空樽亭での大歓迎!
「おお、相変わらず賑わってるなあ」
のんびりとシャムエル様と話をしながらムービングログを転がして到着した空樽亭は明らかに満員御礼状態で、奥の水煙草がいくつも並んでいる喫煙コーナーも、相変わらず大勢のお客さん達であふれかえっていた。
しかもこの寒いのに、吹きっさらしの外には、ほぼ屋根だけの大型テントを張った道沿いにまでテーブルと椅子がぎっしりと並べられていて、そこでも大勢の酔っ払いが賑やかに乾杯をしていた。
どうやら、どの人達も無事に雪かきが終わった事を祝って飲んでいるらしく、店の中でも外でも、何度も何度も大きなジョッキをぶつけ合っては、楽しそうに大声で乾杯していた。
「スライム最高〜〜!」
「スライム最高〜〜!」
「親切な魔獣使いに乾杯だ!」
「俺もテイマーになりたい! なあ、今からでもなれるかなあ?」
「ギャハハ、無茶言うなって。お前なんか、逆に森でスライムに捕まって服を溶かされるのがオチだからやめとけ」
「ギャハハ、森の中で素っ裸はやめてくれ〜〜俺も嫌だ〜〜」
「ギャハハ、そんなの俺も見たくねえよ!」
「ってかその前に、外の森になんて、そもそも行った事ないって」
「だよなあ。絶対迷子になってジェムモンスターか魔獣に食われて終わるって」
「ギャハハハハ〜〜! それは怖いぞ〜〜〜!」
「ギャハハハハ〜〜! やっぱり無理〜〜!」
「親切な魔獣使い殿に、カンパ〜イ!」
「カンパ〜イ!」
「カンパ〜〜イ!」
ちょうど入り口近くのテーブルにいた二人組の男性が、すっかりご機嫌で何度もそう言い合っては大爆笑しながら乾杯している。そしてその賑やかな乾杯の大声が聞こえるたびに、周りのテーブルの人達までが一緒になって笑顔で乾杯していた。まあ、楽しそうで何よりだよ。
「おお、スライム達も大人気みたいだな。よしよし」
スライム最高の声が聞こえるたびに俺まで何だか嬉しくなってきて、小さくそう呟きながら笑顔でうんうんと何度も頷いたよ。
しかし、ちょうど俺達が店に入ったところでその酔っ払い二人が突然、二人揃ってものすごい勢いでこっちを見た。
「うああ〜! 世界最強の、魔獣使いのケン殿ではありましぇんか!」
「うああ〜〜〜! すっげえ! 本物だ〜〜〜〜!」
「握手してくらは〜〜い!」
「スライムちゃんに乾杯っす!」
まるで子供みたいに目を輝かせたその二人は、揃って店中に響き渡るような大声でそう叫んだのだ。
すると、賑やかだった店内が唐突に静まり返った。
「えっと、あの……」
店中の人達だけでなく、道を歩いていた店の周囲にいた人達までもが一斉に黙った。
そして、全員が無言で俺達を見つめている。
「怖っ!」
突然の大注目にドン引きした俺が思わずそう呟いた直後、その場は大歓声と拍手喝采に包まれた。
「世界最強の魔獣使い!」
「感謝するよ!」
「本当にありがとうな!」
「あのスライムちゃん、すっごく可愛かったです!」
「教えてください! テイムってどうしたら出来るんですか!」
「なあ、よかったら奢るから一杯飲んでいってくれよ!」
「こっちこっち!」
「これ飲んでください!」
全員が満面の笑みで立ち上がって駆け寄ってきた。そして、口々にそう言いながら俺の腕に大ジョッキや巨大スペアリブの並んだお皿を押し付けてくる。だけど、もう全方向から揉みくちゃにされて何が何だか分からないって。
「いや、あの、ありがとうございます。あの、お気持ちだけ受け取っておきます。いやいや、空きっ腹にそんなに飲んだら倒れますって!」
必死になって押し付けられるビールやお酒を断っていると、いきなり吹き出したヴァイトンさんがその場で力一杯手を打った。
パーン!
その音は大騒ぎだった店内にしっかりと響き渡り、我に返ったらしい人達が驚いて口をつぐんで一斉にヴァイトンさんを見る。
「はい、気持ちは分かるがそこまで〜〜! ケンさんは今から上の別室で飯だよ。一日中、文字通り街の中を走り回って働いてくれていたんだ。頼むから飯くらいゆっくり食わせてやってくれ」
苦笑いしたヴァイトンさんの言葉に、俺の周りに押しかけていた人達が照れたように笑って頷き合い、俺に向かって一礼してから次々に席へ戻っていった。
はあ、ちょっと服が乱れたぐらいで何とか無事だよ。ああびっくりした。
「疲れているのに、すまなかったな。大丈夫か?」
申し訳なさそうにそう言われて、笑って頷く。ヴァイトンさんはもう一度謝りながら服を直すのを手伝ってくれた。
「大丈夫みたいだな。よし、じゃあ行こうか」
ため息を吐いたヴァイトンさんにそう言って背中を叩かれ、俺も苦笑いして頷き、まだこっちに向かって笑顔で手を振ってくれている酔っ払いの皆さんにも手を振りかえしてから、俺とヴァイトンさんは足早に二階へ上がる階段を駆け上がっていったのだった。
「はあ、店に到着してから食べるまでが長いぞ。俺は腹が減ってるんだよ!」
「あはは、確かにそうだな。人気者は辛いなあ」
二階の廊下に到着したところでそう呟くと、何故か大爆笑したヴァイトンさんに背中を叩かれたよ。
だから、非戦闘員のくせに何なんだよその腕力。絶対俺より腕力あると思うぞ。おい。