いってらっしゃい!
「さてと、それじゃあ行くとするか」
残りのコーヒーを飲み干した俺の言葉に、全員が立ち上がる。
「地下洞窟の入口までなら、鞍を付けるほどでもないな」
尻尾扇風機状態のマックスを撫でてやり、首輪に手綱だけ取り付けておく。これは鞍と違って簡単に取り外しが出来るからな。
もこもこに着膨れている上に冬用マントまで羽織ってから、俺達は揃って玄関を開けて外に出る。
外はもう、これ以上ないくらいの快晴! 外へ出てみると視界の上半分は完全な青一色、そして下半分は真っ白。視界の端から端まで全部が降り積もった真っ白な雪で埋め尽くされてる。
「おお、見事なまでに青と白しか無い世界だなあ」
思わず寒さも忘れて、その見事な景色に見惚れた俺だったよ。
「確かに綺麗だな。だけどいつまでも突っ立っていたら凍えるぞ」
からかうようなハスフェルの言葉に苦笑いして頷き、鞍無しのマックスに飛び乗ってそのまま地下洞窟の入り口の扉まで駆けて行った。
思ったよりも雪は降っていたみたいで、巨大化したセーブルとティグ、それからヤミーの三匹が大張り切りで新雪を見事なまでに蹴散らしてくれたよ。
まあ、皆すごく楽しそうだったから、別に無茶はさせてないと思うぞ。
そして、到着して扉を開いて地下に入ったところで、待ち構えていた雪スライム達とケンタウロス達の大歓迎を受けたのだった。
「おはようございます! お越しをお待ちしていましたよ!」
目を輝かせたケンタウロスの長老の言葉に、もう揃って笑うしかない俺達だった。
しかも待っている間に雪スライム達と一緒に遊んでかなり仲良くなったらしく、今日は勝ち抜き戦みたいなのをして、誰がどの子をテイムするのかをもう決めているんだってさ。
まあ、別に俺達に特にこだわりは無いので、そっちで誰をテイムするのか決めてくれるのならそれが俺達的には一番楽でいいよな。って事で、長老の元に集まった雪スライム達を、魔獣使い総動員で今日の限界数まで順番にテイムしたのだった。
「はい以上! これが最後の一匹だな。本日のテイムお疲れ様でした〜!」
今日の最後の一匹をテイムし終えたところで拍手が起こり、ケンタウロス達に何度もお礼を言われた。その後は、皆大喜びでダイヤモンドダスト合成した雪スライム達と遊んでいたよ。
『なあ、するとしても春以降の事になるけど、ベリーには雪スライム以外の他のレインボースライムやメタルスライム達も一通りテイムしてやるべきだよなあ? きっといつか郷に戻った時に、郷にいた他の皆が金色合成やクリスタル合成を見たがると思うんだけどなあ』
雪スライムを大喜びで撫でているケンタウロス達を見て少し考えた俺は、こっそり念話でベリーに尋ねる。
『ああ、それならこの岩食い騒動が完全に沈静化するのを確認してからあとの事になりますが、有志の数名がスライム集めに名乗りをあげています。一応、私が知っている各カラーのスライムの出現箇所は一通り教えてあります。場所さえ分かっていれば、彼らならさほど時間をかけずに全部集められると思いますね。見つけたらまとめて確保してケンの所まで連れて来ますので、申し訳ありませんがテイムだけはしていただけますか』
ベリーの念話の内容に納得して頷く。
『了解。一日のテイムの制限数さえ守って待ってもらえるなら、俺は別に構わないよ。どうぞ好きなだけ連れて来てください』
笑ってそう言うと、ベリーも嬉しそうな笑顔になる。
『ありがとうございます。それから厚かましいお願いで恐縮なんですが、ケンだけが連れているあの秘密のレース模様のクロッシェの事も、極秘情報として長老にだけ伝えてありますので、今度他の方々の目が無い時に、あのクロッシェちゃんを長老に見せてあげていただけませんか?』
笑ったベリーがバレーボールサイズになって転がっていたアクアをそっと捕まえて撫でる。
撫でられているアクアの体の中には、注意して探すとごく小さな白っぽい灰色の粒が見える。これがアクアの中で隠れている、超貴重なレース模様のスライムのクロッシェの普段の姿だ。
なんでも今の王様の前の王様が、珍しもの欲しさに賞金や報酬までかけて指名手配みたいな事をしてまで、冒険者達に探させた超レアなスライムなんだよなあ。
確かに知識の精霊ならあの子は絶対に見たがるだろう。
『まあ、絶対にあの子は譲らないけど、別に見せるくらいなら構わないよ。じゃあ、夜にお城の俺の部屋にいる時にでも来てくれればお見せするよ』
笑った俺の言葉にベリーも嬉しそうにしている。
『ありがとうございます。それから、もしもケンさえ良いのであれば……今後の旅の合間に時間はかかっても構いませんので、私は一通りの子達は出来ればテイムして頂きたいのが本音ですね』
最後の個人的希望丸出しの本音を聞いて、思わず吹き出しかけて誤魔化して咳き込む。
『もちろん構わないよ。了解だ。じゃあそっちは春以降の話だな』
『ありがとうございます。もちろん確保は自分でしますので、テイムだけお願いしますね』
もう一度嬉しそうに笑ってアクアを撫でたベリーは、そのままそっとアクアを床に下ろして長老達と一緒に先に進んでいったのだった。
「おう、いってらっしゃい!」
「はい、いってきます! ジェムと素材を頑張って集めて来ますね!」
笑った俺の声に振り返ったケンタウロス達は笑顔で手を振りながらそう言い、嬉々として通路を駆け出して行ったのだった。
「いやいや、もうジェムも素材も収納袋も大量にあるから無理しなくて良いんだってば!」
叫んだ俺は、間違ってないよな?