休憩タイムと昼食!
「到着で〜〜す!」
最大まで巨大化して大暴れしながら積もる雪を蹴散らせて進んでいたウサギ達が、お城の前まで到着したところで揃ってドヤ顔でそう言いながら俺を振り返る。
「お、おう。ありがとうな」
コニーの背中にしがみついていた俺は、なんとかそれだけを言って扉前の広い空間に転がるようにして飛び降りた。
「はあ、飛び跳ねるウサギの背中は乗るもんじゃあないって事がよくわかったぞ。冗談抜きで、思いっきりシェイクされた気分だ。よく酔わなかったなあ……すごいぞ、俺」
目が回ってふらふらになりつつそう呟き、扉にすがるようにして立ち上がって鍵を開ける。
「はあ、それじゃあお前らは部屋にいてくれていいぞ」
ひとまず俺の部屋へウサギ達を連れて戻って、ため息を一つ吐いた俺はウサギ達がそそくさと潜り込むコタツを見た。
「ちょっとだけ俺も休憩だ。まだ目が回ってるよ」
苦笑いしてそう呟き、靴を脱いで和室に上がる。
「おおい、俺も入れてくれ。ちょっと休憩だ」
「はあいどうぞ〜〜!」
嬉々としたウサギ達の声が聞こえて、俺はラパンとコニーの間に潜り込んでコタツに足を入れた。
「はあ、なにこの幸せ空間……あったかい……」
胸元に潜り込んできたラパンを抱きしめながらそう呟き、目を閉じた直後に俺はそのまま気持ちよく眠りの海へ墜落していったのだった。ボチャン。
ぺしぺしぺし……。
チクチクチク……。
モミモミモミ……。
モミモミモミ……。
モミモミモミ……。
モミモミモミ……。
モミモミモミ……。
「うん……起きるよ……」
半ば無意識に返事をしながら、俺は胸元の妙に小さくて細いふわふわを抱きしめながら、不意に感じた違和感に気付いて眠い目を開いた。
「あれ、ここどこだ?」
和室の天井を見上げてしばらく考え、いつの間にか抱き締めていた巨大化したモモンガのアヴィを見つめる。
まあ、アヴィは最大サイズに巨大化して両手両足を開いても1メートル角くらいしかないから、俺の従魔達の中では小さい方だよ。
そして俺の顔の周りでは、いつものサイズになったウサギ達がそれはそれは真剣に俺の顔を揉んでいたのだった。
「ご主人起きた〜〜!」
嬉しそうなラパンの声に、ウサギ達が揉むのをやめる。
「ええと……あ、そうか! あのまま寝ちゃったのか! うわあ、今何時だ?」
慌ててそう叫んで、アヴィを抱きしめたまま腹筋だけで起き上がる。
「もうすぐお昼だよ。気持ちよく寝ていたから、夜まで放っておこうかと思ったんだけど、料理するって言ってたからね!」
何故かドヤ顔のシャムエル様がそう言ってポーズを決め、いきなり踊り始めた。
「しっしょく〜〜〜! しっしょく〜〜〜! しっしょくっく〜〜〜〜!」
「試食じゃなくて失職の歌。それはやめてくれ」
苦笑いしてもふもふ尻尾を突っついた俺は、アヴィを下ろしてから思い切り伸びをした。
「はあ、午前中は昼寝で終わっちまったか。まあいいや。何か食ったら料理開始だな」
軽く肩を回して深呼吸をひとつしてから、横にいたサクラに鉱夫飯を一つ出してもらった。
あいつらに渡していたら、俺も食べたくなったんだよ。まあ、俺は一回では完食出来ないけどな。
「ねえ! それを食べるの!」
目を輝かせたシャムエル様が、取り出した弁当箱の横へすっ飛んできてすごい勢いでダンスを始めた。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャカジャカジャン!」
最後は高速ステップでまるでタップダンスのような足音を立てて、腰を捻ってキメのポーズで止まる。
