ご馳走様と明日の予定!
「ふおお〜〜カツ丼最高〜〜!」
「ふおお〜〜カツ丼最高〜〜!」
相変わらず、絶対に聞こえているだろうってレベルでシンクロしているシャムエル様とアーケル君の交互の雄叫びが、先ほどからリビングいっぱいに響いている。
両方聞こえている俺達は、もうずっと笑いを堪えるのに腹筋を総動員している状態だよ。
だけどとうとう限界を超えてしまった俺が最初に吹き出してしまい、誤魔化すみたいにして何度も咳き込んでいたらリナさん達に心配されたよ。
「し、失礼しました。ちょっと咽せたみたいで……」
もう一回誤魔化すようにそう言って、横を向いてまた咳き込む。
うん、とりあえずビールだビール。
「ああ〜〜岩豚最高〜〜〜!」
「ああ〜〜岩豚最高〜〜〜!」
『これ、絶対聞こえてるだろう!』
飲んだ直後に聞こえた叫びにビールを噴き出しそうになった俺は、必死に堪えて飲み干してから念話で力一杯シャムエル様に抗議したのだった。
『ええ、私は何もしていないよ。第一私の方が先に言ってるんだから、文句は向こうに言ってくださ〜い』
平然と念話でそう答えたシャムエル様は、小さなショットグラスに入ったビールをグイッと飲み干して俺を振り返った。
「おかわりください!」
「はいはい、ちょっと待ってくれ」
さすがにあのショットグラスサイズに俺の持つコップから直接ビールをこぼさずに移すのは至難の業だ。
諦めのため息と共に新しい白ビールの栓を開けてやり、小さなショットグラスにビールをゆっくりと注いでやった。
「って事で、そっちの味の違うカツ丼も半分ください!」
ご機嫌で白ビールを飲み干し、さらにもう一回ビールのおかわりをしたシャムエル様は、米粒一つ残さず綺麗に平らげたお椀を見せながら嬉々としてそう言って目を細めた。
「はいはい、それにしてもよく食うなあ」
ちょうど俺も卵とじカツ丼を食べ終えたところだったので苦笑いしながらそう言って、もう一つのソースカツ丼も半分をお椀に入れてやった。
「ふおお、これまた美味しそう!」
「ケンさん! そのソース味の大盛りをお願いします!」
「俺もお願いします!」
「うわあ、俺もお願いします!」
俺が一つだけ出していたソースカツ丼を食べ始めたのを見て、アーケル君が慌てたようにそう言って立ち上がってこっちへ来て並ぶ。そしてその声を聞いて、全員からおかわりの声が上がって集まってきた。なんか圧がすごいぞ。
「はいはい、皆よく食うなあ。ちょっと待ってくれよな」
笑いを堪えつつそう言って食べる手を止め、鞄から取り出す振りをしながら中にいたサクラに出してもらって、全員分の大盛りサイズを渡してやった。
そして再び始まるシャムエル様とアーケル君の歓喜の雄叫び合戦……もう、マジで勘弁してくれ。これ以上聞かされると俺の腹筋がもたないって……。
「はあ、ごちそうさまでした。いやあ、やっぱり岩豚は最高だねえ」
ソースカツ丼も綺麗に平らげたシャムエル様が、お行儀悪くゲップをしながら満足そうにそう言って身繕いを始めた。
「ごちそうさまでした! いやあ、やっぱりケンさんの作ってくれる料理は最高っす!」
こちらも綺麗に平らげてくれたアーケル君の言葉に続き、皆が笑顔でごちそうさまを言ってくれた。
おお、ご馳走様はもうリンクが切れたみたいでシンクロしなかったな。
「はい、お粗末様。まあ、これだけ喜んで食ってくれたら作り甲斐があるよ」
笑ってそう言い、テーブルに上がってきてくれたスライム達に汚れた食器を順番に綺麗にしてもらった。
その後はハスフェルが出してくれたウイスキーを水割りにしてもらいながら、まずは集めていた収納袋の確認と検品、それから前回と同じようにあまりを俺がもらって分配を行った。ちなみに今回俺がもらったのは、マックス達が集めてくれた分だよ。
いやあ、それにしても笑いが出るくらいに収納袋がある。
冗談抜きで、今回俺達が集めた分を全部一度に放出したら、収納袋の市場価格が暴落しそうで怖くて出せないって。
まあ、様子を見ながらあちこちのギルドに少しずつ買い取ってもらうしか無いだろう。皆も同じような事を言って笑っているから、多分大丈夫だろう。まあ、もしかしたら買い取った冒険者ギルドで、ある程度の数の調整はしてくれるかもだけどね。
そんな事を考えていて、ケンタウロス達が集めてくれたのだという分がどれくらいあるのかを考えて、割と本気で気が遠くなったけど、俺は間違ってないよな?
それが終わったところで、今日ハスフェル達が地下で何をしていたのかを聞いて、もう一回気が遠くなった俺だったよ。
何しろ、全部素通りして最下層に当たる広場まで降りたハスフェル達は、念話でケンタウロス達に連絡を取って、彼らと一緒に例の水没地帯へ入っていたらしい。
「ええ、マジ?」
「いやあ、素晴らしい世界でしたよ。ですが、魔法を使える皆さんと違って、俺はただ見ているだけでしたからねえ。なので、次は俺は従魔達と一緒に息の出来るところで狩りをしますよ」
このメンツだと唯一魔法が使えないランドルさんの悔しそうな言葉に、思わず従魔達を見る。
「そっか、皆が水没地帯に入っている間は、従魔達は他で狩りをしていたのか」
各自のスライム達を預けておけば、落ちたジェムや素材などのアイテム集めは出来るもんな。成る程、それでこんなに大量の収納袋があったわけだな。
「俺達が落としたジェムや素材は、ケンタウロスの皆さんが術で引き寄せて集めてくださったんです。次はベリー様がやり方を教えてくれると言ってくださったので、明日ももちろん水没地帯へ行きますよ! ケンさんも一緒に行きましょうよ!」
「謹んでお断りします〜〜! 俺は明日もやりたい事があるから引き続き料理をするよ〜〜!」
満面の笑みのアーケル君の叫びに、即座に顔の前でばつ印を作りながら叫び返した俺は、間違ってないよな?