ケンタウロス達の決意
「ケン、そんな悲しい事を言わないでくださいよ。我ら一同、貴方へのご恩返しだと思って一所懸命集めているんですから」
俺の叫び声が聞こえたのだろう。通路を駆け出して行ったケンタウロス達の足が止まり振り返ったベリーが若干わざとらしいため息を吐いてそう言う。
すると何故か苦笑いした全員が戻って来て、俺の目の前に巨大なジェムや見た事がない巨大な革や角、それから俺の指よりも遥かに大きな鉤爪などを次々に取り出して見せてくれた。あ、その横にあるのはどう見ても……肉食系の牙だよなあ……。
「まだまだ他にも色々とありますよ。それに、収納袋もかなり優秀なものを数多く確保していますので、一通りの検品が済んでから、これらは改めてお渡ししますね」
収納袋を取り出したベリーに満面の笑みでそう言われて、俺は割と本気で気が遠くなったよ。こんな未知のジェムや素材だけじゃあなくて、その上に大量の収納袋まで渡されて、それらを俺にどうしろと? もうこれ自体が、冗談抜きで罰ゲーム状態なんじゃね?
「あ、そうか。ケンタウロス達の存在はもうバレてるんだから、全部まとめて彼らから貰ったって堂々と言えばいいのか。よし、それでいこう!」
大混乱する頭の中だったけど不意に閃いたその考えに、俺は思わず手を打ったよ。
「もちろん、そう言っていただいても構いませんよ。我らの感謝は常に貴方と共にあります」
こちらも何故か駆け戻ってきた満面の笑みの長老の言葉に、もう乾いた笑いしか出ない俺だったよ。
『では、我らは街へ行って参ります』
その時、テイムした雪スライムを連れたケンタウロス達が数名進み出て、長老とベリーにそう言ってから、俺達に優雅に一礼して平然と扉を開けて雪が積もる外へと駆け出していった。
ううん、術で何かして寒く無いようにしているとは聞いているけど、上半身裸の姿のままで、雪が積もっている外へ平然と出て行かれると若干心配になるよなあ。
そっと閉じられた扉を見ながらそんな事を考えていて、ふと我に返る。
「あれ、彼らが地下洞窟へ行かずに街へ行くって事は、もしかして……?」
先日の喧嘩腰だったベリーの提案を思い出してそう尋ねると、満面の笑みのベリーが大きく頷き、他のケンタウロス達も苦笑いしつつ頷いている。
唯一長老だけが、若干拗ねたみたいにそっぽを向いているのがおかしくて、もう必死になって笑いを堪えた俺だったよ。
地下に行っている時か、あるいはテイムを待っている時間だったのかは分からないけれども、きっと彼らの間であの時のベリーの提案について色々と話し合ったんだろう。
まあ、知らない事を知ろうとする時に高いプライドが邪魔をするってのはすごく分かる。分かるけど、ここは賢者の精霊としての誇りに賭けて、せっかくの未知の知識、しかも経験込みで知り得る機会を無駄にして欲しくないよな。
うんうんと納得して無意識に頷いている俺を見て、ベリーも嬉しそうに笑っている。
「では、我らはまた先に進ませていただきます」
改めて俺達に向かって優雅に一礼したケンタウロス達が、今度こそ次々に駆け出していってしまった。速っ!
「さてと、それじゃあ今日の用事はこれで終了だな。俺は城へ戻るよ」
駆け出して言ったケンタウロス達の足音が聞こえなくなるまで見送ってから、ひとつため息を吐いた俺は、呆気にとられて今のやりとりを見ていたハスフェル達を振り返った。
「じゃあ、マックス達の事は任せるよ。いってらっしゃい。だけど無茶はするなよ」
マックスの首輪に取り付けた手綱を外してやりながらそう言い、集まって来たウサギ達をそっと撫でてやる。
「ああ、そうだな。それじゃあ俺達も行ってくるよ。料理は任せた!」
何故かドヤ顔でハスフェルがそう言い、それに続いてギイやランドルさん、それからリナさん一家までが順番に俺にこれ以上無い笑顔で料理はお願いしますと言って、従魔達を引き連れて出発して行った。
「いってらっしゃ〜い」
笑いながら通路を進んで行く一同を見送った俺は、待っていた居残り組のウサギ達と一緒に反対の扉へ向かいそのまま外へ駆け出していった。
「うひゃあ寒い! よし、お城までよろしくな!」
「はい、では背中に乗ってください!」
すぐ近くへ来ていつものサイズよりも更に巨大化してくれたコニーの言葉に頷き、背中に飛びつく。おお、素晴らしきかな、このふわふわな事!
「では参りますね! 皆、お願いします!」
コニーの大声に、他のウサギ達までが全員巨大化する。
「うわあ〜〜!」
ぴょ〜んと飛び跳ねたコニーの前に、ラパンと、ランドルさんが連れているピンクジャンパーのクレープと、それからリナさんの連れているピンクジャンパーのテネル、それからアーケル君のホッパーが進み出て三匹並んだ。
「雪かき開始〜〜〜!」
ラパンの声に、全身緑色で耳の中側とお尻部分がピンク色のピンクジャンパー達がものすごい勢いで雪を蹴散らしながら進み始めた。
いやいや、さっきここへ来る時にセーブル達が充分過ぎるくらいに広くラッセルしてくれているんだけどなあ……それに、いざとなったらスライム達に頼めば雪かきは簡単に出来るんだけど……。
ぴょんぴょんと豪快に飛び跳ねるコニーの背中の上で必死になってしがみつきながら、大暴れするウサギ達を見て突っ込みかけた俺だったけど、まあ皆楽しそうに大暴れしているんだから止めるのも野暮か。と、ちょっと遠い目になって、何も言わずにコニーの背中に力一杯しがみついていたのだった。
うん、ウサギの背中はふわふわで良いんだけど飛び跳ねる時の衝撃のお陰で色々と台無しにしているみたいだね。
やっぱりマックスの背中が一番乗り心地は良いみたいだよ。