ようやくの帰宅とカッツェの事
「ありがとうございました! おかげで楽が出来ましたよ」
「こちらこそ、お世話になりました!」
笑顔で手を振り道具の後片付けを始めたダグラスさん達に別れを告げた俺達は、広くなったアッカー城壁の向こうへ、いつもの通りに巨大化したセーブルとヤミーとティグを先頭にして隊列を組んで一気に駆け出していったのだった。
「どわあ〜〜〜待って待って! マックス、ステイ〜〜〜!」
しかし飛び込んでいった雪原には、思っていた以上のとんでもない量の新雪が降り積もっていて、敷地内を走り出した途端、飛び散らかった雪のせいで目の前が全部真っ白になってしまい、悲鳴をあげた俺は慌ててマックスを止めようとした。しかし、俺の指示が聞こえているだろうに全くスピードを落とさずに走り続けているマックスが、何故かもの凄く嬉しそうに首をめぐらせて後ろを振り返った。
「ご主人、何を無茶な事を言ってるんですか! こんな新雪の中でいきなり止まったら、それこそ崩れてくる雪に埋もれて我々であっても動けなくなってしまいますよ。走っていれば大丈夫ですからしっかり掴まっていてくださいね」
平然とそう言ってお城を目指してさらに加速するマックスの背中の上で、手綱にしがみついて完全に伏せた状態になった俺は、ただただ声にならない悲鳴を上げ続けていたのだった。ついでに言うと寒いぞ〜〜〜!
ちなみに、今回はハスフェルとギイ以外の全員が、ほぼ俺と同じ状態になっていたよ。ってか、ハスフェルとギイ! お前らは、どうしてあの雪まみれで前が全く見えない状態で平然としていられるんだよ。
ちらっと横目で見たら平然と騎乗していて、割と本気でびっくりしたぞ。
「うああ、やっと帰ってきた〜〜〜!」
無事にお城の屋根のある玄関先まで戻ってきた時、急いでマックスの背中から飛び降りた俺だったけど、緊張しすぎてカッチカチになった身体が全く言うことを聞いてくれなくて、その場でまるで見本のような見事な尻餅をついたのだった。
「何をしているんだよ。お前は。ほら、早く鍵を開けてくれ」
シリウスの背中からひらりと飛び降りたハスフェルに笑いながらそう言われて、俺は誤魔化すように笑いながなんとか手をついて立ち上がったのだった。
いや、マジで尻が痛いんですけど……。
次々に同じように叫びながら駆け込んでくるアーケル君達を見て、鍵を取り出して大急ぎで扉を開けた俺だったよ。はあ、玄関先に暖房器具をつけっぱなしにしていて良かった……温風があったかくて幸せ……。
しばし暖房器具の前で放心していた俺達だったけど、なんとか我に返って顔を見合わせて揃って苦笑いして、スライム達に濡れた体を綺麗にしてもらった。
「じゃあもう、今日はこれで解散だな。お疲れさん。ええと、明日はどうするんだ?」
割と本気でクタクタなので、できれば一日くらい休日にしたい。
「ああ、今日は皆かなり働いた事だし、明日はもう休みでいいんじゃあないか? まあ、今日みたいな雪がまた降るようなら、また全員強制出動だけどな。もしそうなった時は諦めてくれ」
笑ったハスフェルの提案にもちろん全員が賛成したので、とりあえず明日は休日って事になった。それで相談の結果、一応各自それなりに色々と食糧なら持っているので、明日の朝と昼の食事は各自で好きに済ませる事になったよ。まあ、これは寝坊する俺を気遣ってくれたんだと思うけどな。
「あはは、ありがとうな。じゃあ遠慮なく明日は寝坊させてもらう事にするよ」
照れたように笑った俺の言葉に、にんまりと笑ったハスフェルが大きく頷く。
「おう、ゆっくり休んでくれ。ただし今日みたいな大雪がもしもまた降るようなら、お前さんの部屋のドアを遠慮なく蹴破って叩き起こしてやるよ」
もちろん、俺の部屋の扉はめっちゃ分厚くてそう簡単には蹴破れない……多分。
