今日の除雪の終了と夕食の予定
「はあ、デザートまでもらって悪かったな。それじゃあまだまだ仕事があるんで、戻らせてもらうよ。お前さんももうしばらく頑張ってくれよな」
食事を終えたヴァイトンさんは、俺が用意した焼き菓子と果物もあっという間に綺麗に平らげてご機嫌でそう言いながら、手を振ってギルドの建物へ戻って行った。
「ご苦労様です」
苦笑いしつつ足早に戻る後ろ姿を見送り、俺も手早く出していた机と椅子を片付けて次の除雪予定の場所へ向かった。
あちこちから聞こえる、屋根に上がって雪下ろしをしながら安全を確認して声を掛け合っている人達の声や、巨大な塊になった雪の山を左右から崩している人達の声。そして、まだまだあちこちに積もったままの大量の雪、雪、雪。
だけど、どうやら心配していたような危険な状態にはなっていないみたいで、密かに胸を撫で下ろした俺だったよ。
結局その日は、日が暮れるまで街のあちこちでひたすら雪かきと除雪を手伝い、延々とスライム達に雪を片付けてもらって過ごした。
そして、日が暮れる頃には持久力のない俺はもう、冗談抜きで倒れそうなくらいにヘトヘトになっていたよ。疲労困憊の見本みたいになってたよ。
いやあ、雪国に住む皆さんを心の底から尊敬した一日になったよ。いや、マジでこれは体力ないと無理!
「お疲れさん。大丈夫か?」
昼間と全く変わらず元気いっぱいなヴァイトンさんの声に、マックスにもたれて放心していた俺はなんとか目を開いて起き上がった。
「いやあ、雪かきは大変だとは聞いていましたけど、これマジでキツいっすねえ。ちょっと皆さんを尊敬しました」
マックスの足に座ったまま誤魔化すようにそう言って笑うと、にんまりと笑ったヴァイトンさんに腕を掴まれて引っ張られて成り行き上立ち上がる。まだ若干フラフラしているんですけど……。
「今日は本当に、お前さん達には感謝しかないよ。街へ来てくれてありがとう。おかげで被害は最低限ですんだよ。普通なら死人が出てもおかしくない程の雪だったからな」
真顔のヴァイトンさんの言葉に続き、周囲にいた何人もの人達も笑顔でお礼を言ってくれる。
「いや、お役に立ててよかったですよ。ええと、ところでハスフェル達やリナさん達はどうなってるんですかね?」
次々に集まって来る、ひと仕事終えたスライム達を鞄に入れてやりながらそう尋ねると、ヴァイトンさんがにっこりと笑って俺の肩を叩いた。
「おう、全員で今から夕食会だよ。空樽亭の親父さんが、二階を貸切にしてくれるらしいからとにかく行こう。腹、減ってるだろう?」
「空樽亭……?」
疲れのあまり意識が飛びそうになっていた俺は、その言葉に思わず考える。どこかで聞いた事が……?
「あ! あれか。アーケル君のおすすめで行った水煙草があった店だな。黒ビールとスペアリブとチーズフォンデュがめっちゃ美味かった店だ!」
「おう、あそこの料理はそれだけじゃあなくてどれも美味いぞ。今回は、ハスフェルがあの地域の除雪を担当してくれてな。それで話をする機会があって、せっかくだから雪かきの功労者って事でお前さん達を招待してくれたんだと。俺達は乱入組だよ」
笑ったヴァイトンさんの言葉に、俺も笑って頷く。
「ああ、良いですねえ。じゃあ行きましょうか」
そこまで言って、マックス達を振り返る。
「ええと、確かあそこって……」
「おう、すまんが従魔達にはギルドの厩舎で留守番していてもらってくれるか。あの店は厩舎は狭くて、とてもじゃあないがそのハウンド達は入れないよ」
苦笑するヴァイトンさんの言葉に頷き、一旦商人ギルドへ戻ってマックス達にも厩舎で留守番していてもらう事にした。
ちゃんと厩舎の一角には寒くないように雪が吹き込まないように壁がしっかりした広い部屋があって、戻ってみると厩舎で留守番していた子達全員がそこで巨大猫団子になって一緒に寝ていたよ。
「じゃあ、夕食を食べてくるからここで留守番していてくれよな」
マックス達にそう言って大きな頭を抱きしめてやりしばしのスキンシップを楽しんでから、外へ出ていつものムービングログを取り出した俺は、そのまま同じくムービングログに乗ったヴァイトンさんと一緒に空樽亭へ向かった。
ちなみに、ハスフェルとギイとランドルさんは冒険者ギルドにシリウス達を預けているらしいし、山側の鉱山へ続く道の除雪を担当していたリナさん達も、もう仕事を終えて全員空樽亭へ集まっているらしい。リナさん達の従魔は、ドワーフギルドに預けているんだってさ。
だけどムービングログで道を進み出してすぐに、あちこちから声をかけられて何度も何度も雪かきのお礼を言われ、その度に止まって話をしていた俺はおかげでなかなか進めず、見かねたヴァイトンさんに、悪いがこいつは今から夕食なんだと言って、首根っこを掴んで引っ張っていかれる羽目になったのだった。
ううん、商人だけどヴァイトンさんの腕力も大概だねえ。
ようやく解放されてムービングログに乗った俺は、若干あさっての方向の感想を考えていたのだった。
まあ、何はともあれ腹が減ったので、早く空樽亭へ到着したい俺だったよ。