雪かきの開始と問題発見!
「じゃあ、こうしましょう。とにかく、ギルドの人を集めてください。それで一人に一匹ずつスライムを預けますから、雪かきして欲しい場所へ連れて行ってください。会話は出来ませんが、皆さんの話している内容は通じていますから。普通に指示してくれて大丈夫ですよ」
俺の言葉に、ギルドのスタッフさん達に招集がかかる。街の地図を前に相談を始めたスタッフさん達を見ながら、俺は足元に転がるアクア達を見た。
「あ、はいといいえ、のゼスチャーだけは決めておいた方が絶対に良いよな。よし、じゃあこうしよう」小さくそう呟いて、スライム達を集める。
「ええと、今からギルドのスタッフさん達と一緒に街のあちこちで雪かきをして欲しいんだけど、俺と違ってスタッフさん達とは話が出来ないだろう? だからまず、はい、の時はこうだ」
スライム達にそう言いながら、俺は両手で頭の上に丸印を作る。それを見たスライム達が全員揃って触手で頭上に丸印を作った。何だよそれ、可愛いぞ! おい。
「それで、駄目な時、いいえの時はこれな」
あまりの可愛さに笑み崩れそうになるのを必死で堪えつつそう言いながら、俺が顔の前でばつ印を作って見せるとスライム達も一斉にばつ印を作った。よしよし、これで最低限の意思の疎通は図れるだろう。
「それで、もしも何か問題が起こったり緊急事態が起こったりしたら、すぐ俺に念話で報告してくれ。マックスと一緒に駆けつけるからな」
「ああ、確かにそれはいい考えだな。その方が一気にいろんな場所へ行ける」
『それに、スライム達と一緒に雪スライム達もバラけてもらえば、作業の進み具合は一気に速くなるだろうしさ』
納得したように頷くハスフェルとギイに俺も大きく頷いて見せ、さすがに雪スライムの部分の会話は他の人には聞かせられないので、こっそり念話で伝えておく。
『確かにそうだな。雪スライム達にはベリーとフランマとカリディアが定期的に巡回して見ていてくれるそうだから、そっちの差配は任せて大丈夫だろう』
俺に念話で返事をしてから、ハスフェルは入り口のところで待っているリナさん達を振り返った。
「じゃあ、リナさん達には冒険者ギルドへ行ってもらうか。恐らく鉱山への道も埋まっているだろうからドワーフギルドのエーベルバッハにも声をかけるべきだな」
「エーベルバッハなら冒険者ギルドにいるぞ。すまんが鉱山の道の雪かきにも行ってやってくれるか」
ちょうど戻ってきたところだったヴァイトンさんが、ハスフェルの言葉に頷いて外を指さす。それを聞いたリナさん達が頷いてそのまま行こうとするので慌てて止め、念の為スライム達の、はいといいえ、の意思疎通の丸印とばつ印を伝えておき、ようやく配置が決まったらしいスタッフさん達に俺はスライム達を順番に渡して行った。
ちなみにテイムしている雪スライム達はここへは連れてきていない。ベリーが姿隠しの術で紋章の部分を隠してくれているので、俺達がテイムしている雪スライム達も、今は他の雪スライム達と合流して街のあちこちに潜んで指示を待ってくれている状態だよ。
「うわあ、また雪が強くなってきたぞ」
俺はこの商人ギルドの周りの雪かきを頼まれたので、残ってもらったサクラと一緒に外へ出た。ハスフェル達とランドルさんもそれぞれ連れていたスライムを一匹だけ残してスタッフさん達に預け、それぞれ指示された場所へ従魔に乗って駆け出していった。
こういった労働には役に立たないであろう他の子達には厩舎で留守番していてもらい、マックスだけを連れている。しかし、ビアンカと狼コンビ、それからセーブルとヤミーとフラッフィーが一緒について来た。
「ご主人、雪山を崩すくらいなら我らでもお手伝い出来ます」
ビアンカの言葉にオオカミコンビとフラッフィーも揃って頷く。確かにそうだな。お前ら穴掘り大好きだもんな。
「よし、じゃあ一緒に手伝ってくれるか」
笑って順番に撫でてやり、一緒に外へ出る。
「ご主人、私が屋根に残っている雪を落としてあげるわ」
ヤミーがそう言って商人ギルドの建物の上を見上げた。
「あれ? 全部落ちてると思っていたけど、もしかしてまだ残ってるのか?」
俺も一緒に屋根を見上げながらそう聞くと、ヤミーはうんうんと頷いている。
「この屋根の端の部分、ちょっと傷んでいるみたいで凹んできているわ。あのまま放置したら、近いうちに屋根が落ちるわよ」
平然と恐ろしい事を言われて、俺は慌ててギルドの中へ駆け戻った。
そして受付にいたスタッフさんにその事を報告する。
聞いたスタッフさん。真っ青になってたよ。ごめんよ。いきなり驚かせて。
「ケンさん、何処だ!」
俺が一旦外に出て、とにかく言われた雪をサクラと雪スライム達に撤去してもらっていたところで、血相を変えたヴァイトンさんが駆け出してきた。
「ヤミー、その場所って屋根の何処の辺りなんだ?」
オオカミコンビ達と一緒に硬くなった雪の塊を崩していたヤミーが、俺の質問に顔を上げる。
「じゃあ、大きくなって屋根に登ってあげるから、その人に私の背中に乗るように言ってもらえる?」
大型犬サイズくらいになっていたヤミーが一気に大きくなる。とは言っても、普通の雪豹サイズくらいだと思う。
驚きに絶句しているヴァイトンさんの腕を掴んで有無を言わさずヤミーに跨らせる。
「この辺りの毛をしっかり掴んでいてください。思い切り掴んでくれて大丈夫ですから。屋根に登って実際に見せてくれるそうですよ」
にんまりと笑った俺の言葉の後、軽々とヤミーがその場から予備動作無しで二階の窓まで飛び、そのまま一気に壁を駆け上がっていく。
周りからどよめきが走り、道に出ていた人達が全員手を止めて上を見上げている。
「うぎゃあ〜〜〜〜〜!」
まるでどこかの誰かさんのような悲鳴をあげたヴァイトンさんを乗せたヤミーは、あっという間に五階建ての巨大な石造りの建物の屋根まで駆け上がってしまった。
そのまま姿が見えなくなったので、問題の場所へ行ったんだろう。
「うわあ、あの図体でギルドマスター乗せたまま垂直の壁を駆け上がるとか、有り得ねえだろうが」
「どんな爪してるんだよ。石の壁だぞ」
大きなスコップやシャベルを手にした冒険者と思しき若者達が、揃って上を見上げながらそんな事を話している。
「あんなのと外で出会ったら、一撃で殺される以外ねえよ」
「だなあ。あんなのと森で出会ったら、こっちがいる事に気付く前に即全滅だよなあ。絶対無理だって。怖いっ! よくあんなのテイムしたなあ」
「だよなあ。どうやってテイムしたんだろうなあ、アレ。聞きたいけど、絶対聞きたくねえよ」
苦笑いする冒険者達の会話が漏れ聞こえてしまい、俺はヤミーとの出会いを思い出して吹き出しそうになるのを必死になって堪えていたのだった。