右手には大きなお皿、左手にはいつもの盃だ。
「はいはい、ちょっと待ってくれよな」
呆れたように笑ってもふもふ尻尾を突っついてから、鉱夫飯の弁当箱についている取っ手を外して蓋を開ける。
「お、これはステーキ弁当だな。しかも巨大ベーコンとソーセージが三個ずつ、それに目玉焼き付きだ。いやあ、相変わらず豪快だねえ」
目の前にドドンと広がった弁当の中身を見て、吹き出した俺だったよ。
何しろ一番上の段には、無理やり押し込みましたって感じの分厚いステーキが丸ごと一枚と、俺の親指よりも太いソーセージと、多分厚みが2センチくらいはありそうな巨大なベーコンがぎゅうぎゅうに押し込まれていたのだ。そしてステーキの下には、くし切りのフライドポテトがこれまたぎっしりと敷き詰められていた。
巨大ソーセージの横に無理矢理感満載で添えられた茹でたブロッコリー二切れが、この弁当唯一の緑色だよ。
そしてステーキの上に、大きな目玉焼きがステーキの半分近くを覆い尽くす勢いでめっちゃ自己主張していた。
「二段目は、塩にぎりがぎっしり。これはまた残り物アレンジ行きだな」
苦笑いして二段目を横に置く。
そして三段目には、予想通りにさまざまな焼き菓子がぎっしりと隙間なく詰まっていた。その真ん中にあって存在感を放つ巨大な茶色は、多分チョコレートブラウニー。
全体にチョコレートとココア味が多めだ。うん、ここも一段目と同じく茶色メインだよ。
「いやあ、これ全部で何千キロカロリーあるんだろうなあ。これってもしかして、また俺よりシャムエル様の方が食う量が多いってレベルじゃないのか」
もう笑いを堪えきれずにそう呟き、サクラが出してくれたお皿にまずは自分の分を取り分けていった。
「ええと、このステーキはどれくらい食う?」
目玉焼きを横に避けて、まずはメインのステーキを一旦お皿に取る。
「じゃあ、これくらいください!」
三分の一あたりで切る振りをするので、言われた位置で切って一切れお皿に乗せてやる。
さらに残りを半分にして、一切れ弁当箱に戻す。
「ソーセージとベーコンは一切れずつください! 目玉焼きは半分! おにぎりはひとつあればいいです! あとは適当でお願い。デザートはまた後でもらうね!」
目をキラッキラに輝かせるシャムエル様の言葉に堪える間も無く吹き出す。
「デザートは別なわけね。はいはい、じゃあおにぎりは一つに目玉焼きが半分、それからポテトは適当で……これも食え」
ステーキの下にぎっしりと敷き詰められていたフライドポテトもガッツリ取ってやり、少し考えて貴重なブロッコリーも一切れ添えてやる。
「お茶は麦茶でいいか。ちょっと寒いから味噌汁を出すか」
少し考えて、サクラに麦茶と一緒にワカメのお味噌汁を出してもらい、当然のように出てきた別の小さな盃に麦茶と、小さなお椀には味噌汁を入れてやった。
「じゃあ、いつもの祭壇に供えて、っと」
俺の分を一通りと、残りの弁当箱もそのまま一緒にいつもの簡易祭壇にお供えする。
「昼は鉱夫飯です。少しですがどうぞ。ハスフェル達が従魔達を連れて地下洞窟へ入っています。どうぞお守りください」
手を合わせて目を閉じて小さな声でそう呟く。
いつもの収めの手が現れて、俺の頭を何度も撫でてから順番に料理を撫で、最後に弁当箱を持ち上げるふりをしてから消えていった。
「届いたみたいだな。さて、それじゃあ俺もいただくとするか」
収めの手が完全に消えるまで待ってから、俺とシャムエル様はもう一度手を合わせていただきますをしてから食べ始めたのだった。
このステーキ、分厚いのに超柔らかくて美味しいぞ〜〜〜!