三毛ちゃんと虎柄っ子!
「ええ、ちょっと待って! 子猫って一匹じゃあないのか!」
俺が思わずそう叫ぶと、背後から吹き出す声が聞こえた。
「街にいる猫だと、結構多産だよなあ」
「ああ、確かにそうだなあ。子猫をぞろぞろ引き連れて歩いている母猫を見た事が何度もあるなあ」
笑ったハスフェルとギイの言葉に俺も頷いたよ。確かに子猫ってたくさん生まれるイメージがある……。
「確かに。一匹って事はあまり無いと思うぞ」
「最低でも二、三匹」
「多いと五、六匹なんて事もあるからなあ」
草原エルフ三兄弟の面白がるような言葉に、俺の脳内にもふもふな子猫が団体で押しかけてきたよ。
「ああ、駄目だ。そんな事になったら正気を保てる自信が無いって……」
笑み崩れる俺の呟きに、また背後から吹き出す声が聞こえた。
「ケン、まずは最初の子ですよ。ほら。抱いてあげてください」
笑ったベリーがそう言い、小屋の中から立ち上がって子猫を抱いて来てくれる。
小屋の入り口のところで手渡されたそれを見て、俺はもう歓喜の声を上げるしかなかったよ。
手渡されたそれは中型犬くらいの大きさで、あの大きなニニから産まれたにしては意外なくらいに小さい。しかも、なんというか……猫っぽくない。正直に言うと、なんか丸くてもこもこしていて別の生き物みたいだ。
「ピイ! ピイ! ピイ!」
全然猫っぽくない鳴き声のその子猫を、俺はなんとか抱き上げて顔を見てやる。
おお、若干歪んだハチワレ模様だ。七三分けっぽい。
「あれ? なんか変だと思ったら、この子の耳の位置が変なのか」
抱き上げた子猫を正面から見て違和感の正体に気がついた。
普通なら頭の上側の左右にとんがった大きな三角の耳があるのが普通の猫なんだけど、子猫の耳は明らかに顔の両横に出ている。しかも耳が明らかに小さい。
「ええ、こんな場所に耳があるって大丈夫なのか?」
思わず右から左から耳の位置を確認してそう呟く。
「ああ、それは大丈夫ですよ。生まれたばかりの子猫なら耳の位置はそんな感じですからご心配なく。もう少し大きくなれば、ちゃんと親猫と同じようになりますからね」
笑ったベリーにそう言われて、安堵のため息を吐いた俺だったよ。
だって、生まれたての子猫なんて、俺は見るのも触るのも初めてなんだってば。
ちなみに子猫の身体はスライム達が全部綺麗にしてくれているので、もうふわふわの毛並みだ。
この子はニニと同じくらいに毛が長い。そしてこの子は三毛っぽい。若干色は薄めみたいだけどさ。これって薄三毛っていうんだっけ?
「って事は雌だな」
小さくそう呟いて、動き回って落ちそうになるのを抱き直してやった。
まだ目も開いていない子猫は、なんだかふにゃふにゃで抱いていると落としてしまいそうだ。
暴れる子猫をもう一回抱き直して、俺はその場に座って膝の上に意外に小さな子猫を乗せてやった。
「おお、指〜〜〜!」
モゾモゾと動き回っていた子猫は、不意に俺の手の存在に気がついたみたいで、いきなり俺の親指を口に含んで吸い始めたのだ。
「うああ、くすぐったい!」
まだ歯も生えていないので、なんだか不思議な感触だ。
モゾモゾと俺の腕の辺りに前脚を突っ込みながら指を吸う子猫の可愛さに、俺のライフはもう一瞬で一桁になったよ。
あ、冗談抜きで鼻血でそう……。
「はい、ではそろそろニニちゃんのお腹の横に置いてあげてください」
笑ったベリーにそう言われて、俺は名残惜しい気持ちをグッと堪えてニニのお腹の横に子猫を置いてやった。
嬉しそうに喉を鳴らしながらニニがせっせと子猫を舐め始める。
ニニの顔の横に座ったカッツェは、またせっせとニニを舐め始めている。
しばらくの間子猫を舐めるニニの様子を、俺達はもう全員笑み崩れてただただ見つめていた。
だけど、だんだんニニの様子が変わってきた。時々ビクって感じに体を動かしたり、前脚で空をかくような仕草を見せ始めたのだ。
そして、時折声を上げて鳴き始めたのだ。
「ええと、もしかして……そろそろ二匹目?」
小さな声で俺がそう尋ねると、笑顔のベリーが大きく頷いた。
俺の背後からも堪えきれない歓声が聞こえた。
「それじゃあ邪魔しないように、また俺は外にいるよ。頑張ってくれよな。ニニ」
手を伸ばしてニニの顔から首元を撫でてやってから、俺は小屋の外へ出て置いてあった椅子に座った。
ちなみに従魔達の反応なんだけど、マックスとビアンカは俺が一匹目の子猫を抱いている間中、大興奮状態でキュンキュン甘えるみたいに鳴いて横から離れなかった。
そして猫族軍団は、子猫には反応せずに全員が小屋の中へ入っていて、ニニの周りに集まって交代でずっとニニを舐めてやっている。
ニニも嫌がる様子を見せていないので、多分あれでいいんだろう。
そして、また次第にニニが苦しがるそぶりを見せ始めた。
「うああ、見ているこっちがしんどくなる。頑張れニニ!」
両手で自分の腕を抱き締めるみたいにしながら、俺は見ている事しか出来ない。
多分、一匹目を産んでからもう一時間以上経っていると思うんだけど……。
「キャウ! キャウ! キャウ!」
不意に、さっきよりもはるかに元気な大きな鳴き声が部屋に響き渡った。
「おめでとうございます! 二匹目ですよ! これは元気いっぱいですね」
笑ったベリーの声に、拍手喝采になる。
「キャウ! キャウ! キャウ!」
「ピイ! ピイ! ピイ!」
二匹目の子の鳴き声につられたのか、ちょっと静かになっていた一匹目の子までまた大声で鳴き始めた。
「キャウ! キャウ! キャウ!」
「ピイ! ピイ! ピイ!」
「二匹目の子は、男の子のようですねえ。ああ、これも可愛い」
しばらくゴソゴソしていたベリーが、二匹目の子を抱いて連れてきてくれる。
「うわ、さっきよりデカいって!」
明らかに一匹目の子よりも大きい。そしてこの子の毛並みはカッツェからもらったみたいで、綺麗な薄茶色の虎柄だ。やや毛は長め。
「うああ、これも可愛い!」
はい! って感じに渡されて慌てて受け取り、あまりの可愛さにまたしても撃沈……。
「キャウ! キャウ! キャウ!」
「ピイ! ピイ! ピイ!」
腕の中でもがきながら鳴いている大きな子猫と、ニニの腹に潜りながら鳴いている一匹目の子。
もう可愛さのあまり理性が崩壊して笑み崩れている俺達は、全員揃って目の前の二匹に目が釘付けになっていたので、小屋の中でベリーと長老が揃って妙に慌てているのに全く気が付かなかった。
うん、この後……大変な事になったんだよ……。