ベリーと長老と雪スライム達
「よし、それじゃあサクッとテイムしちゃって、奥へ行こうぜ」
笑いが収まったところで、俺はそう言って俺の右肩に座っているシャムエル様を見た。
『なあ、俺だったら二十匹以上テイムしても大丈夫だよな?』
『まあそうだね。今のケンの力なら、雪スライム程度だったら一日三十匹程度は余裕だと思うよ。でも他の人の目もあるから、まあ……世界最強の魔獣使いって事にして、多くても二十匹くらいかな』
『普通の倍ならまあ許容範囲かな。じゃあそれでいくか』
苦笑いしながら、俺は足元を転がり回ってずっと自己主張している雪スライム達を見た。
前回、ハスフェル達やオリゴー君達に渡す子達を俺達がテイムした時は、言ってみれば適当に近くにいる子を捕まえてテイムしたんだよ。
もう今回もそれで良いよな?
「それから、名前は各自で考えてくださいね」
あんなに沢山は絶対に考えられないので、一応先にそう言っておく。
顔を見合わせたケンタウロス達だったが、おそらくベリーから聞いていたのだろう。にっこりと笑って大きく頷く。
よし、もう名前が決まっているのなら、サクッとテイムして差し上げようじゃあありませんか!
「じゃあ、俺はまずはハスフェルとギイに残りの五匹ずつをテイムして、あと十匹くらいは大丈夫だから長老にテイムすれば良いのかな?」
少し考えてそう言うと、長老はなぜか驚いたように目を見開いて俺を見た。
あれ? 俺、何か変な事言ったか?
「ま、まさか複数テイムしていただけるのですか?」
慌てたように俺のすぐ側まで一瞬ですっ飛んで来た長老が、そう叫ぶ。
危ない危ない! あんなデカい図体に真正面からぶち当てられたら、いくら俺の体が頑丈だって言っても、さすがに俺の異世界人生終わるって!
仰け反る俺を見て、苦笑いした長老がすぐに下がってくれる。
「し、失礼いたしました。つい……」
誤魔化すように笑って一礼した長老は、無言でベリーを見る。
するとベリーはにっこりと笑って背中に乗せている雪スライム達を振り返った。
「ねえ、長老達に見せてやってもらえますか?」
もう、その言葉だけで俺達にはベリーが例のダイヤモンドダスト合成を報告していなかったことが分かり、そろって吹き出しそうになるのを堪えて口を押さえた。
「何を見せるのだ? その子達なら、先ほど紹介してくれたではないか。優雅な花の名前の子達であったな」
厳しい眼光鋭いお顔とは裏腹に、意外なくらいに優しいイケボの長老の言葉に、もう一度にっこりと笑ったベリーがそっと右手を差し出す。するとそれを見た雪スライム達が、一瞬で彼の手目掛けて跳ね飛んでいき、一瞬でダイヤモンドダスト合成して見せたのだ。
俺達の吹き出す音と、長老を含めたケンタウロス達の悲鳴が重なる。
「ちょっと待てベリー! それは一体何事だ!」
「はい、これがテイムされたスライムだけが持つ特殊能力の正体です。これは雪スライム達が十匹集まって初めて出来るダイヤモンドダスト合成です。ああ、それ以外にもケンが連れている他のスライム達でも合成できる子達がいますよ。ケン、お願いしてもよろしいですか?」
これまた一瞬でベリーのすぐ横へすっ飛んでいった長老の言葉に、もうこれ以上ないくらいにドヤ顔になるベリー。
「ああ、いいよ。なあ、出てきて合成して見せてやってくれるか?」
鞄の中に収まっているスライム達に笑いながらそう言ってやる。
「はあい! 喜んで〜〜〜!」
どこの居酒屋だよって突っ込みそうになるのを我慢していると、まずはアクア達が次々とカバンから飛び出して来て、一瞬でアクアゴールドになって見せる。
そしてメタルスライム達も次々に飛び出してきて、また一瞬でクリスタル合成をして見せたのだ。
そして、当然のように出ている小さな羽でパタパタと羽ばたいて三匹が綺麗に空中で並んで見せ、まるで右手を差し出してポーズを取るかのように右の羽を揃って長老達の方へ向けて、空中に止まる三匹。
俺には分かるぞ。あれはドヤ顔だ。
目の前に並んだ羽の生えた三匹を見て、長老の口から奇妙な呻くような声が聞こえる。
そして大爆笑して笑い崩れる俺達。
成る程。来ているケンタウロス達が今日テイム出来る数よりも多いのは何故かと思ったんだけど、要するにベリーはこれがやりたかったのか。
大勢の仲間達が見ている目の前で、彼らも知識としては知っていても実際には誰も見た事が無いダイヤモンドダスト合成や、金色合成、そしてクリスタル合成をやって見せたかったわけだ。
すると、ようやく立ち直ったのだろう大きなため息を一つ吐いた長老は、ベリーの上半身に腕を伸ばして横から抱きしめたのだ。
「見事だ、ベリー・ヘンネル。我が息子よ。これで其方は長老たる資格を得た。堂々と胸を張って郷へ帰るが良い」
突然の長老の言葉に、俺の目が見開かれる。
待って。ベリーはまだまだ一緒にいてくれるんじゃあなかったのか?思いもよらない言葉を聞かされて顔色を失う俺。
しかし、目を輝かせて自分を見る長老を見たベリーは黙って首を振り、これ以上ないくらいの優しい笑顔で、呆然と彼を見つめる俺を見つめ返した。
「父上、ありがとうございます。ようやく私を認めてくださいましたね。ですがその件ならお断りしたはずです。私はまだまだ郷ヘは帰りませんよ」
自分を抱きしめる長老の腕をそっと叩いたベリーの言葉に、俺達はまたしても目を見開いたのだった。
それより待って。長老とベリーって、親子だったの?
もう一つ気付いた新たなる衝撃の事実に、もう俺は驚き過ぎて逆に冷静になる自分を感じていたのだった。
ううん、しかしこれってどこから突っ込むべきだ?