寒い日にはキムチ鍋!
「うひゃ〜〜! 寒い寒い寒い! うああ〜〜暖房器具最高〜〜〜!」
日が沈んだところで我に返って全員揃って震え上がって慌てて玄関に駆け込み、稼働しっぱなしの暖房器具の一つに駆け寄ったアーケル君の叫ぶ声にあちこちから笑う声と共に同意の声が上がった。確かに夕日は綺麗だったけど、ちょっと長居しすぎた。マジで寒い!
「本当だよなあ。地下にいる時は、ちょっと冷んやりするくらいだと思っていたけど、さすがに夕暮れ時の外は寒かったよ」
苦笑いする俺の呟きにも、あちこちから同意の声が上がる。
「って事で、今夜は鍋にするぞ〜!」
笑いながら大声でそう叫ぶと、何故か全員から拍手が起こった。
「ええ、今日はケンさんもかなり戦ったしお疲れでしょう? 俺達なら作り置きでも全然構いませんよ」
アーケル君の慌てる様な声に、振り返った俺は笑って首を振った。
「鍋なら材料を切るのはスライム達がやってくれるし、出汁を作るくらいなら簡単だから大丈夫だよ。さて、それじゃあリビングへ行くぞ!」
濡れた足元や上着は、スライム達が綺麗にしてくれているし、びしょ濡れになっていた従魔達も、もう全員揃ってピカピカだ。
「お手伝い出来る事があったら言ってくださいね!」
満面の笑みのアーケル君の言葉に、俺も笑顔でサムズアップを返した。
「さてと、それじゃあサクッと作りますか」
暖かいリビングに到着していつもの備え付けのキッチンへ移動した俺は、サクラにまずは綺麗にしてもらう。
それから、腕まくりをしながら何を使うか考える。
「まずは、材料を切ってもらうか。ええと、岩豚の肉はいつも通りにたっぷり薄切りにしておいてくれるか。それから、白菜と白ネギ、キノコ色々、あとは豆腐……あ、乾燥湯葉も出しておいてくれ」
まずは具材を一通り出してもらい、待ち構えているスライム達に手分けして切ってもらう。
乾燥湯葉は、水に浸してから時間経過でふやかしてもらう。柔らかくなったら水を切っておいて、他の野菜と一緒に一煮立ちさせれば良いだけだから、簡単簡単。
具材を切る作業はスライム達も慣れているので、新人の雪スライム達と一緒になって仲良く作業してくれているよ。
「仲良く作業するんだぞ。それじゃあ俺は、その間に出汁を作るか」
次々と材料を切ってくれるスライム達を見ながら、一番大きな寸胴鍋にまずは二番出汁をたっぷりと入れて火にかける。
「本当は鶏がらスープにしたいんだけどなあ。まあ無いものは仕方がない……あ、そうだ。今こそあれを使うべき時じゃないか!」
不意に思い付いて思わず手を打った俺は、サクラにハイランドチキンとグラスランドチキンの手羽先の部分を取り出してもらった。
これは手羽先とは言っても、通常の鶏の部位とは違って骨は完全に取り除いてくれてある。要するにコラーゲンの塊部分みたいなものだ。まあ、なので見かけが若干グロいんだけど、刻んでしまえば問題無いよな。
「これ、デカ過ぎるし見た目がグロいから使い所が分からなくてそのままにしてあったんだけど、刻んでそのまま団子にして入れたら絶対に美味いよな。出汁も出るだろうし、良い事ずくめじゃん」
にんまりと笑ってそう呟いた俺は、近くで待ち構えていたアクアとゼータ、それからタマユキとモチユキに手羽先を全部まとめてミンチにしてもらうように頼んだ。
「今回はあまり他の具材は入れずに手羽のミンチに片栗粉と塩胡椒、それから生姜のすりおろしたのでいいな」
メインは岩豚なので、こっちはシンプルで攻めてみる事にする。
大きなボウルに山盛りに用意された手羽先ミンチに、塩胡椒と生姜のすりおろしを加えてからスライム達に混ぜてもらい、片栗粉も加えて再度混ぜてもらう。
「じゃあ、手の空いてる奴は全員集合! これをこんな風に団子にしてくれるか」
一つだけ目の前で見本を作れば、あとはスライム達がやってくれる。
空いているバットに並べておけばつくね同士がくっついても問題無いからな。良さそうなので、大量にある手羽先は全部ミンチにしてもらって、つくねにして使う事にするよ。
「つくねにしておけば、他の料理にも使えるから良いよな。あ、そうだ。これならたっぷりのお出汁で甘辛く煮込んでも美味しそうだ。よし、今度時間のある時に玉ねぎ入りとかも作ってみよう」
小さくそう呟きながら沸いてきた二番出汁の寸胴鍋の蓋を開けて、そこへ味噌とお酒、それからみりんをおたまで計りながら入れていく、醤油も少したらして混ぜながら軽く煮立たせたところで一旦火を止める。
それから、一番大きなフライパンにたっぷりの胡麻油を回し入れて火にかけ、岩豚のスライスをそこへ投入!
焦げない様に火を通していく。全体に火が通ったところでたっぷりのキムチを入れてもう少し炒める。
人数を考えて、アーケル君とギイにも手伝ってもらい全部で十五回分、これを繰り返して豚肉のキムチ炒めを大量に作り置きしておく。
一番大きな土鍋に岩豚のキムチ炒めを入れて他の具材も入れる。それからさっき作ったお出汁をたっぷり入れて火にかける。ここで手羽先つくねも大量投入だ。
「ううん、どう考えても鍋一つでは足りないな。もう一つか二つ追加の鍋を作っておくか。争奪戦が大変な事になりそうだもんな」
苦笑いした俺は、あと二つ大きな土鍋を取り出して、そこにも同じ様にしてたっぷりのキムチ鍋を作った。
仕上げに刻んだネギを山盛りにして蓋をすれば完成だよ。本当はニラがあれば良かったんだけど、無いのでネギで代用しておく。
「おおい、出来たぞ。お待たせ〜〜!」
一旦全部収納しておき、リビングへ戻る。
「お待ちしてました〜〜〜!」
嬉々としたランドルさんの声に、またしても笑い声と同意する声、そして拍手が起こる。
「そんなに腹減ってたのかよ。はいはい、ちょっと待ってくれよな」
いつもの簡易コンロを三つ取り出し、蓋をした土鍋を並べる。
「はい、どうぞ。岩豚とハイランドチキンとグラスランドチキンのつくね入りのキムチ鍋だよ。肉も野菜もまだまだあるから、具が無くなったらこれを入れて火をつけてください!」
そう言って、岩豚のキムチ炒めや他の具材のお皿も取り出して並べておく。
「よし、じゃああとは好きに食ってくれ!」
またしても起こる拍手を聞き、とうとう堪えきれずに吹き出した俺だったよ。




