ここでの取り分について
「いやあ、これまた見事に一面クリアーだな」
自力で十匹倒したところで体力の限界を感じた俺は早々にリタイアしたんだけど、俺以外は人も従魔達も全員まだまだ嬉々として戦い続け、それでもまだまだ出現していた亜種の出現もとうとう止まったみたいだ。
合間にスライム達がジェムや素材をせっせと拾って回っていたのに、もう広場中足の踏み場も無いくらいにジェムと素材の背板と棘が転がりまくっている。皆、よくこんな場所で戦えたなあ。そっちの方に感心するよ。
「一旦撤収しよう。腹が減ったよ」
武器をしまったハスフェルの笑いながらの提案に、全員の同意の声が上がる。
「あはは、確かに腹は減ってるな。しかも普通だったらこのままグリーンスポットへ行って野営するところだけど、ここの地下洞窟なら夜は撤収してお城へ戻れるよな」
笑った俺もそう言いながら立ち上がり、座っていた椅子を畳んで収納した。
数が増えたスライム達は、大量に転がっていたジェムや素材をせっせと集めて回っている。
「ええと、じゃあ今日ここで集めたジェムや素材は、いつも通りにそれぞれ倒した人の所へ分けて届けてくれるか」
「了解です!」
スライム達が揃ってそう答えた時、驚いたようにランドルさんとリナさん一家が揃って振り返った。
「いやいや、何をおっしゃってるんですか! ここはケンさんの家の敷地内にある地下洞窟なんですから。俺達の取り分は三割ですよ!」
「そうですよ。個人の敷地内にある山や森、地下洞窟に入らせてもらう時の冒険者の取り分は、三割が相場ですよ」
真顔のアーケル君とランドルさんの言葉に、俺の方が絶句する。
「ええ、私有地だと七割がこっち? それはいくら何でも暴利だと思うぞ」
割と本気でそう言ったんだけど、ハスフェルとギイは黙って見ているだけで、何も言わない。
「なあ、冒険者の取り分が三割って、マジ?」
仕方がないので、ここは一応彼らの意見も聞いておく。
「まあ、俺の知る限り三割が上限だなあ。個人所有でそれ以上くれるところは知らないよ」
「俺は、入場料を取る上に冒険者の取り分が二割って地下洞窟を知っているぞ。碌でもなさそうだったから入った事は無いがな」
「ああ、それってもしかして、例の台風の目の色ボケ公爵のところの敷地にある地下洞窟ですよね。知ってます知ってます!」
「俺も知ってますよ。しかも実を言うと入った事ある。入ってみて分かったんだけど、噂と違ってあそこの地下洞窟ってトライロバイトとアンキロサウルスが出るくらいで、出現率も他に比べるとはるかに低いんだよなあ。だから二割だと下手したら赤字になるハズレの洞窟だから、俺はもう二度と行かないよ。こことは大違いだよ」
苦笑いしたギイの二割発言に、オリゴー君とカルン君が手を上げてそんな事を言いながら二人同時に吹き出して大笑いしている。ハスフェルとランドルさんも苦笑いしつつ頷いているから、どうやら噂を知っているみたいだ。
「ああ、あの二つの台風事件の公爵か! あそこの敷地にある地下洞窟はハズレだってもっぱらの評判だぞ」
笑ったアーケル君の大声に、ランドルさんとリナさんとアルデアさんも吹き出して大笑いしている。
「だからそっちの噂は、俺達が流した正しい情報の方だよ。あの公爵、自分の配下の奴らを使って冒険者の集まる場所でその地下洞窟の嘘情報を流していたんだよ。それでうっかりその情報に釣られて行って、入場料まで取られた挙句大赤字だったんだよ」
「そりゃあしっかり事前の情報集めをしないで行った迂闊なお前が悪い」
リナさんの容赦ない言葉に、突っ伏して泣く真似をしているカルン君。そしてそれを見て遠慮なく大爆笑するアーケル君とオリゴー君。ううん、この辺りは仲の良い兄弟ならではって感じだなあ。
「二つの台風事件……なんか聞き覚えが……?」
しかし、その会話の中に妙な引っ掛かりを覚えた俺は、しばらく考えて思い出した瞬間に吹き出したよ。
「それって、確かカルーシュの街でファルコとタロンが誘拐された例の事件の時の……諸悪の根源の公爵の事じゃん。うわあ、あの公爵、色ボケの上に強欲野郎だったのかよ。最低だな」
そう呟いた俺の言葉に堪えきれずに吹き出すハスフェルとギイ。そして驚きに目を見開くランドルさんとリナさん一家。
「ええ、誘拐事件って何ですか?」
「ファルコとタロンが誘拐されたんですか!」
慌てたようなアーケル君とリナさんの質問に俺達三人はもう笑いを必死で堪えつつ、終わってみればあまりにも馬鹿馬鹿しかった例の誘拐事件のあらましを語ったのだった。
「うわあ、馬鹿すぎる」
「しかもあれだけ大騒ぎをやらかして、まだ懲りてなかったって辺りが、もはや救いようがないよ」
アーケル君達の遠慮の無い感想に、もう一回吹き出してまたしても大爆笑になった俺達だったよ。
「だよなあ。俺は途中から割と本気で、もう全部まとめて焼き払ってやるのが一番いい解決方法なんじゃあないかと思ったくらいだからなあ」
腕を組んだ俺が、笑いを堪えつつそう言うとまた笑いが起こる。
笑いが収まるまで、それからしばらくかかったのだった。
「はあ、じゃあどうしようかなあ。俺はもうここで集めたジェムや素材はいつも通りに皆に渡すつもりだったんだけどさ」
正直言ってジェムも素材も塩漬けになるくらいにあるんだから、出来れば引き取っていただきたい。
ようやく笑いが収まった俺の言葉に、リナさん一家とランドルさんが戸惑うように無言のまま互いの様子を伺い合う。
「あの、本当によろしいんですか?」
遠慮がちなリナさんの声に、俺は苦笑いしつつ大きく頷いた。
「もちろんです。それにここは一般に公開するつもりはありません。あくまでもここに入って良いのは俺が認めた友人と従魔達だけです。ね、だから言ってみれば庭の石を拾うのと同じですよ。この際、相場がどうだなんて野暮は言いっこなしにしましょう」
もちろん、一般公開しない一番の理由は、あの水晶樹の森があるからなんだけどね。
ギイの結界魔法に加えて、スライム達総出の岩積みで通路は完全に塞いであるから大丈夫だとは思うんだけど、万が一って事があるから、無関係な第三者は入れたくないんだよ。
俺の言葉にようやく納得してくれたみたいで、ここではいつも通りにそれぞれ倒した分は自分の取り分って事で話がついたよ。
まあ、それでも従魔達の集める量が半端ないから、結局俺がもらう量が一番多いんだけどさ。
そんな感じで何とか話もまとまったところで今日のところはここまでにして撤収する事になり、俺達はまた隊列を組んで元来た道を地上まで戻って行ったのだった。
お疲れ様でした〜〜!