目的地に到着だ!
「おお、前回見た時も思ったけど、やっぱりここは広いなあ……そしてデカいぞ! なあ、ここの恐竜ってあんなに大きかったっけ?」
明かりを強くした途端に目に飛び込んできた広場の光景を見た俺の、これが開口一番の台詞だ。
だって、広い通路を抜けてようやく到着した目的地である広場には、巨大なステゴザウルスが悠々と水浸しの広場を歩き回っていたんだけど、どう見ても俺の記憶にある以前地下洞窟や地下迷宮で見たステゴザウルスよりも大きい気がする。
ううん、これは俺の気のせいなのか?
「おやおや、こいつは亜種ばかりの出現回に当たったか。ううん、これは困った。なあ、どう思う?」
「個人的には当たりで嬉しいんだが、いきなりこれかあ……ううん、さて困った。どうするかねえ」
腕組みをしたハスフェルとギイの言葉だが、困った困ったと言いつつその顔は笑み崩れていて顔と言葉が全くもって一致していないぞ。おい。
「いやあ、いきなり亜種だけの出現回に当たるとか、こりゃあ凄い!」
「行きましょうよ! 亜種だけの出現回なんて、大当たりじゃあないですか!」
「いやあ、ここまでデカい亜種は俺も初めて見ますよ。早く行きましょうよ!」
アーケル君達草原エルフ三兄弟が、何やら嬉々として恐ろしい事を言っているよ。
「何だよその、亜種だけの出現回って」
まあほぼ予想はつくけど、一応聞いておく。
「何って言葉通りだよ。出現する恐竜全てが亜種で、しかも出る数に上限が無い」
「通常の場合、一度に出現するジェムモンスターの亜種の割合は決まっていて一定数以上は出ないんだよ。だが時折上限の無い亜種だけの出現回があって、俺達は当たりと呼んでいる」
「当然、素材も出るしジェムも通常種よりも高額だからな」
「ただし、当然デカいし強いけどな」
にんまりと笑ったハスフェルとギイの説明に気が遠くなった俺だったよ。
「ええ、ステゴザウルス初体験で、いきなり亜種と戦えってか?」
まあ戦うのはもう決定事項なんだろうけど、一応文句は言っておかないとな。
「大丈夫だよ。お前さんの今の装備なら亜種が相手でもそうそう遅れを取る事なんて無いさ」
サラッと軽く言われてしまい、思わず自分の新しくなった装備を見下ろした。
「そりゃまあ、以前の防具よりも格段に防御力は上がってそうだけどさあ。そもそもここへ来たのって、俺のヘラクレスオオカブトの剣の切れ味を試すだけのつもりだったのに、何でこうなってるんだよ」
冷静に考えて突っ込んでみたんだけど、サラッと聞き流されたよ。
「はあ、マジかよ。本当に大丈夫かねえ。俺」
諦めのため息を吐いた俺を見て、満足そうに笑って頷き合うマッチョ二人。
うう、覚えてろよお前ら!
とはいえせっかく大枚叩いて最高の装備を整えたんだから、俺だって戦ってみたいって気持ちはある。
巨大なステゴザウルス達を見て、手にしていたランタンをどこに置こうか考えていたら、セキセイインコのメイプルが巨大化してランタンを咥えて、頭上にある段差に飛んで行って留まった。他のインコ達やリナさん達が連れているオーロライーグレットも同じく巨大化して、皆が持っていた明るくしたランタンを咥えて飛び立ってあちこちに留まってくれた。
どうやらお空部隊は、ファルコとプティラ以外はこの戦闘には参加しないみたいだ。
だけどそのおかげで広いこの場所は、まるで昼のような明るさになったよ。
「おお、これなら外と同じに動けるな。よし、それじゃあ頑張って戦ってくれよな」
笑ったハスフェルの言葉に、俺は諦めのため息を吐いて大きく頷いた。
一応、大きい方の兜を取り出して被り、腕に取り付けた盾ももう一度確認して、一つ深呼吸をしてからヘラクレスオオカブトの剣の柄を握った。
それを見て、従魔達も広場の周囲を回り込んで奥の方へ駆け足で散らばって行った。
「じゃあ俺達は、右側の方で戦いますので、ケンさん達は左側をお願いしますね」
アーケル君の声に広場の左側を見ると、そちら側は明らかに地面が平らで足場が良さそうだ。逆に右側にはいくつも段差があり、かなり足場が悪くなっている。
「俺達は主に術で戦いますから、戦う場所の足場はそれほど重要じゃあないんですよね。でも、武器を持って戦うのなら足場の良し悪しは重要でしょう?」
「確かにその通りだな。じゃあ、ここは有り難く提案に乗らせてもらうよ」
苦笑いした俺の言葉に草原エルフ三兄弟は揃ってサムズアップを寄越した。
「健闘を祈る!」
「おう、何とか死なない程度に頑張るよ」
誤魔化すようにそう言って笑い、俺もサムズアップを返した。
ハスフェル達と一緒に左の方へ移動して、周囲にいるステゴザウルス達を見る。
「ううん、どれもデカいけど……あ、あの手前にいるのが少し小さいなあ。じゃあ俺はあいつにするよ」
ちょうど近くにいるのが、やや小さめで尻尾の棘も短い気がする。気がするだけかもしれないけどさ!
「おう、了解だ。じゃあ俺達は邪魔しないように少し離れて戦うよ」
「万一危なそうなら助けに入るから、安心して戦えよな」
「おう、いざとなったらよろしく頼むよ!」
もう一度諦めのため息とともにそう言うと、足元にいた肉球マークが伸び上がって俺の周りで跳ね飛び始めた。
「大丈夫だよご主人!」
「アクア達がお守りするからね〜〜!」
「アワユキ達にも守り方をちゃんと教えたからね〜〜!」
「だから思いっきり前に出ても大丈夫だよ〜〜!」
「背中はお守りしま〜〜す!」
何とも頼もしい護衛部隊の声に、俺は笑って今度は安堵のため息を吐いた。
「そうだな。いつでもお前らが守ってくれているんだよな。じゃあ、今回もよろしく頼むよ!」
自分を奮い立たせるためにそう言って、ヘラクレスオオカブトの剣を抜き放った。
怖いくらいに曇りの一つもない刃がランタンの明かりを受けてギラリと輝く。
「よろしく頼むぜ。新しい相棒!」
小さくそう呟き、剣を構えた俺は目の前のステゴザウルス目掛けて突進していったのだった。