雪スライムのテイムととんでもない提案!
「ぶわあ! ちょっと待て! お前ら、俺達を潰す気かよ〜〜!」
雪の降らない地下の部屋で、まさかの雪津波に巻き込まれて埋もれて窒息死なんて絶対に御免だよ。
雪スライム達に埋もれながら必死になって俺が叫ぶのと、アクア達が一気に集まって俺の下にいつものスライムベッドになって広がってくれたのと、ブワッて感じに慌てて雪スライム達が下がるのはほぼ同時だった。
「おう……冗談抜きで死ぬかと思ったぞ」
「だなあ、しかもすごい力だったなあ」
呆れたようなハスフェルとギイの声が聞こえてそっちを向くと、俺と同じようにスライムベッドに受け止められた状態で倒れていた二人が、揃って苦笑いしながら起き上がるところだった。
ちなみにランドルさんとリナさん一家は、こちらも一体化した大きなスライムベッドに受け止められたものの、折り重なるみたいにしてまとめて倒れたまま、まだ放心状態で転がっている。
そして、ベリーを含めてケンタウロス達は、何故か全員無傷でその場に立っている。きっとバリアー的な何かをしたんだろう。多分。
「ああ、びっくりした。受け止めてくれてありがとうな。おかげで怪我しなかったぞ」
俺も苦笑いしつつ起き上がってまずは受け止めてくれたアクア達にお礼を言う。あのまま押し倒されていたら、氷みたいに冷たい地面に倒れるところだったんだからな。
「ええと、とにかくテイムだな。お前の名前は……何にしますか?」
ようやく我に返った俺は、ずっと掴んだままだった雪スライムを見てから、まだ名前を聞いていなかった事を思い出して長老を振り返った。
「では、マグノリアと」
にっこりと笑ってそう言われて、俺は改めて掴んだままだった雪スライムを俺の目の前へ持ってきた。
「お前の名前は、マグノリアだ。お前は、凄いお方のところへ行くんだぞ。可愛がってもらえよ」
そう言って、スライムベッドから起き上がった俺は、駆け寄ってきた長老にマグノリアと名付けた雪スライムを渡した。
「ありがとうございます。初めまして、マグノリア。新しくあなたの主人になるウェルド・ヘンネルと申します。ウェルと呼ばれています。どうぞよろしく」
「新しいご主人、よろしくお願いします!」
嬉々として伸び上がりながらそう言うマグノリアは、すごく嬉しそうだ。
まあそうだよな。あれって言ってみれば競争率何百倍とかってレベルの争奪戦に勝ったようなもんだからなあ。
苦笑いしながら、俺の周りを埋め尽くすようにして取り囲んでいる雪スライム達を見る。
駄目だ、この中からどれか一匹なんて選べないよ。
小さくため息をついて少し考えた俺は、いい事を思いついた。って事でその場で目を閉じて、そのまま何となく傾いた方へゆっくりと倒れた。もちろんわざとだ。
しかも、ハスフェル達やスライム達には俺を助けないように念押ししてある。
「危ない!」
雪スライム達の声が聞こえた直後、右斜め前に倒れた俺の下にひんやりとした反動がありポヨンって感じになる。
目を開くと、何匹かの雪スライム達が、予想通りに俺の体の下敷きになって受け止めてくれていたのだ。
「おいおい、大丈夫か?」
「いきなり倒れたから、びっくりしたぞ」
若干わざとらしいハスフェルとギイの声に、起き上がった俺は笑って下敷きになってくれた雪スライム達を集めた。
「大丈夫だよ。助けてくれてありがとうな。ええと、全部で十五匹か。じゃあまずはお前達をテイムするよ」
笑ってそう言い、順番にテイムしていった。まずは長老に残り九匹と、もう一人の人に五匹をテイムして渡していく。
それを見たランドルさんやリナさん達も揃って吹き出してから、スライムベッドから下りて、周りに集まっている雪スライムの上に倒れ込んだ。リナさんとアーケル君なんて、両手を広げて思いっきり雪スライム達の上にダイブするみたいに飛んでるし。
どうやら雪スライム達もこのやり方を理解したみたいで、嬉々として倒れた場所にいた子達が仲良く塊になって受け止めていた。
あちこちで歓声と笑い声が起こり、とりあえず俺とランドルさんとリナさんとアーケル君の全員が、今日テイム出来るギリギリの数まで、それぞれにテイムしてやったのだった。
「ケン、皆様も本当にありがとうございます。あの、まだまだいるようですので……」
「もちろん、明日以降もテイムしますから、どうぞお仲間を連れてきてください」
遠慮がちな長老の言葉に俺が何か言うよりも早く、笑ったアーケル君がそう答えてくれる。
リナさんとランドルさんも笑って頷いてくれたので、とりあえず今日のテイムはここまでにして、そのまま俺達は予定通りにまた地下洞窟へ行く事になった
「では、我らもジェム集めのお手伝いをいたしましょう。ここはなかなかに良い地下洞窟ですから、私も久々に暴れさせていただきましょう」
満面の笑みの長老のウェルさんの言葉に、嫌な予感がして振り返る。
「ええと、良い地下洞窟って……?」
すると、長老はもうこれ以上ないくらいの笑みになって、とんでもない爆弾発言をかましてくれたよ。
「なにしろここは、もともと人の子が掘った穴の部分がダンジョン化しているのですが、幾つか大きな崩落があり一部が完全に塞がって放棄されていたのですよ。ですがその部分も、今では広がってダンジョン化していますね。先ほど確認しましたが、どうやら先に見に行っていた仲間達がその存在を確認しました。ですがそちらはまだこことは繋がっていませんから、お任せいただければ我々が通路を掘って差し上げます。間違いなくここ以上に大きくて強い恐竜達が数多くいますよ。しかも下部の一部は水没していますから、おそらく我々でないと攻略するのは難しいでしょうねえ」
「はあ? 何それ! つまりここにプラスして、新しい地下洞窟が出来たって事? しかもここと繋がるって?」
満面の笑みの長老と俺の悲鳴のような叫びに、全員の悲鳴が重なる。
ちょっと待て! どうして全員揃って嬉しそうな悲鳴なんだよ!
「それでケン、一つお願いがあるのですが、出来れば今後も若い者達の修行の場として、このダンジョンの新しい部分を使わせていただきたいのですがどうでしょうか? もちろんジェムや素材は少しいただく程度で、あとは全てお渡しいたしますので」
気絶しなかった俺を、誰か、褒めて……。