寝坊した朝と今日の密かな予定
翌朝、俺は久し振りに誰にも起こされる事もなく目を覚ました。
「ふああ〜〜よく寝た」
いつものもふもふなニニの腹から這い出した俺は、気の抜けた欠伸の後にそう呟いた。
しっかりと睡眠をとったおかげか、なんていうか全体に体の疲れが綺麗さっぱり消えてなくなってる感じがする。
「ニニのおかげだな。いつも寝かせてくれてありがとうな」
起き上がった俺は小さくそう呟いて振り返ると、同じく俺がいなくなったおかげでようやく起き上がれたニニが思いっきり伸びをしているところだった。
「あはは、すっげえ伸びるな。さすがは猫」
笑ってそう言い、見るからに膨れた大きなお腹を横から手を伸ばしてそっと撫でてやった。
「やっと起きたね。もうお腹ぺこぺこなんですけど〜〜!」
またくっついてきたニニを撫でてやりながら、ベッドに座ったまま放心していた俺の膝の上に唐突にシャムエル様が現れ、少々不機嫌な様子でダンダンと足踏みをする。
「もしかして、俺ってまたそんなに寝過ごしたのか?」
元々今日はおやすみにしていたから、起きる気は全然なかったんだよなあ。
苦笑いしつつそう尋ねると、呆れたようなため息を吐いたシャムエル様は今は俺の背中側になっている窓の方向を指差した。
「今、どこに太陽があるか見てごらん?」
呆れたみたいにそう言って、もう一度これ見よがしのため息を吐かれてしまった俺は、寝坊した自覚だけはしっかりとあるので立ち上がって素直に外の様子を見に行った。
「うわあ、めっちゃ綺麗な青空〜〜〜うわあ、すっげえ。真っ青だ〜〜〜!」
一気にカーテンを開いた俺の目に飛び込んできたのは、見事なまでに青と白だけの世界だった。昨日とは打って変わって快晴だよ。
そして冬の薄い影は、木々の真下に落ちている。
「おお、もう完全に昼じゃんか。うん、飯は朝昼兼用だな」
苦笑いしてそう呟いた俺は、まずは顔を洗いに水場へ向かった。
「うひゃあ! 相変わらず水が冷たいよ〜〜!」
わざわざ顔を洗うためだけにお湯を用意するのも面倒なので、毎回文句を言いつつも冷たい水で顔を洗うのは、実は俺も楽しんでいるんだよな。
「ご主人綺麗にするね〜〜!」
跳ね飛んできたサクラが、一瞬で俺を包み込んで綺麗にしてくれる。ちょっと伸びかけていた髭まで完璧に元通りでサラサラの艶々だよ。サクラは相変わらずいい仕事するねえ。
「いつもありがとうな。ほら、行っておいで」
そのまま捕まえて、いつものごとく水槽の中へフリースローで放り投げてやる。
それを見て次々に跳ね飛んでくるスライム達を、空中キャッチしては、そのままフリースローで水槽へ放り込んでいった。
「ご主人、待ってくださ〜〜い!」
最後の一匹だった雪スライムのアワユキを捕まえた時、そのアワユキが慌てたようにそう言って俺の腕に一瞬だけ巻きついたのだ。まるで投げられるのを拒否するみたいに。
「おう、どうした?」
慌てて投げるのをやめて、そう言いながらアワユキを覗き込んでやる。
うん、大丈夫そうだ。見る限り、別にどこか怪我をしているとか熱があるわけでは無さそうで密かに安心したよ。
「ええとね。外の子達とベリーから伝言です。昨日と今日、テイムしてもらう予定だった子達がすっごく残念がっているんだって。だから後でいいので、今日の予定分の数だけでいいから、少しでもテイムしてもらえませんかってさ」
直訴するその言葉に、昨日の出かける前にケンタウロス達に雪スライムのテイムをしてあげていない事を思い出した。
「ああそうか。確か事前に勝ち抜き戦とかをやって、どの子がテイムしてもらうのかを雪スライム達は決めてるんだって言っていたなあ。それなのに朝を待っていよいよテイムしてもらえるって時に、突然俺達が全員いなくなっちゃったわけだから、そりゃあテイムの順番待ちをしていた子達にすれば、どうしてだよ! って言いたくもなるか。それは焦っていたとはいえ悪い事したなあ」
納得した俺はそう呟き、いつの間にかマックスの頭の上に収まっていたシャムエル様を見た。
「なあ、ちょっと質問なんだけどさ。今の俺ってどれくらいの数までならテイム出来るか分かる?」
身繕いをしていたシャムエル様が、俺の言葉に手を止めてこっちを見る。
「ううん、そうだねえ。一応、今は二十匹くらいって事に対外的にはしてあるんだけど、今のケンの本気なら……そうだねえ……スライムなら一日に六十匹くらいはテイムしても余裕だね。だけどそれ以上は、いきなり体のどこかに不調が出る可能性があるから、絶対にやっちゃあ駄目だよ」
少し考えたシャムエル様が、具体的な数字を出して教えてくれる。六十匹かあ。俺が思っていたのよりも案外多くて驚いたよ。
「へえ、そんなにテイムしても大丈夫なんだ?」
「だ〜か〜ら〜! これはあくまでも、私が作った規格外に頑丈で丈夫なケンだからこその数字なの! 他の人は絶対に真似しちゃあ駄目な数字です!」
短い両手でばつ印を作りながらのシャムエル様にそう断言されてしまい、苦笑いする俺だったよ。
「了解。無理はしないって。だけどそれならテイム予定の先頭の子から六十匹と、受け取るケンタウロス達にここへ、俺の部屋まで来てもらえばいいよな。この部屋ならリナさん達やランドルさんの目も無いから、遠慮なく本当の上限までテイム出来るよな。あ、長老がクロッシェを見たがっていたけど、今ならここへ来てもらえるけど、長老の予定ってどうなってるんだろう?」
『ありがとうございます! それなら、後程テイムしていただく予定の子達と一緒にお部屋へ伺います!』
俺が長老の予定をベリーに聞くべきか考えていたところで、唐突にベリーからの嬉しそうな念話が届いた。
『おう、びっくりした。おはよう、ベリー。じゃあ時間はいつでも構わないから、後で部屋まで来てくれるか。俺はもう今日はのんびり休憩にする予定だからさ』
『分かりました。ではお手数ですが、よろしくお願いしますね』
『はあい、じゃあ待ってるよ〜〜!』
笑ったベリーの返事に俺も笑いながら念話を返し、捕まえたままだったアワユキを見事なフリースローで水槽へ放り込んでやったのだった。
よし、今のは完璧だったぞ。