「あはは、そうならないように祈っておくよ。ってか、あの扉はそう簡単には蹴破れないと思うんだけど、お前なら冗談抜きで出来そうで怖いよ」
マッチョで巨漢なハスフェルを見上げた俺の言葉に、全員揃って大爆笑になったのだった。
「はあ、今日は疲れたよ〜〜〜ただいま〜〜」
明日の予定を決めた俺達は、廊下で解散してそれぞれの部屋へ戻った。
「おかえりご主人。遅かったのね」
部屋の隅に設置してある産室用の木製の小屋から、そう言ったニニが大きな欠伸をしながら顔を出す。
「おう、ただいま。良い子にしていたか〜〜〜!」
笑って愛しのもふもふに飛びつく。ああ、ふわふわであったかい……。
「ご主人冷たい!」
いきなり大きな前脚でぐいっと押しやられる。
「うげえ! 待て! 今、なんか首がゴキっていったぞ!」
転びそうになったところを後ろにいたマックスに助けてもらった俺は、笑いながら首を押さえてなんとか起き上がる。
「いやあもう、大変だったんだって。ええと、良い子で留守番していたニニには、もう一回ご褒美の鰹節だな」
誤魔化すように笑ってそう言った俺は、跳ね飛んできてくれたサクラを空中キャッチしてニニを振り返った。
「はあい、待ってました!」
嬉しそうなニニがそういって良い子座りをする。しかし、小屋の方を見たニニは笑いながら俺に頭突きをしてきた。
「ねえご主人、カッツェが自分は貰えなかったって言ってずっと拗ねていたから、今回はカッツェにもあげてくれるかしら?」
ニニ用のお皿を取り出していた俺が驚いて小屋を振り返ったけど、確かにいつもならニニと一緒に出てくるカッツェの姿が無い。
ここでようやく、俺は今朝の出かけた時の事を思い出していた。
「ああ、もしかして今朝、俺がニニにだけお肉と鰹節をあげたから……?」
うんうんと頷くニニをもう一回抱きしめて断ってから、俺はカッツェが立てこもっている小屋に入っていった。
「ごめんよカッツェ。ちょっと緊急事態だったからそこまで気が回らなかったよ。機嫌直して出てきてくれるか?」
本気で拗ねているカッツェが可愛すぎて、もう笑いそうになるのを必死で堪えながらそう言い、手を伸ばしてこっちに背を向けて丸くなっているカッツェの後頭部から背中の辺りを撫でてやった。
くるっと巻かれた尻尾の先だけが、もの言いたげにパタパタ動いて俺の腕を叩く。
「ごめんって。機嫌直してくれよ。じゃあ、ハイランドチキンの胸肉にグラスランドチキンの胸肉もつけて、さらにたっぷりの鰹節でどうだ?」
横目で俺をチラッと見たカッツェは、いかにも考えてますってふうにそっぽを向く。だけど尻尾の先はさっき以上にパタパタと動いて俺の腕を何度も叩く。っていうか、完全にじゃれついてきているレベル。
「ご主人にそこまで言われては仕方がありませんねえ」
ため息と共にいかにもって感じにそう言ったカッツェが、ようやく起き上がって大きな伸びをする。
笑った俺はカッツェの首に抱きついて何度も撫でてやった。ううん、同じリンクスでもニニよりも骨太って感じがするなあ。
そして、ようやく機嫌を直してくれたカッツェと一緒に部屋に戻った俺は、ニニとカッツェに約束通りにハイランドチキンとグラスランドチキンに鰹節たっぷり大盛りな御馳走を振る舞ってやった。その結果、それを見た肉食チームが全員揃って俺の前に良い子座りで整列してしまい、結局全員にそれぞれ好きなご馳走を聞いて、肉や卵などを振る舞う羽目になったのだった。
ちなみに草食チームには、多めに買ってあったキャベツとにんじんとブロッコリーを、お空部隊には胡桃や栗などのナッツや雑穀を、果物チームには飛び地のリンゴをこれもたっぷりと出してあげたよ。
まあ、最近あんまりのんびり触れ合う機会がなかったから、これ幸いとばかりにそれぞれのご馳走を出してあげながら、もふもふとむくむくとふわふわとモコモコとツルツル時々チクチクをガッツリ満喫した俺だったよ。
はあ、幸せ……やっぱりこいつらは俺の癒しだよ……。