炊き出しの昼食タイム!
「よし、じゃあ次へ行くぞ」
頼まれた裏庭部分の雪をほぼ駆逐した俺達は、隣の区画へ移動しながら周囲を見回した。
「おお、確かに来た時に比べたらかなり雪が減ってきたなあ。よしよし、スライム達もお役に立ってるじゃあないか」
途中、商人ギルドで雪かき用の大きなショベルを借りて、その後は一応俺も手伝いながら道路や裏庭にあふれた大量の雪をせっせと片付けていったのだった。
「ケンさん、商人ギルドで昼食の炊き出しをやっているから、よかったら大したもんは無いが手が空いたら食べてくれるか」
ショベルを担いだヴァイトンさんがわざわざそれを伝えに来てくれ、ちょうど一仕事終わったところだったので、ありがたく頂く事にして一緒に商人ギルドの建物まで戻った。
確かに雪かきを終えて広くなった商人ギルド前の広い道路には、即席の巨大なテントが幾つも並び、その中には業務用の巨大コンロと業務用寸胴鍋がいくつも並んでいてもうもうと豪快に湯気を上げていたのだ。
「そっちのパンを一つと、スープを貰ってくれ。一応座って食べられるように椅子と机も並べてあるから、空いている所へ適当に座ってくれるか」
見ると、いくつも積み上がった大きな木箱の中には、子供の顔くらいありそうな大きなパンがいくつも並んでいた。
そしてスープの横に積み上がっている木のお椀も、ちょっとしたラーメン丼より大きいくらいだ。
炊き出しであれって……やっぱりこの世界の人は食う量がおかしいと思うぞ。
割と本気レベルに力一杯脳内でそう突っ込みつつ、とりあえず一番近い列に並ぶ。
「沢山ありますから、焦らず順番に並んでくださ〜い!」
「先にこちらのカトラリーをお取りくださ〜〜い!」
列は順調に進み、まず大きなスプーンと一緒に大きなパンを丸ごと一つ渡され、次にお椀からこぼれんばかりに山盛りに具が入ったポトフを渡されたよ。
「おお。これは美味しそうだ」
20センチ以上は余裕である太くて大きなソーセージが丸ごと一本と、ゴロゴロ野菜がたっぷりと入った湯気をたてるポトフは、もう香りだけでも美味しそうだって分かるよ。
しかし、言われた場所に並べてある机はどこも満員御礼状態にぎっしりと人が座っている。
「ううん、これはちょっと無理そうだな。ええと、ちょっとこれ持っててくれるか」
さりげなく壁際に寄り、マックスの影で雪スライムのアワユキにポトフのお皿とパンを渡す。遠目に見たらポトフのお椀とパンを雪の上に置いたみたいに見えるだろう。だけどちゃんと触手でキープしてくれているのでこぼれる心配はないよ。
急いでサクラにいつも使っている小さい方の机と椅子を出してもらい、俺はそこで食べる事にした。
でもまずは、シルヴァ達にお供えしないとな。
「ええ、今日は雪かきの手伝いで急遽街まで来ています。事故が無いようにお守りください。お昼はギルドの炊き出しのポトフと大きなパンです。少しですがどうぞ」
いつものように手を合わせて目を閉じながらそう呟く。
「いやいや、これは少しって量じゃあないよな」
顔を上げた俺が大きなポトフの入ったお椀を見ながらそう呟くと、ちょうどポトフのお椀を持ち上げたところだったいつもの収めの手が、まるで笑ったみたいに俺に向かって手を振り、パンも撫で回して持ち上げてからOKマークを作って消えていった。
「よかった。ちゃんと届いたみたいだな」
笑って小さくそう呟き、大きなパンをポトフのお椀の上で半分にちぎった。
「ええと、これでいいかな」
自分で収納しているお皿を一つ取り出して、半分にちぎったパンをおいておく。
「へえ、思ったよりふわふわだな。これは美味しそうだ」
ポトフの上でパンをちぎって一切れ口に入れ、予想以上のふわふわさに感激した。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャカジャカジャン!」
小さめのお椀を手にいつもよりもやや激しめの味見ダンスを踊るシャムエル様には、半分にちぎったパンと、ソーセージを手持ちのナイフで半分に切ってから、一通りの具が入るようにポトフを取り分けてやる。
「あれ、いつもよりお椀が小さい気がするけど、良いのか?」
あんまり入らないそのお椀は、いつものスープの時に使っているそれよりも二回りくらい小さい気がする。だけどシャムエル様は、俺が取り分けたポトフの入ったお椀を受け取り嬉しそうに目を細めた。
「今日はそんなに沢山はいらないよ。じゃあこれも半分返すね。ケンはまだまだ働かないと駄目なんだから、しっかり食べてください!」
そう言って両手でパンを丸ごと返してくれる。
「ええ、この半分で良いのか?」
驚きつつそう尋ねると笑顔で頷かれてしまい、言われた通りに半分の半分にして4分の1サイズになったパンを改めて渡してやった。
「ありがとうね。では、いっただっきま〜〜〜す!」
尻尾を振り回しつつ雄々しくそう宣言したシャムエル様は、いつもよりも小さなパンを片手に、ポトフに頭から突っ込んでいった。
「熱い! でも美味しい!」
慌てたようにそう言いながら、大きなソーセージに齧り付いている。
「落ち着いて食えって。じゃあ俺もいただこう」
シャムエル様のもふもふな尻尾を時折突っつきつつ、俺もパンとポトフをいただく。
このポトフはハーブが効いていて、とても美味しい。ネルケさんから教わったあのレシピのポトフよりも全体に少し甘めだ。
「このソーセージは、がっつりお肉って感じだなあ。これもプリプリで美味しい」
予想以上の美味しさに、あとはもう夢中になって食べたよ。
「おお、いないと思ったらこんなところで食っていたのか。すまんが俺も座らせてもらえるか」
半分くらいを食べ終えたその時、両手にパンとポトフのお椀を手にしたヴァイトンさんが現れ、俺のテーブルの端にそれを並べると、ベルトの小物入れから一瞬で折りたたみ式の椅子を取り出して座った。
だけどかなりお疲れみたいで、座って大きなため息を吐いたきり、食べもしないで目を閉じたまま放心している。
苦笑いした俺は、黙って自分で収納している果物と焼き菓子を取り出して、ヴァイトンさんのパンの隣にそっと並べてやったのだった。