トリケラトプスの攻略法
「ああ、ここは特に亜種だけってわけじゃあなさそうだな。まあ、少々亜種が多めのようだが、この程度ならケンでも大丈夫だろう」
「確かに、普通よりは亜種が多めかな。だけどこの程度なら、あの装備とヘラクレスオオカブトの剣があればまあ何とかなるだろうさ」
広場にいるトリケラトプス達を見たハスフェルとギイが、うんうんと頷きながら全然安心出来ない事を言ってるよ。
既に来た事を後悔し始めている俺は、密かにため息を吐いたのだった。
とはいえ、せっかくの新装備なんだから怖がってばかりもいられない。頑張って戦ってみる事にする。
大丈夫だ。スライム達も従魔達だっている。絶対に大丈夫だ!
まだ若干ビビっている俺は、必死になって大丈夫だと自分に言い聞かせていたのだった。
「よし、それじゃあ武器で攻撃する際の、トリケラトプスの攻略法について説明するからよく聞いておけよ」
振り返ったハスフェルの言葉に、俺とランドルさんが揃って真剣な顔で頷く。
「見ての通り、トリケラトプスの一番の武器はあの巨大な三本角だ。どの一本であってもまともに突き刺されたら、その瞬間終わりだぞ。人の身体くらい易々と貫くから絶対に気をつけろよ」
真顔のハスフェルの言葉に、何度も頷く俺とランドルさん。
そして俺の脳裏をよぎったのは、例の地下迷宮で酷い目にあったあの時の記憶だった。
確かにあのトリケラトプスはデカかったもんなあ。巨大ダンプカーか、大型重機並みだったもんなあ……。
思わず遠い目になって黄昏ていると、笑ったシャムエル様に頬を叩かれた。いかんいかん。今はトリケラトプス攻略法の説明をしっかり聞かないと。
「だから真正面から行くのは悪手だ。最悪だ。頭突きの要領で頭を下げてまともに突っ込まれたら、最強の盾であっても簡単に真っ二つになる」
顔の前でばつ印を作って見せるギイと、それを聞いて苦笑いしつつも大きく頷くハスフェル。
うん、それなりに長い付き合いだから分かるよ。あいつら絶対に一度はそれで酷い目にあってる訳だな。
「だよなあ。あの亜種に突っ込まれた時の事は、正直言って悪夢だったからなあ」
思わずそう呟くと、揃って振り返った二人も苦笑いしている。
「そうだったなあ」
「あいつらの張った結界が破られるのを俺も初めて見たよ」
笑った二人の言葉に、もう乾いた笑いしか出ない俺だったよ。
ナニソレ、あの巨大なトリケラトプスって、この世界の最初からいる神様でも見た事ないレベルの強さだった訳? うわあ、マジで良く生きてたな、俺。
「ま、また万能薬の出番かも……」
完全にビビった俺の呟きに、ハスフェルとギイが揃って首を振った。
「いや、大丈夫だよ。見たところあそこまでデカいのはここにはいない。まあ、あれは本当の特殊個体だと思っておけ。あんなのがそうそう出たら、怖くて地下洞窟なんて入れないさ」
わざとらしいその言葉に、思わずジト目になる俺。
「いや、お前ら絶対にあんなのが出る場所があったら嬉々として狩りに行くだろう?」
「当たり前だろうが。あんな美味しい獲物を逃してたまるか」
「それ、全然さっきの台詞と一致してないぞ〜〜!」
真顔で予想通りの答えを即答されて、思わず叫ぶ俺。そして吹き出すランドルさんとリナさん一家。
しばらく俺達は、揃って大笑いしていたのだった。
「まあ、冗談は抜きにして、とにかくあれに対して正面から行くのは例え普通種であっても最悪だ。なのでヘラクレスオオカブトと同じで、出来れば二人以上で組んで戦うのがいいぞ」
「ええと、つまりまた誰かが囮になるって事?」
ヘラクレスオオカブトの時の戦い方を思い出してそう尋ねると、二人が揃って首を振る。
「いや、そんな事したら正面に出た奴がやられて終わりだよ。そうじゃあなくて、同時に二箇所以上から戦うって意味だよ。常に別方向から同時に攻撃して、絶対に同じ場所に立たない。まずこれを徹底する事だ」
「ああ、成る程。それは確かに有効かも」
「そして攻撃する際にもう一つ絶対に注意しなければならないのが、あの襟の巨大なフリルだ。あれはそのまま中に骨があるから、まず武器は通らないと思っていい。とにかく硬いんだよ」
「これでも駄目?」
腰の剣を示しながら尋ねると、苦笑いしつつ首を振られた。
「俺やギイなら、ヘラクレスオオカブトの剣でフリルを切り落とす事も不可能では無いが、ケンの腕力ではまず無理だろうな。弾かれるか、切り込みの途中で止まるかのどちらかだ。そのままめり込んだ剣を持って行かれたら最悪だからやめておけ。それにヘラクレスオオカブトの剣といえども武器である以上、下手な攻撃をすれば折れる事だってある」
真顔のハスフェルの説明に、思わず首がもげそうな勢いで何度も頷いた俺だったよ。
「了解だ。襟のフリルは攻撃禁止だな」
「なので、攻撃は基本的に胴体と脚が中心になる。あのデカい図体だから、脚への攻撃は効果が高いぞ」
「狙うなら後ろ足の尻の横あたりか、前足の付け根の辺りだ。ただし真後ろは危険だから行くなよ。後ろ脚で蹴られたら、これもまず間違いなく終わりだよ」
揃って悲鳴をあげる俺とランドルさんを見て、ハスフェルとギイがニンマリと笑う。
「まあ注意点はそんなところだ。じゃあ俺がケンと組んでやるから、ランドルはギイと組めばいい。そっちも出来れば複数で戦う方が良いと思うがどうする?」
笑ったハスフェルの言葉に、心底安堵する俺。よし、それなら何とかなりそうだ。
「はい、俺達は二組に別れて戦います」
アーケル君がそう言い、リナさん夫婦と三兄弟が少し離れる。
「ああ、良いと思うぞ。じゃあ従魔達が待ちくたびれているみたいだから、そろそろ行くとしようか」
笑ったハスフェルの声に、俺は腰のヘラクレスオオカブトの剣をそっと叩いた。
よし、頑張れ俺! トリケラトプスにリベンジだぞ!