ニニの護衛役?
「ほら、とっとと起きろ。次が待ってるぞ」
笑ったハスフェルにそう言われて、俺はスライムベッドから何とか立ち上がって剣を構えた。
「ってか、もう来てるし!」
振り返って身構えたところで、思った以上に近い位置にさっきよりも少し大きなディノニクスが見えて慌てて下がる。
一瞬で分解したスライム達が足元を転がる。
「左よろしく!」
叫ぶと同時に右側を斬りつけ、ハスフェルが反対側を攻撃してくれる。それからもう一度タイミングを合わせて、今度は後ろ側の尻尾に近い位置を攻撃する。
だんだん攻撃するタイミングの取り方が解って来たみたいで、さっきよりも少し余裕を持って倒せるようになった。
その後は一人でやってみろと言われて、かなりビビりつつも何とか一人でディノニクスを倒す事が出来た。
ううん、改めて感心するのもなんだけど、このヘラクレスオオカブトの剣マジですごい。ハスフェル達が揃って、これがあれば俺でも恐竜と戦えると言った意味がよく分かったよ。
まず、とにかく切れ味が抜群なので、無駄な力を入れる必要が全く無い。
今までだと、それなりにデカい相手や鱗など硬い表層をした相手の時は、体重をかけるみたいにして思い切り叩き斬らないと攻撃が通じない事もあったし、当然全力で戦ってるから体力の消耗も激しかった。特に持久力が壊滅的に無い俺の場合、乱戦になった時などには特に後半の疲れが出てくる辺りで注意が必要だったんだよ。
だけど、今回の戦いは今の時点でまだまだ体力的に余裕がある。
まあ、当然かなり緊張してテンパって戦っているから、それなりに消耗もしているし疲れも感じている。それでも、すでに三種類の恐竜とかなりの数を戦っているのに、まだ余裕がある時点で凄い。
特に腕周りに疲労感がほとんど無いのは、初めての体験だ。
とはいえちょっと息が切れてきたので、八匹倒したところで一旦下がらせてもらった。
「お疲れ様、ご主人。なかなか頑張っていたわね」
壁際に座っているニニのところへ行き、ニニの首元に抱きついてもふもふを満喫してから自分で収納している水筒を取り出して飲んでおく。
この水筒に入っている水は、シャムエル様から貰った美味しい水の出る水筒から移し替えておいた美味しい水だよ。おかげで減っていた体力もすっかり元通りだ。
「いやあ、しかしまさかこの俺が一人で肉食恐竜を狩れる日が来ようとはなあ。世間の冒険者達が必死で装備に金をかける意味が分かったよ。この剣、マジですげえ」
今度街へ行ったら、フュンフさんに改めてお礼を言って報告しよう。俺でもこの剣のおかげで大型の草食恐竜や肉食恐竜を狩れましたって。
ちなみに、休憩しているのは俺だけで、ランドルさんも含めて全員が嬉々としてディノニクス狩りに精を出している。もう俺の従魔達の暴れっぷりなんてもう……はあ、水が美味しいなあ……。
「おい、いつまで休憩してるんだよ。次が出るぞ」
ハスフェルの声を聞こえない振りをしていると、ニニに思い切り横から頬を舐められて悲鳴を上げる羽目になった。
「もう、ご主人が行かないなら、私が行くもんね!」
立ち上がったニニに伸びをしながらそう言われて、慌てて水筒を収納してさっきの場所へ走って戻った俺だったよ。だから妊婦さんは大人しく……。
「だから、どうしてついて来るんだよ! ニニは駄目だってば!」
当然のように俺の後ろをついて来たニニを見て俺が叫ぶ。
「大丈夫よ。もうご主人の心配性! 私だってちょっとくらい楽しませてよね!」
もふもふの尻尾の先で俺の鼻先をくすぐるみたいにするニニの言葉に、俺は思わずハスフェルを振り返った。
「あんな事言ってるけど、駄目だよなあ?」
「大丈夫だよ。ニニちゃんには最強の守りがついているから心配するなって」
しかし、苦笑いしたハスフェルの言葉に驚き慌ててニニを振り返ると、そのすぐ隣にゆらめきが見えて思わず目をこすった。
「あれ? ベリーは仲間達と一緒に下へ降りたんじゃあなかったっけ?」
驚いてそう呟き、すぐに影の正体に気が付いて納得した。
『そっか、フランマとカリディアだな。ベリー達と一緒に行かなかったんだ』
フランマとカリディアの事はベリーと違って皆には話していないから、念話でそう話しかける。
『はあい、私達はずっとニニちゃんと一緒にいま〜す!』
小さい方のゆらめきが笑いながらそう答える。これはカリディアだ。
『はあい、私は水没地帯へ行くのはちょっと嫌だったから、ニニちゃんの護衛役で残りました〜!』
大きい方のゆらめきがそう言うのを聞いて思わず吹き出す。
『そうだったな。俺も水の中は嫌だよ。じゃあ任せるからニニの護衛はよろしくな!』
あの地下迷宮での泡が弾けてマジでビビった時の事を思い出しながらそう言うと、フランマの笑う声が聞こえた。
『だからニニちゃんの護衛は任せてね!ついでにご主人も危なそうなら守ってあげるから、安心して戦ってね!』
『俺はついでかよ!』
思わず笑いながらそう返して、腰の剣を抜く。まあ、フランマが護衛についてくれるのなら、ニニも戦っても大丈夫だろう。
「さて、それじゃあ俺ももうひと働きしますか!」
さっきほどの数ではないが、あちこちに現れ始めている大きなディノニクスを見て一つ深呼吸をした俺は小さくそう呟いて抜き身のヘラクレスオオカブトの剣を構えたのだった。