ご馳走様でした〜〜!
「ふああ、ごちそうさま。お腹いっぱいだよ。もう食べられません!」
もう何回目か分からない追いチーズが空になった鍋を見ながら、俺は大きな声でそう言って手を合わせた。
まあ、他の皆はまだまだご機嫌で食べているんだけどね。
「相変わらず少食だねえ」
鶏ハムにたっぷりとチーズを絡ませたのを食べていたシャムエル様が、ごちそうさまをした俺を見ながら呆れたようにそう言って笑っている。
「いやいや、俺だって充分すぎるくらいに食べてるって。他の皆の食う量がおかしいんだって」
笑った俺の言葉に、ランドルさんとハスフェル達が揃って大爆笑している。
間違いなく、お前らは俺の倍は余裕で食ってるもんなあ……。
そのあとまだまだ食っている彼らをのんびりと眺めながら、別に頼んで用意してもらったお茶をのんびりと飲んでいた俺なのだった。
そして、ようやく全員が満足したところで出てきたデザートが、まさかのチョコレートフォンデュのタワー。しかも冬バージョンでホワイトチョコだったんだよ。
タワーから勢いよく流れ落ちるホワイトチョコを見て割と本気で気が遠くなったんだけど、俺は間違ってないよな?
「うわあ! すごいすごい! ねえケン。早く作ってよ!」
俺が遠い目になって放心していると、大きなお皿を取り出したシャムエル様が、ものすごい勢いで高速ステップを踏み始めた。
「チョッチョッコチョッチョコ、チョッコフォンデュ! 食っべたい! 食っべたい! チョッコフォンデュ!」
新曲チョコフォンデュの歌を歌いつつ、またしても高速ステップを踏み始めるシャムエル様。
うん、カロリー消費のためにもしばらく踊らせておくべきだよな。
「ねえ、何してるんだよ。早く作ってよ!」
唐突に俺の右肩にワープしてきたシャムエル様は、そう言いながら持っていたお皿で俺の頬をぐいぐいと押し始めた。
「待った待った。それマジで痛いからやめてください。はいはい。で、どれがいるんだ?」
具のお皿にはパンやカステラっぽいのをはじめ、パイスティックやミニシューなど、果物以外にもめっちゃ色々ある。うん、前回よりもまだ種類が増えているよ。
「そんなの全種類に決まってます! ねえ、早く早く〜〜!」
いっそ清々しいほどにキッパリと断言されてしまい、冗談抜きで遠い目になる俺だったよ。
「はいはい、ちょっと待ってくださいな」
もう全てを諦めた気分で、俺はリクエスト通りにひたすら具材をチョコまみれにしてシャムエル様に渡していったのだった。
え? 俺のデザート? そんなの、果物を少しだけそのまま頂いたに決まってるよ。
この部屋中に漂うホワイトチョコの甘ったるい香りだけで、もう俺的には限界突破っす。
「いやあ、美味しかったです。ご馳走様でした!」
追いチョコ分までほぼ使い切って完食したアーケル君のご馳走様の言葉に、あちこちから同意の声が上がる。
「ええと、今日の支払いってどうなってるんだ?」
ここをセッティングしてくれたのはハスフェルだって聞いているので、こっそりそう尋ねると、振り返ったハスフェルは笑って下を指差した。
「おやっさんが、雪かき応援の感謝の印だって言って招待してくれたんだよ。だから今回はおやっさんの奢りだ」
「ええ、こんなに豪華なのに良いのかよ?」
「おう、まあここは遠慮なく奢られておけ。多分お前さんが考えている以上に、ここの人達はお前とスライム達に感謝してくれているよ。もう大丈夫だとは思うが、またこんなドカ雪が降る事があれば、応援を頼むよ」
最後は真顔で言われて、驚きつつも当然そのつもりだった俺は笑顔で頷く。
「もちろん、言ってくれればいつでもスライム総出で出動するよ。俺だって、定住するわけじゃないけど、一応ここに家を買った街の住民の一人なんだからさ。困った時はお互い様だろう?」
「ああ、確かにその通りだな」
笑ったハスフェルがそう言って俺の背中を軽く叩く。
スタッフさん達が片付けの為に集まってきてくれるのを見て、俺達も早々に部屋を後にしたのだった。
帰り際にアーケル君にお願いして紹介してもらい、忙しそうにしていた店主のおやっさんにはちゃんとご馳走様とお礼を言っておいた。そしてその結果、俺もいつでも二階の部屋を開けるから遠慮なく言ってくれよなって言われたよ。
まあ、ここの料理もめっちゃ美味しいから、お言葉に甘えてまた来よう。並ぶ心配無しに、街の人気店に入れる権利は確かに嬉しいかも。
店を後にした俺達は、近い順番に各ギルドを回りながら厩舎で留守番していた従魔達を回収していき、最後に商人ギルドでマックス達と合流した。
「よし、それじゃあ帰るか。すっかり暗くなったけど、大丈夫だよな?」
一応まだ雪は降っているんだけど、昼間のような大量のぼた雪ではなく、ハラリハラリって感じにごく小さな小粒の雪が降っている感じだ。
「もちろん大丈夫ですよ。では参りましょう!」
得意げにそう言って胸を張るマックスに鞍と手綱を取り付けて、背中に飛び乗る。
「ううん、まだまだ雪は多いけど、こうして見る限り確かに大丈夫そうだな」
マックスの背中から街を見回しながらゆっくりと進む。
さすがにマックスに乗っていると、食事に行った時のように握手を求められたり腕や背中を叩かれたりする事はないが、代わりに少し進むたびにあちこちから声をかけられて、もう最後はハンプールの早駆け祭りの後のパレードみたいになっていたのだった。
もちろん、鞄に入っていたスライム達にはクロッシェ以外には全員出てきてもらい、それぞれのご主人の肩や頭の上、それから従魔達の背中や頭の上に並んでもらい、街の人達に本日の功労者として姿を見せてもらった。
最初は出るのを恥ずかしがっていたスライム達も、街の人達に何度もありがとうって言われて嬉しかったみたいで、途中からは街の人達に声をかけられるたびに嬉しそうに触手を振り返していたよ。