山分けするぞ〜〜!
「そんなの絶対に駄目です!」
ランドルさんとリナさん一家から見事にハモった声でそう言われてしまい、俺は困ったように五万倍の小物入れを見た。
「ええと……それじゃあこうしよう。今言ったみたいに、俺が欲しいのはとりあえずこれだけなんだよ。だからこれだけで駄目だって言うのなら残りの山分けに俺も参加するよ。それで割り切れない余り分も俺が貰う。これでどうだ?」
最後はずっと笑っているハスフェルとギイを振り返りながらの言葉だ。
「そうだな。本人がそれで良いと言ってるんだから、それで良いんじゃないか? まあ、その五万倍の収納袋一個だけでも、売ればとんでもない値が付くのは確実だから、それ程無茶な話でも無いさ」
完全に面白がっているハスフェルの言葉に、まだ笑いながらギイもうんうんと頷いている。
「本当によろしいんですか?」
真顔のリナさんの言葉に、俺は笑いを堪えながら何度も頷いた。
「ええ、じゃあそれでいきましょう。となると、まずはこれを整理しなきゃあならないぞ」
散らかった収納袋を見てため息を一つ吐いた俺は、さっき取り出した自分の分を一旦収納してから立ち上がった。
「じゃあ、まずは時間遅延のある無しで分けるか」
「そうだな。じゃあやるとするか」
相当量あるこれらを整理するだけでも、かなりの時間がかかりそうだ。
ため息を一つ吐いて転がる収納袋を手にした時、アクアが触手をニュルンと出して俺の腕を突っついた。
「ご主人、整理ってどんな風に分けたいの?」
さすがにスライム達に字は読めないので無理だろうとは思いつつ、俺は手にしていた収納袋を開けて中を見せた。
「ほら、ここに字が書いてあるだろう。例えばこれは赤と青の文字で500って書いてあるんだよ。二色の字が書いてあるって事は、収納力がある上に時間遅延の能力もあるんだ。だからこれは時間遅延のある方に分ける」
机の横の空いた場所には、いつの間にか赤い色の布と青い色の布を結んだものが、それぞれかなり離れた場所に置かれている。
「これってもしかして、青い布の方に時間遅延の収納袋を置けば良いんだよな?」
「そうです。考えたんですけどこれが一番分かりやすいでしょう?」
笑ったリナさんの言葉に、俺も笑って頷いて青い布のある方に持っていた収納袋を置いた。
「で、これは赤い文字しか書いていないだろう? これは二百倍だな。赤文字だけのは、こっちな」
そう言って、赤い布が置かれた方にその収納袋を置いた。
すると、あちこちに好きに転がっていたスライム達が一瞬でソフトボールサイズになって転がって集まって来た。
「まずは一色のと二色ので分けるんだって! じゃあ始め〜〜!」
「は〜〜い!」
張り切ったスライム達が一斉にそう答えると、次々に収納袋を触手を使って持ち上げて中を開き、ちゃんと中に書かれた文字を確認しながら整理を始めたのだ。
しかも置く時には、鞄のかぶせを大きくまくり上げて中が見えるようにしてから綺麗に並べていく気遣いっぷり。
俺達が呆然と見ている間に、多分10分くらいで整理が終わってしまった。
「うわあ、すっげえ」
呆れたようなアーケル君の呟きにスライム達が揃って伸び上がる。俺には分かるぞ。今のはドヤ顔だ。
「じゃあ、俺達が中身を確認するから、低い方から順番に並べていくか」
どちらも相当量があるので、もう少し横に移動して広い場所を確保した俺達は、中身を見てスライムに指示して順番に並べていき、それほどの時間をかけずに全部の整理が出来てしまった。
確認したところ、この山分け分の時間遅延の在庫の中で一番良かったのが10,000と書かれたもので、これは十個あった。って事で、これは俺が二個貰って全員に一個ずつ。
それ以降は何故か一気に下がって1,000。それ以降は50刻みで数十個から数百個単位。何故か百倍以下は全く無かったよ。
それぞれの数ごとに均等に分けている途中から、もう皆の顔が笑い過ぎて強張っていたよ。
そして普通の収納袋の方も同じように一万倍が十個あり、それ以降は時間遅延のと同じ刻み方で、数にすると倍レベルで在庫があったよ。
まあ若干俺が多めに貰った程度で、ほぼ均等に分ける事が出来たよ。ううん、これ一人分でも売ったら相当な金額になりそうだな。
それぞれの目の前に積み上がった在庫を見て、揃って乾いた笑いをこぼす俺達だったよ。
しばらくして一つ大きなため息を吐いたランドルさんが、一万倍の普通の収納袋を手にして他の在庫を収納力の高い順に突っ込み始めた。
成る程、あんな風に収納袋の中に収納袋を入れておけば良いのか。
納得した俺はその真似をしようとして一万倍の収納袋を手にしてから、ふと思いついて手を止める。
最高が一万倍で、百倍以下は無いって……?
『なあ、シャムエル様。ちょっと聞いていいか?』
念話でトークルームを全開状態にしてからシャムエル様に話しかける。
何事かとハスフェルとギイがチラッとこっちを見たが、素知らぬ顔で自分の分の整理を始めている。
『うん、どうしたの?』
右肩に座っていたシャムエル様が、俺の顔が見えるように机の上へ一瞬でワープする。
『確か、あの地下洞窟へ入る前に、一番のレアが三百倍とかって言ってなかったっけ?』
確かにそう聞いた覚えがあったのでそう聞いたんだけど、その言葉に小さく吹き出したシャムエル様が抱きついた尻尾の影から俺をこっそり見た。
なんだよその可愛さは。ちょっともふもふさせろ!
あまりの可愛さに、脱線しそうになる思考を無理矢理引っ張って戻す。
『まあ、最初はその予定だったんだけどさ。せっかくケンの新しい武器のお披露目なんだし、私からのお祝いなの。まあ、次からは普通に三百倍が上限の……予定……かな?』
『そこ! なんで最後が疑問系なんだよ!』
マジで突っ込んだんだけど、三人揃って爆笑されてそのまま終わってしまった。
ま、まあ、それなら今回のみの大当たりだったって事でいいの……かな?