ひたすら雪退治!
「ふぎゃあ〜〜〜〜〜〜!」
さっきよりもさらに豪快な悲鳴と共に、ヤミーが軽々と飛び降りてきて俺の目の前に着地した。
「おお〜〜お見事!」
オリンピックなら十点満点が出るくらいの完璧な着地だ。まあ、そうは思わない人が一人いたみたいだけど。
「お、おう……生きてる……」
ヤミーの背中からずり落ちて雪の地面に転がったヴァイトンさんは、瞬きもせずに完全に硬直している。
まあそうだよなあ。俺でも毎回怖いんだから、冒険者でもないヴァイトンさんにはちょっと刺激すぎる体験だったかな?
「大丈夫ですか?」
苦笑いしながら腕を引っ張って立たせてやる。
「ああ、ありがとうな。そうだ! 報告感謝するよ!」
立ち上がって何とか深呼吸をしたヴァイトンさんは、大きな声で俺にそう言うなり、もの凄い勢いで走って戻っていった。
あの様子を見るに、恐らく屋根の傷み具合が思っていた以上に酷かったのだろう。まあ、これはもうお任せして大丈夫そうだな。
「ヤミーありがとうな。それじゃあ、言っていた屋根の雪下ろしを頼んでいいか。ああちょっと待った。どこへ落とすんだ?」
雪の塊が人の上に落ちてきたら、冗談抜きで死人が出るぞ。慌ててヤミーを止めると、巨大化したままのヤミーは俺を振り返って差し出した手に頬擦りしてきた。
「大丈夫よ。ちゃんと分かってるから心配しないで。裏庭側の、今は人がいない方へ落としてあげるわ。後でそっち側も片付けないとね」
ヤミーの言葉に安心して大きな頭を撫でてやる。
「もちろん裏庭側の雪も片付けるように頼まれているので、そっちに落とすのなら問題ないな。じゃあよろしく」
「はあい、じゃあ行ってくるわね」
俺の言葉に得意げにそう言ったヤミーは、さっきよりも素早い動きであっという間に垂直の壁を駆け上がっていった。
「ううん、何度見てもあり得ないくらいの運動神経だなあ。うちの子達、すげえ」
小さく笑ってそう呟くと、まだまだ大量にある道路の雪を見る。
「よし、じゃあさっさと片付けて裏庭側へ行かないとな。お前らもよろしく!」
時折、視界の隅っこを一瞬だけ何かが横切るような気がするので、多分雪スライム達だろう。
笑って直径1メートルくらいに巨大化したサクラをそっと撫でてやった俺は、バクバクと豪快に雪を食べていくサクラを見ながら、次はこっち、その次はここって感じに指示を出していったのだった。
昼ごろになると少し雪が小降りになってきて、そこからは一気に雪が減っていった。
だって、とにかく降ってくるぼた雪の量がすごくて、周辺を一通り片付けて別の場所へ行こうとしたら、一番最初に片付けたはずの場所がもう膝上ぐらいまで積もっているんだからさ。
だけど、小降りになってきた途端に全体の量が減り始めたから、ここへきてようやく雪が減ってきた実感が湧いてきたみたいだ。
「スライムすげえな」
「本当だよ。めっちゃ減ってる」
あちこちから感心する声が聞こえて、サクラが時々伸び上がって周りを見たりしている。肉球マークがキョロキョロと動いているんだよな。
俺には分かるぞ。あれはドヤ顔だ。
「でもまあ、これはドヤ顔ってもいいか。いやあ、本当に凄い減り具合だよなあ。提案した俺が言うのもなんだけど、スライム凄えよ」
俺の声が聞こえたのか、サクラの雪を食べるスピードが更に加速したよ。そりゃあもう豪快にバックバクって感じにみるみる雪が減っていくよ。
周囲で雪かきしていた人達も、俺の周辺の雪の減り具合を見て感心したように笑った後、こっちに声をかけつつどんどん雪を寄せてくれるようになってきた。
家の間を埋める固い雪は、狼達が小さくなって道路側へ掻き出してくれるし、マックスやビアンカ達は時折出る硬く凍った雪の塊を豪快に砕いたりこっちへ転がして集めてくれたりもしている。
おかげで俺とサクラは、あまり動き回らずに済んでいるよ。
屋根から戻ってきたヤミーも、狼達と一緒に雪を崩して集めるのに協力してくれている。だけどその辺は新雪だから多分遊んでいるのと大差ないと思うぞ。まあ、楽しそうだから構わないけど。
辺りを一通り片付けた俺は、従魔達と一緒に裏庭側へ回って思わず吹き出したよ。
もう積み上がっている雪の量が冗談抜きで二階どころか三階が埋まるレベル。しかも、裏に回って初めて知ったんだけど、区画ごとに建物の裏の真ん中部分が丸ごと全部裏庭になっていて、この区画の建物の雪が全部ここに落ちてきているんだよな。
「うわあ、すごい量だけど……大丈夫か?」
恐る恐る足元にいるサクラに尋ねると、ニョロンと出てきた触手がOKマークを作ってくれた。しかも裏庭側で人目が無いもんだから、一瞬で集まってきた雪スライム達合計二十匹くらいが揃ってOKマークを作り、また一瞬でいなくなった。
「あはは、まあ楽しんでくれているみたいだから大丈夫のようだな。よし、それじゃあ、遠慮なく片付けてやってくれるか」
笑った俺の言葉にサクラが跳ね飛んで雪山に突っ込んでいった。
「ううん、俺だけ何にもしないのもなあ」
一気に減り始める雪の山を見上げつつ、俺は両手で新雪をそっと持って優しくおにぎりにした。
ぎゅっと固まった小さな雪玉が出来る。
「えい!」
こっちを見ているマックスに向かって投げつけてやると、絶対見えているんだから避けられるだろうにまともに真正面から当たってくれたあと、尻尾扇風機状態で俺に飛び掛かってきた。ついでにビアンカも一緒に。
「おい、ちょっと待って! 危ないって!」
抗議も虚しくそのまま仰向けに押し倒されてしまい、ズッポリと全身雪の中に埋もれる俺。多分1メートルくらいは埋もれた。
「た、助けて〜〜〜!」
必死でそう叫ぶも、雪崩れてきた雪に埋もれてほぼ身動き出来ない。
内心思いっきり焦っているといきなり視界が開けて、俺は雪の中に頭を突っ込んできたマックスに腕を噛まれて引き摺り出された。もちろん絶妙な力加減のおかげで怪我一つないよ。
「あはは、ありがとうな。マジで死ぬかと思ったよ」
苦笑いしつつマックスの首に飛びつき、そこからは大人しく見学に徹していたのだった。
はあ、危ない危ない。うん、新雪は意外と危険だって事が分かったよ。気をつけよう。