凄いぞ俺の剣!
「よろしく頼むぜ。新しい相棒!」
剣を構えてそう呟いた俺は、目標にした大きなステゴザウルス目掛けて突進していった。
まず狙うのはあの大きな棘のある尻尾だ。
抵抗されて振り回されるととんでもなく危険なので、出来れば斬りつけて少しでも良いからダメージを負わせておきたい。そうすれば、尻尾を振る際にも痛がって隙が出来るだろうからな。
そう考えた俺は、尻尾の根元なのだろう辺り、丁度背中に並んだ背板と尻尾の棘の真ん中辺りを目掛けて振りかぶった剣を叩きつけるようにして振り下ろした。
「ほえ?」
我ながら間抜けな声が出たと思う。
しかし、そうなるのも無理はなかろう。
だって、俺の目の前には、スパッと見事な断面を見せて切り落とされた巨大な尻尾が転がっていたのだから。
うええ、全然抵抗無く斬れたんだけど、これ骨ごと斬っているよな?
そして見えたのは、音もなく消えていく斬り落とした尻尾と転がる素材の棘と、甲高い悲鳴を上げてその場から逃げようとするステゴザウルスの背中だった。
反射的に俺はその後を追いかけ、右横から大きな横っ腹の辺りを斬りつけた。
これは体の表面を浅く斬っただけだったが、逃げかけていたステゴザウルスの足が止まる。
その直後に体当たりの前兆だと聞いた通りに前脚を大きく曲げるのが見えて、咄嗟にその右前脚の根元辺りを思い切り突き込むように斬りつけた。
前脚の根元に深々と刺さった剣をそのまま力一杯引き抜き、即座に左腕に装着した丸盾を構えて巨大な胴体部分に体当たりするみたいにしてぶん殴る。
バランスを崩したステゴザウルスが地響きを立てて倒れ、無防備な腹が俺の目の前一杯に広がる。
「もらった!」
咄嗟に剣をまっすぐに構えて、そのまま腹に向かって突き込むように突進した。
剣が吸い込まれるように腹の中へ消え、その直後に大きなジェムと何枚もの背板が音を立てて地面に転がった。
「や、やった〜〜〜!」
思わずガッツポーズで声をあげたよ。
凄い! 俺一人でステゴザウルスをやっつけちゃったよ。しかも亜種!
「お見事」
「いやあ、まだまだ無駄な動きは多いし戦い慣れていない部分はあるが、ステゴザウルスとの初戦でこれは、お見事と言って良いだろうさ」
笑ったハスフェルとギイが、揃ってそう言いながら拍手をしてくれた。
いや、お前らの周りにゴロゴロ転がってるジェム、一体何個あるんだ? 俺が一匹倒す間に、どれだけ倒したんだよ。
「まあ、あいつらと一緒にしたらいけないよな。俺は確実に一匹ずつ倒すぞ!」
自分に言い聞かせるようにそう呟き、持ったままだったヘラクレスオオカブトの剣を見た。
刃こぼれの一つもなく、怖いくらいの輝きを放つそれを見て、小さく息を呑む。
「あの尻尾、マジでほとんど抵抗無く斬り落とせたもんなあ。お前、どれだけ斬れるんだよ。マジで凄えな」
呆れたように小さくそう呟き、一つ深呼吸をしてから周りを見る。まだまだデカいのが沢山いるよ。
「次は、あいつだ!」
さっきよりもやや大きいが、尻尾の棘がやや短い。
次の標的を決めた俺は、もう一回深呼吸をして息を整えてから、剣を構えて駆け出して行った。
今度も、まずは尻尾への攻撃からだ。
そしてこれまた易々と斬り落とせてしまい、もう驚きに言葉が出ない。
「うわあ、冗談抜きでフランスパン切るより抵抗無いぞ」
何というか、分厚いバターを切っているみたいだ。まるで抵抗らしい抵抗が無い。
「尻尾の骨ってどうなってるんだよ。絶対あるだろう?」
そう言いつつも、尻尾を斬り落とした直後に今度は後ろ脚の根元に切り付けて足止めをしてから胴体への攻撃のコンボで、あっという間に二匹目も討伐完了。
「おい、大きいのが行ったぞ!」
二匹目を討伐して息を整えていると、ハスフェルの大声が聞こえて慌てて振り返った。
地響きを立ててこっちに向かって走ってくるのは、俺が倒した二匹とは比べ物にならないレベルのデカさだ。多分最大クラス。
「無理無理無理〜〜〜!」
「無理でもやれ!」
一喝されて覚悟を決める。
ここで背中を向けて逃げたら、間違いなくそのまま突進されて終わる。あの勢いだとスライム達の防御でも止めきれないだろう。そんな事になったら、俺だけじゃなくスライム達まで道連れだよ。
「無理だけど、やるしかないのかよ!」
咄嗟に腹を括ってそう叫び、剣を突き出すみたいにして横向きに構えて俺も走り出した。
「うわあ〜〜〜〜〜!」
突進してくるステゴザウルスを間一髪で避けてその横を走り抜ける。手にした剣は、横向きにして持ち水平の位置で腰だめに構えたままで。
結果として、ステゴザウルスは俺の構えた剣に頭から突っ込んでいくかたちになり、呆気なく水平に真っ二つになって消えていったよ。
またしても音を立てて地面に転がる大きなジェムと素材の背板と棘。
「うわあ、今すっげえ事したぞ、俺」
剣を横向きに構えたまま、思わずそう呟く。
吹き出すハスフェルに、振り返った俺は思い切り顔をしかめて見せたのだった。
結局、その後も戦い続け、十匹倒したところで限界がきて一旦下がった。
従魔達はまだまだ嬉々として大暴れしているし、ハスフェルとギイの二人の戦いっぷりは言うに及ばず。ランドルさんも順調に倒しているみたいだ。
そしてリナさん一家の周りに転がるジェムと素材の数といったらもう……。
「魔法で倒す方が、そりゃあ効率良いよなあ。はあ、疲れた」
スライム達に周囲を守ってもらいつつ、とにかく美味しい水で水分補給をする俺だったよ。