新メニューは大好評!
「ええと、今夜は新メニューです。岩豚と、ハイランドチキンとグラスランドチキンの手羽先団子入りのキムチ鍋です。ちょっと辛いですが、体が温まるのでこの時期おすすめです。少しですが、冷えたビールと一緒にどうぞ」
いつもの簡易祭壇に、俺とシャムエル様用にたっぷりと取った携帯鍋を冷えた白ビールの瓶と並べて置く。
そっと手を合わせて小さな声でそう呟くと、いつもの収めの手が現れて俺の頭を何度も撫でてくれた後に、キムチ鍋を撫で回し、携帯鍋ごと持ち上げる振りをして、最後に瓶ビール持ち上げるふりをしてから消えていった。
「ちゃんと届いたみたいだな。よし、食うぞ」
携帯鍋とビール瓶を手に急いで席に戻った俺は、待ってくれていた皆にお礼を言ってから改めて手を合わせていただきますをしてから瓶の栓を抜いた。
「うおお、最高の岩豚だけじゃあなく、この団子もめっちゃ美味い! それにちょっと辛みと酸味があるのに濃厚なこのスープ、ケンさん、これめっちゃ美味いです!」
「本当にそうね。この岩豚の甘味がスープにしみて最高ね」
携帯鍋に山盛りに確保したキムチ鍋の岩豚を一切れ食べるなり叫んだアーケル君の大声に、同じくこちらも山盛りの携帯鍋から一口食べたリナさんも目を輝かせてそう言ってくれる。
オリゴー君とカルン君、それからアルデアさんとランドルさんは、これまた山盛りに確保した携帯鍋を前に、一口食べて揃って歓喜の声を上げたあとは、もう顔も上げずに揃って爆食してるよ。
そしてハスフェルとギイの二人も、携帯鍋に山盛りに確保したキムチ鍋をこちらもご機嫌で爆食中だ。
辛いのは大丈夫か作りながら心配していたけど、どうやら皆、あの反応を見るにキムチ鍋がよほどお気に召したらしい。よしよし、これで寒い時期の鍋メニューが増えたぞ。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャジャジャ〜〜〜ン!」
若干いつもと違うリズムの味見ダンスを、大きめのお椀を両手で持って振り回しながら踊っていたシャムエル様が、すっ飛んできたカリディアと一緒に高速ステップを踏み始め、最後に完璧なシンクロっぷりでプロスケーターも顔負けな見事な四回転を揃って決めて、ぴたりと止まって最後のキメのポーズだ。
「お見事〜〜! じゃあ、ここに入れたらいいんだな」
キラッキラに目を輝かせたシャムエル様にお椀を差し出されて、自分の携帯鍋からシャムエル様のお椀に一通りたっぷりと入れてやった。
見事なダンスを披露してくれたカリディアには、いつもの激うまブドウを一粒渡しておく。
それから食べようとした時、カリディアに渡したブドウを見て手が止まった。
「ああ、草食の従魔達に果物を出してやらないとな」
小さな声でそう呟き、リビングの壁際に並んで暖房器具を占領している従魔達を振り返って立ち上がった俺は、さりげなくサクラが入ってくれた鞄を持って従魔達の所へ行き、フランマとカリディア用も含めて、ウサギチームの前に果物が入った大きな木箱を多めに色々と出してやった。
こうしておけばリナさんやアーケル君、それからランドルさんが連れている草食の子達も一緒に食べられるからな。
「はい、どうぞ。好きに食べて良いからな。じゃあ、俺も食べてくるから仲良く分けて食べるんだぞ」
ふわふわなウサギ達を何度か撫でてやってから、ニニ達を見た。
「ええとお前らはまだ腹は減ってないか? 生肉でよかったら何か出すぞ」
ここでスプラッタは勘弁だけど、処理済みの生肉なら色々あるからな。
「まだ大丈夫よ。ベリーが戻ってきたら、交代でお弁当をいただくわ」
代表してニニが笑いながらそう言って俺の頬をベロンと舐めた。
「うひゃあ! だからニニの舌はザラザラなんだから、俺のデリケートな皮膚は痛いんだって」
笑いながらそう言い、もう一度手を伸ばして撫でてやってから自分の席へ戻った。
そして自分で収納していた俺の鍋を取り出して早速食べ始めた。
「ううん、自分で作っていうのもなんだが、予想以上にキムチ鍋が美味い。そして岩豚が美味しいのは当然だけど、この手羽先つくねもめっちゃ美味しい。よし、これも定番化決定だな」
若干猫舌な俺は、ハフハフ言いながら手羽先つくねを口に入れ、キノコと白菜を食べ、これまた熱々な豆腐を小さく切って口に入れてからスープを啜った。
「はあ……寒い冬のキムチ鍋、最高だな。よし、ちょっと作り置きも少なくなっている事だし、このあとは俺は狩りは休憩して料理を作るか。色々と手に入れたお菓子の材料なんかもあるから、せっかくだから広いキッチンで新メニューに挑戦したいもんなあ」
「おかわりください!」
そんな事をのんびりと考えながら岩豚の大きな肉を口に入れた瞬間、めっちゃテンション高めのシャムエル様に耳元でそう言われて、もうちょっとで吹き出すところだったよ。
「お、おう、了解。ちょっと待ってくれよな」
急いで口の中のものを飲み込みながらそう答えて、コンロの上に並んだ土鍋を見る。
「ううん、第一弾の具がほぼ無くなってるけど、まだ誰も追加を作ってないぞ」
どうやら皆、まずは自分が食べるのを優先したみたいだ。
苦笑いした俺は、少し冷めた俺の分をそのままシャムエル様に渡してやり、立ち上がってほぼ空になった土鍋に追加の具材をガンガン入れていった。
「ああ、すみません。手伝いますね」
アーケル君が来てくれたので、二人がかりで手早く追加の鍋を煮込んでいく。
「おお、出してあったつくねも岩豚のキムチ炒めも、それからお出汁もこれでほぼ無くなったぞ。よし、次は倍量仕込もう」
寸胴鍋のスープが駆逐されそうな勢いなのを見て、小さく笑った俺だったよ。
まあ、新しいメニューをここまで綺麗に食べてくれたら、作った俺的にはちょっとドヤ顔だよな。