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ケンタウロスの長老

「お待たせベリー。ってうわあ、今日はめっちゃ寒いぞ!」

 揃ってお城の外に出た俺の悲鳴に、ほぼ全員が同意の声を上げる。

 空は真っ青で快晴なんだけど、とにかくめちゃくちゃ寒い。多分氷点下数十度レベル。知らんけど……。

 出てきた俺達に気づいたらしいベリーの姿が見えて、俺は慌ててマックスに飛び乗った。

「なあ、とにかく地下へ行こう! このまま外にいたら全員凍っちまうよ! おおい、雪スライム達も一緒に来てくれ〜!」

 俺の叫ぶような声にベリーが吹き出し、セーブルとティグとヤミーが一気に巨大化する。そして、裏庭側にある、雪で埋もれていた地下洞窟への入り口までラッセルして走ってくれた。

 半ばヤケクソの歓声を上げつつ、俺の後ろを全員がそれぞれの騎獣に乗って追いかけてくる。

 入り口に到着した俺はマックスの背中から飛び降りて、大急ぎで鍵を解除して真っ先に中へ駆け込んで行った。



「ああ、寒い!」

「何だよこの寒さ! 昨日までと全然違うぞ!」

「ああ、中はまだマシだなあ。うう、鼻が凍るかと思ったぞ」

 全員駆け込んで扉が閉められたところで、即座にあちこちに光の玉が現れて周囲を照らしてくれる。これはベリーが作ってくれた光の術で作る灯りらしい。

 入り口の扉を入ってすぐのところはホールみたいになった場所があって、俺達の従魔が全員巨大化していても全然平気なぐらいの広さがある。

 体に付いた雪を叩き落としていると、軽い蹄の音がしてベリーがすぐ側まで走って来た。

「ケン、改めて我らが郷の長老と仲間達を紹介させて頂きますね」

 嬉しそうなベリーの言葉に一瞬でその場にケンタウロス達が現れた。その数、ベリーを入れて十名。

 ベリーのすぐ横にいるのは、あの初めて行ったムービングログで行く鉱山観光の時に、姿を現して陽動作戦をしたあの北海道のばんえい馬みたいな超マッチョで、ハスフェルと同レベルに大柄で眼光鋭いお方。

 それが真顔でこっちを見ていたのだ。

「ああ、あの時の……」

 若干ビビりつつ俺が思わずそう呟くと、意外なくらいに優しい笑顔でにっこりと笑った。

「改めまして、世界最強の魔獣使い殿にご挨拶申し上げる。ケイローン一族を束ねる長。ウェルド・ヘンネルと申します。どうぞウェルとお呼びください。此度、貴重なる雪スライムを我らにお譲りくださるとの事。心より感謝致します」

 ちらっと俺の背後にいるランドルさんやリナさん一家を見た長老は、それだけを言って、前脚をゆっくりと折って胸元に手を当てて深々と頭を下げた。そして背後に控えていたこれまた大柄なケンタウロス達が、長老の挨拶に合わせて一斉に俺に向かって前脚を折って深々と頭を下げたのだ。

 ううん、前からのケンタウロス達の圧だけじゃあなくて、背後からのランドルさんとリナさん一家の視線が痛いよ。

「あの、ええと……どうか頭を上げてください」

 とにかく話が進まないので、そう言って顔を上げてもらう。

 気が付けば足元の地面には雪スライム達がわちゃわちゃと集まって転がっている。

 ちょうどバレーボールくらいのサイズになっている雪スライム達は、俺の視線に気が付いたみたいで、一斉に俺の前に集まって来た。多分自分をテイムしてくれって自己主張なんだろう。

 若干気が遠くなった俺だったけど、ふと思いついて後ろを振り返る。

 そうだよ。ここには俺だけじゃあなくて、他にも力のある魔獣使いがいるじゃないか。

 だったらここは彼らにも手伝ってもらって、一匹でも多くテイムするべきだよな。

 もしかしたら彼らもケンタウロスとの接点を持っていてもらうのは、良い事かもしれないもんな。



『なあ、考えたんだけどケンタウロス達にテイムしてやるのって、別に俺じゃあなくても良いよな? ここには他に魔獣使いとして充分な力を持ったランドルさん、リナさんやアーケル君だっているんだから、ここは彼らにも参加してもらうべきじゃね?』

