お風呂タイムと新たなオモチャ
「はあ……やっぱり労働の後の風呂は最高だよなあ……」
肩までお湯に浸かりながらのんびりと湯気に煙る天井を見上げていた俺は、湯船の縁に頭をのせて完全に脱力状態な体勢でそう呟いた。
食後に、今日の収穫物である大量の収納袋を皆で手分けして整理して山分けした後、俺はお風呂に入りたかったのでまだ飲んでいる皆におやすみを言って一足先に部屋へ戻った。
まずはニニやマックスをはじめとする従魔達と思う存分スキンシップを楽しんでから、いつものようにお風呂の準備をして入り、のんびりとお風呂でリラックスタイムを楽しんでいるところだ。
いつも一緒に入ってくれるお風呂大好きスライム達は、俺が湯船に浸かって温まっている時には洗い場でバスケットボールよりもひと回りは大きな氷をいくつも出して洗い場に転がしてやり、それを追いかけ回して大はしゃぎで氷争奪戦をやって遊んでいる。
まあサッカーと言うよりは、これはどちらかと言うとラグビーに近いかな。誰かが氷ボールを確保して逃げ回っているみたいだ。だけどおかげで、湯船の中には誰もいないので、お湯に浸かっている時の俺の心の平穏は大いに保たれているよ。
うん、いい感じだから今後もこの作戦で行こう。
「ご主人、大丈夫ですか〜?」
あんまり気持ち良くて完全に脱力して放心していたら、どうやら死んだのかと思われたらしくワサワサとスライム達が俺の周りに集まってきた。
「へ? 何が大丈夫なんだ?」
半分寝ながら寛いでいた俺が呼びかけに驚いて顔を上げると、何故かスライム達が大喜びしている。
「よかった〜〜! 急にご主人が静かになって動かなくなったから、具合が悪いのかと思って心配しちゃいました!」
一瞬でアクアゴールドになった金色羽付きスライムが、アクアの声でそう言いながら俺の周りを飛び回り始める。それを見て他の子達も一瞬で合体してクリスタル合成アーンドダイヤモンドダスト合成して同じく俺の頭上をパタパタと飛び回り始めた。
おお。ダイヤモンドダストの氷の粒が落ちてきて、火照った顔に当たって気持ちがいいぞ〜〜!
「ああ、ごめんごめん。大丈夫だって。お風呂があんまり気持ち良くて、ボーッとしていただけだよ」
笑ってそう言いながら、手を伸ばしてアクアゴールドを捕まえてやる。
「冷たっ! 何それ、お前らそんなに冷たくて大丈夫か? ここ風呂の中だぞ?」
掴んだアクアゴールドの絶対氷点下だろうと言いたくなるくらいの冷たさに驚き、慌ててお湯の中へ放り込んでやる。まあこれは、俺の手が温かくなっているからこそ、そう感じたのかもしれないけどさ。
「大丈夫だよ、ご主人! だって、アクア達は氷の取り合いっこして遊んでいたんだから、冷たくなるのは当然だよ〜?」
プカリとお湯に浮いてアクアの声でそう答えた直後、羽付き金色スライムは一瞬でバラけてバレーボールサイズのスライム達になり、嬉々としてお湯の中を泳ぎ始めた。
「あはは、そりゃあそうだな。じゃあ選手交代! おおい、身体を洗いたいから場所を交代してくださ〜い」
まだ頭上を飛び回っている二匹の羽付きスライム達も捕まえてそのままお湯の中へ放り込んでやる。
それから、洗い場に転がったままになっていたちょっと小さくなった氷の玉を湯船の中へ放り投げてやり、ついでにもうちょっと硬くて溶けにくそうなバレーボールサイズくらいの氷の玉を幾つか作ってこれも放り込んでおく。
嬉々として湯船の中で水球よろしくボールを追いかけてまた遊び始めたスライム達を眺めつつ、俺は持っていた石鹸を使ってしっかりと身体を洗っておくのだった。
まあ、サクラに毎日綺麗にしてもらっているから、これはあくまでも気分的なものなんだけどね。
最後に頭からお湯をかぶって髪もしっかりと濡らしてからもう一回温まろうとして湯船の中を見ると、もう氷はほぼ溶けてしまったみたいで、退屈そうに、というかすごく残念そうにスライム達が湯船の中を泳ぎ回っている。
「おおい、今度はこんな形の玉を作ってみたから遊んでみてくれよな。どこへ転がるか分からないからきっと楽しいと思うぞ」
さすがにここに俺が入ると、俺の理性と俺の愚息が色々と問題の玉突き衝突事故を起こしそうなので、新しく作ったバスケットボールサイズの氷のラグビーボールを複数個洗い場に転がしてやる。
「何ですか〜〜それ!」
「きゃ〜〜楽しそう!」
予想通りにめちゃめちゃ食いついてきたスライム達が、先を争うようにして湯船から飛び出して広い洗い場を巨大ラグビーボールを追いかけて遊び始めた。
だけど、当然さっきまでのようにボールは真っ直ぐには転がってくれない。追いかければ追いかけるほどに右へ左へ予想もつかない転がり方をするもんだから、スライム達は大喜びだ。
しかもあの氷自体も、猛獣をテイムする時ほどじゃあないけど普通の氷よりはかなり硬めに作ってあるから、少々の事では欠けたり割れたりもしないぞ。
しばらく湯船の縁に座って足湯状態で遊ぶスライム達を眺めていたんだけど、ちょっと肩や腕の辺りが冷えてきたので慌ててお湯に浸かった。
「あれ、さすがにあれだけの氷が溶けたら温度が思ったよりも下がってるなあ。ちょっとお湯を足しておくか」
予想以上に温度が下がってぬるめのお風呂になっている。
苦笑いした俺は、壁面のスイッチとバルブを操作して高めの温度のお湯をダバダバと湯船に流し入れる。
「よしよし、これでいい感じだ」
バルブをひねって流れてくるお湯を少しにした俺は、流れ落ちるお湯の近くでまた手足を伸ばしてのんびりとお風呂タイムを楽しんだのだった。
はあ……冬のお風呂、最高〜〜!