑って誤魔化してから、こっちに気付いて手を振るクーヘンに手を振り返した。


 さてと、この後は道具屋に行ってから昼飯かね?

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