明日の約束!
「それじゃあおやすみ〜〜」
適当なところで今日は解散となり、俺は従魔達を引き連れて自分の部屋に戻った。
「ケン、我々が集めたジェムや素材、それから収納袋の整理がついた分はアクアちゃん達に渡してありますので、どうぞお好きに使ってくださいね」
部屋に戻ったところで姿を現したベリーがにっこり笑ってそんな事をいうもんだから、不意打ちでちょっと気が遠くなったよ。
「ええと、収納袋もジェムも素材も好きなだけ持っていってくれて構わないよ。俺達が集めた分もまだまだ大量にあるから。マジで」
割と本気でそう言ったんだけど、これまたにっこり笑って首を振られた。
「お気遣いありがとうございます。大丈夫ですよ。それぞれしっかり自分達の分は確保させていただいています。それから収納袋のいくつかは、郷にいるまだ収納が未発達な子ども達への土産にするつもりで、別に分けてあります」
「ああ、そっか。確か収納は生まれつきの能力で、子供のうちに成長しながら使いこなせるようになっていき、大人になる頃に収納力が固定するんだって、以前シャムエル様から聞いたなあ。子供達になら、ケンタウロスでも収納袋は確かに必要そうだな」
笑顔のベリーの言葉に納得した俺がそう呟くと、ベリーは嬉しそうに頷いて収納袋を一つ取り出してみせた。一番定番のショルダータイプのやつだ。
「ですが、今まで我々は持っていなかった道具ですからね。皆、収納袋に興味津々でしたよ」
驚くような事を言われて、思わずベリーを振り返る。
「ええ、そうなんだ。なんでも知ってる賢者の精霊が、収納袋を知らなかったなんて驚きだよ」
「ああ、もちろんその存在自体は知っていましたが、郷にいる限り実物が手に入る機会はほとんどありませんからね。なので、手に入った実物を見て、それはもう皆そろって大騒ぎだったんですよね」
苦笑いするベリーの言葉に、あの北海道のばんえい競馬並みの筋骨隆々な長老が、収納袋を見て大喜びしているのを考えて吹き出しそうになるのを必死で堪えたよ。
「あはは、じゃあ、こんなところでも郷の外へ出て来た甲斐があったじゃないか。よかったな」
「ええ、そうですね。あなたには本当に感謝していますよ」
急に真面目にそんな事を言われてしまい、俺は誤魔化すように笑って首を振った。
「俺の方こそ、ベリーには何度も助けられてるもんな。感謝してるよ。これからもよろしく」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね。私の知識が必要な時には、いつでも遠慮なく聞いてくださいね」
笑って頷いた俺は、風呂に行きかけて思わず足を止めた。さっきの夕食の時のシルヴァ達の無言の警告を思い出したからだ。
「あ! なあ、それならさあ、ちょっと聞いていいか?」
全身で振り返ってベリーの方を向きながら大声で尋ねる。
「はい、一体どうしたんですか?」
収納袋を一瞬で収納したベリーが、俺の大声に驚いたようにこっちを見て側まで来てくれる。
「ええと、なんだかニニのお腹がすごく大きくなっている気がするんだけど、大丈夫なのか?」
なんていうか、毎日見ているとあんまり変化に気が付かないけど、改めて見てみると俺がニニの妊娠に気づいた頃に比べたらめっちゃお腹が大きくなってる。もう、どこから見ても立派な妊婦さんだよ。
あれで肉食恐竜と戦うなんてどう考えても絶対に駄目だよなあ……。
「ご心配なく。子供の成長は順調ですよ。ですが、確かにそろそろ限界ですねえ。もう狩りに行くのはやめた方がいいかもしれませんね」
困ったようなベリーの言葉の直後、俺の背中に遠慮がちな頭突きをしてくるカッツェ。
「ん? どうした?」
振り返って大きなカッツェの頭を撫でて捕まえてやる。
「ご主人、ご主人からも彼女に言ってやってください。そろそろ安全な場所で大人しくしていた方が良いって」
カッツェの心配そうなその言葉に、俺は自分がサーと青ざめるのが分かった。これは間違いなくニニの動きが以前よりも鈍っているって事だよな。まあ妊婦さんなんだから当然なんだけど、わざわざカッツェが俺に頼むって事は、カッツェの目から見てもう危険なレベルになっているって事だよな。
「ニニ! お願いだからもう地下洞窟には行かないでくれ! なあ頼むよ!」
血相を変えた俺は慌ててそう言って、カッツェの隣にいたニニの首にすがりつく。
「ええ、まだ大丈夫よ。肉食恐竜が沢山いるなかなか面白い場所を見つけたから、明日も行くつもりなのに」
イカ耳になったニニの言葉に、俺はもう必死になって首を振った。
「駄目だよ。今のニニの身体は一人の身体じゃあないんだからさ。ここは俺が買ったんだから、いつでも行けるって。なあ、もうあとは俺と一緒にゆっくりここで休んでいようよ」
「ええ、私も狩りに行きたいんだけどなあ」
「頼むから行かないでくれ〜〜! あ、明日も料理をするんだけど、ニニは鰹節が好きだったよなあ? たっぷりあるぞ?」
そう。以前のニニは、鰹節が大好きだった。
最初の頃は知らずに普通の鰹節をあげていたんだけど、人間用は塩分過多になるから駄目だと知ってからは、ペット用の鰹節を買ってきてあげていたんだよ。
「ええ! 鰹節があるの!」
予想通りに、ニニが鰹節と聞いてめっちゃ食いついてくる。
「そっか、以前のオンボロアパートと違って、ここでは普段料理をする時はニニは側にいないから鰹節の存在に気が付かなかったんだな」
あまりの食いつき具合に苦笑いしつつ、ニニのもふもふな首元に抱きつく。
「よし、じゃあ明日はお留守番するならハイランドチキンのお肉に鰹節をかけてあげよう」
「わあい、じゃあお留守番してるわ」
よし、言質とったぞ!
内心で拳を握りつつ、心底安堵した俺はニニとカッツェを交互に撫でてやったのだった。
よしよし、これでニニと子猫達の安全確保だぜ〜〜!