次の相手はディノニクス?!
「はあ、ご馳走様。いやあ、美味しかった」
小さなゲップと共にシャムエル様がご機嫌でそう言って、早速座って尻尾のお手入れを始める。
「おう、お粗末様。しかし相変わらずよく食うなあ」
かけらも残さず綺麗になっているお皿を見て、思わずそう呟く。
「だってどれも美味しいんだもん!」
当然のようにそう言われてしまい、もう笑うしかない俺だったよ。
「まあ、美味いって言って完食してもらえるなら、作った俺としてもいい気分だよ。さてと、じゃあ片付けたらいよいよ肉食恐竜のところか……うう、マジで大丈夫かなあ」
お茶を飲みながら、思わずそう呟いてため息を吐く。
「お前は相変わらずだなあ。それだけの装備で何が不安なんだよ」
ハスフェルに突っつかれて、とりあえず笑って誤魔化す。
「全くだよ。冗談抜きで、その装備の部分なら万一ラプトルに噛まれても大丈夫じゃあないか?」
「装備の部分ならな」
笑ったギイのツッコミに、割と真顔のハスフェルがそう答える。
「そうなんだよ! 問題は装備じゃあない部分に来られた時でさ!」
こちらも真顔の俺がそう答えると、ギイが呆れたように俺の剣を指差す。
「おいおい、貧弱な装備や丸腰の時ならいざ知らず、お前の腰のそれは、飾り物か?」
「いやあ、もちろん戦う気はあるんだけど、やっぱり怖いって言うか、恐ろしいって言うか……」
目を逸らしながらそう呟くと、鼻で笑われたよ。うう、そりゃあ自分でもヘタレだなあと思うけどさあ。やっぱり怖いものは怖いんだってば。だって、肉食だぞ、肉食!
「まあ、とりあえず行こう。ケンにはその間にしっかりと覚悟を決めてもらおう。大丈夫だよ。トリケラトプスに勝てたんだから、ディノニクスごとき大した事無いって」
「いやいや、ちょっと待って! ディノニクスのどこが大した事無いんだよって!」
しかし俺の抗議はスルーされてしまい、肩を落とした俺は諦めのため息と共に食器や机などを片付けたのだった。
「ちゃんと見てやるから心配するなって」
完全にビビっている俺を見て、苦笑いしつつハスフェルがフォローしてくれる。
「ハスフェルはそいつを甘やかし過ぎだぞ」
呆れたようなギイの言葉に、俺は返す言葉が無い。
『まあそう言うなって。ケンが元いた世界では、そもそも人々は武器を携帯しなかったって言うんだから、今ここでこうやって戦えているだけでも、俺は充分に頑張っていると思うぞ』
苦笑いするハスフェルのフォローが念話で届き、思わず必死になって小さく頷く俺。
『そりゃあまあ、言いたい事は分かるが、今はもうこの世界にいるんだから、そこは覚悟を決めてもらわないとなあ』
笑ったギイの言葉に、それもそうだとこれも納得して頷く俺。
だけど、もしも俺と従魔達だけだったら、そもそもこんな怖い所には来ないよ俺。
まあ……マックス達に勝手に連れて来られる可能性は……無きにしも非ずって言うか、可能性は高いって言うか……うん、背中に乗せられたまま地下洞窟へ連れて来られて、肉食恐竜を目の前にして悲鳴を上げている自分の姿まで、リアルに想像出来ちゃったよ。
遠い目になる俺だったけど、確かにギイが言う事も頭の中では理解出来ている部分も大いにある。
今はこうやってハスフェルやギイを始め、頼もしい仲間達が大勢一緒にいてくれるけど、彼らだって行きたいところもあるだろうし、今後別行動を取る可能性は常にある。
となると冗談抜きで、俺と従魔達だけになる可能性だって充分有るわけだよ。
そんな時に、怖いからと逃げ回ってばかりいるのはあまりにも情けない。
左手で腰のヘラクレスオオカブトの剣を軽く押さえる。
大丈夫だ。俺には頼もしい従魔達や、この相棒のヘラクレスオオカブトの剣がある。こいつが俺のヘタレっぷりも叩き斬ってくれないかなあ……。
若干現実逃避な事を考えつつ撤収を終えたグリーンスポットを見て、若干心配そうにこっちを伺うランドルさんとリナさん一家を振り返る。
「じゃあ、行きましょうか!」
自分への喝を入れる意味も込めて、ちょっと力をこめてそう言って笑う。
「ええ、行きましょう! 大丈夫ですよ」
ランドルさんのサムズアップに、俺も笑顔でサムズアップを返した。うん、ちゃんと笑えていたぞ。
そして目的の場所への通路を歩きながら、ハスフェルとギイから、動きの素早い肉食恐竜と相対する時の注意事項なんかについて、詳しく説明を受けたのだった。
「お前らのガードって、肉食恐竜相手でも大丈夫なのか?」
歩きながら思わずマックスの上に収まっているアクアゴールド達に話しかける。
「絶対王者はちょっと無理だけど、ディノニクスやラプトルくらいなら突然の攻撃からご主人を守るくらいは出来るよ。だから安心してね!」
ちょっとドヤ顔のアクアゴールドに続き、他の合体している子達までが揃ってビヨンと伸びてドヤ顔になる。
「そっか、じゃあ背後は任せるよ。お前らも、いざとなったらよろしくな」
苦笑いしつつマックスの首の辺りをそっと撫でてやる。
「任せてください。ご主人がちゃんと出来るようになるまで、しっかり周囲でお守りしますからね!」
尻尾扇風機状態のマックスに続き、ドヤ顔のカッツェとビアンカがこれまたドヤ顔で自己主張している。
「おう、よろしく頼むぞ。ああ、ニニは駄目だって。妊婦さんはゆっくり見学しててください!」
ニニまでがドヤ顔で進み出るのを見て慌てて遮ったんだけど、これは間違ってないよな?