 念話でハスフェルにトークルーム全開で話しかけてみる。しかも予想通りに、ベリーとも念話を共有出来ているし。

『ああ、確かに良い考えだな。今となってはベリーの存在自体も彼らに知られているんだから、縁を繋いでおく意味でもテイムしてもらうのは良い考えだと思うぞ』

 笑ったハスフェルの返事にギイも笑って頷いているし、ベリーも目を輝かせてうんうんと頷いている。

「ええと、なあランドルさん。それからリナさんとアーケル君。分担して彼らにテイムしてあげるのを手伝ってもらいたいんだけど、構わないかなあ?」

 そこまで言ってから、俺はリナさんの過去を思い出して密かに慌てた。

 何しろ以前、彼女は借金返済のためとは言え、信じて譲った従魔達を貴族達に殺されたり放置されたりして失っているんだ。

 例え相手がケンタウロスであっても、これはちょっと無神経で迂闊なお願いだったかも。

 密かに慌てる俺を見て進み出たランドルさんは、苦笑いしながらもう一度俺を見てからケンタウロス達を見た。

「俺なんかで良ければもちろんお手伝いしますよ。まあ、俺は知らない赤の他人に金を介しての譲渡は絶対にしないと決めているんですが、相手は賢者の精霊ですからね……信じてもよろしいんですよね?」

 最後は真顔でそう言い、ランドルさんは長老を真正面から見つめた。

 しかし、丁寧な口調とは裏腹に、その顔は本気で喧嘩を売ってるレベルで長老を睨みつけている。

 ランドルさんは、もちろんリナさんが過去にどれくらい辛い目にあったかって事も詳しく知ってくれているし、彼女がちゃんとそれを乗り越えて立ち直った事も知っている。

 だからこそ、万一にも譲った子達を虐待したり放置するような事をされたら絶対に許さない、とばかりの気概で賢者の精霊とタイマン張ってくれている。

 ああ、やっぱり良い男だよ。ランドルさん!

「人の子よ、どうぞご安心を。一度手元に置いたならばそれは我が子同然。この命尽きるまで大事に致します事を、我らが始祖たる創造神にかけて誓います」

 しかし、どうやらその辺りの事情もご存じらしいケンタウロスの長老が当然のように頷いて優しい声でそう言い、また前脚を軽く折ってランドルさんに一礼する。それに続いて全員が同じように一礼するのを見て俺達も笑顔になる。

「大変失礼を致しました。賢者の精霊殿。誓いの言葉、確かに受け取りました。私はランドルと申します。では、信じてお譲りいたします」

 笑顔で引き下がってくれたランドルさんにもう一度一礼する長老。



 へえ、トップがあんなふうに下手に出てくれると、話もまとまりやすいよな。さすがは賢者の精霊!

 なんて呑気に感心していると、今度は笑顔のリナさんとアーケル君が進み出てきた。

「ケンさん、私達も喜んでお手伝いします。ランドルさん、気遣いをありがとうございます」

 にっこり笑ったリナさんの言葉に、慌てたように顔の前で必死に手を振るランドルさん。

 だけどその顔が真っ赤になっていて、何だかおかしくなって俺が吹き出すとリナさんとアーケル君も笑い出し、全員揃ってその場は大笑いになったのだった。

 そんな俺達の周囲では、もう待ちきれないとばかりに跳ね飛んで自己主張する雪スライム達で一面埋め尽くされていたのだった。

挿絵(By みてみん)

三月九日より、コミックアース・スター様にて「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」のコミカライズが連載開始となります!

作画は、エイタツ様が担当してくださる事になりました。

どうぞ、公開までもうしばらくお待ちくださいm(_ _)m

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