まずはステゴザウルス目指して出発だ!
「よし、まあそんなところだよ。それじゃあそろそろ行くとするか」
一通りのステゴザウルス攻略法の詳しい説明を終えたハスフェルの言葉に、立ち上がった俺達は急いで椅子や出したままだった机を片付けた。
「ランドルさんは、もしかして地下洞窟で恐竜と戦った事って無いんですか?」
先程、俺と一緒になってハスフェルの説明をそれはそれは真剣な様子で聞いていたランドルさんを思い出して思わずそう尋ねる。
前回のここの地下洞窟のマッピングは、従魔達が先行して一通りの出現恐竜達を倒してジェムを集めて来てくれたので、俺達は出現個所の確認をした程度で恐竜とは一切戦っていない。
それを考えると、もしかしてって思ったんだよな。
確か、地下洞窟へ入るのは、冒険者の中でもごく一部の地下洞窟専門の人だって聞いた覚えがあるし。
すると、ランドルさんは苦笑いしながら何度も頷いた。
「トライロバイトなら何度もありますよ。あれはジェムも素材も高く売れる割に簡単に倒せますからね。行ったのはバッカスと一緒の時で、東アポンにある地下洞窟にいるブラックトライロバイトです。ジェムモンスターの出現率が激減していた頃で、ですが地上に比べればまだ地下はそれなりの数が出ましたからね。二人して借金の返済に追われていた俺達は、かなり大変でしたがトライロバイトのジェムと素材のおかげで無事に借金を返済出来たんです。でもさすがにそれ以上の恐竜のところへは二人だけで行こうとは思わなかったですね。ですが今なら従魔達がいますから、恐竜が出ても余裕で大丈夫だと思えますね。怖いもの知らずと言われるかもしれませんが、個人的には自分の腕がどれくらいまで通用するのか確認しておきたい気はしますので、一通りの草食恐竜の後で構わないので、出来れば肉食恐竜のところへも行きたいですねえ」
さすがは上位冒険者のランドルさん。穏やかで大人しそうに見えるけど、実はかなり血の気が多いんだよなあ……。
「あの、俺達も出来れば肉食恐竜のところへも行ってみたいです!」
俺達の話す声が聞こえたらしく、アーケル君達が揃って自己主張している。
「いやいや、俺はそんな危険なところには……」
しかし、びびっているのはどうやら俺だけだったみたいで、リナさん夫婦までがキラキラした目で俺の事を見つめている。
「まあ、それは一通りの草食恐竜チャレンジが終わってから余裕があればな」
ため息を吐いた俺の言葉にリナさん一家とランドルさんが大喜びで拍手をしていて、それを聞いたハスフェルとギイが揃って嬉しそうに俺の背中を叩いた。
「よし、それでこそ冒険者だ! まあ、せっかくそれだけの見事な装備を新しく揃えたんだからな。使ってやらないと装備が可哀想だぞ」
「もちろん、肉食恐竜のところへ行く時には、ちゃんと戦い方を教えてやるからな」
「よろしくお願いしま〜す!」
俺とランドルさんの声が見事に重なったよ。
「そっか、俺達は術があるからデカい獲物が相手でも別に大丈夫だけど、武器で攻撃してジェムや素材を確保するのは、間近で戦わないといけないからかなり大変なんだよなあ」
うんうんと頷き合っているのは、アーケル君達草原エルフ三兄弟だ。そうだよな。確か初めて会った時、トライロバイトや草食恐竜のジェムや素材をアーケル君は買い取りに出していたよな。
そんな感じで話もまとまり安全地帯を後にした俺達は、通路である広い元坑道を従魔達に守られつつ目的の広場へ向かう。
目的地のステゴザウルスが出る広場は、この地下洞窟にいくつかある広場の中でも相当な広さのある場所になっていて、天井もかなり高い。
ちなみにここが鉱山だった頃には鉄鉱石が主に採掘されていた場所らしいんだけど、それ以外にも何種類かの宝石の原石や、ごく少量だったけどミスリル鉱石も取れた良質な鉱山だったらしい。
それでステゴザウルスの出る大きい広場が、一番鉄鉱石が多く採掘されていた場所なんだって。成る程、それであんなに広いわけか。
『なあ、ちょっと聞くけど、今はもうここでは鉄鉱石や宝石の原石は採掘出来ないわけ?』
真っ暗な通路をそれぞれが手にしたランタンの明かりを頼りに進んで行く。
黙々と歩きながらなんとなく間が持たなくて、俺の右肩に座って寛いでいるシャムエル様に念話で尋ねる。
『そうだねえ。実を言うとまだ完全に鉱脈自体は無くなったわけじゃあないんだけどさ。ここには例の水晶樹の森を作っちゃったから、今更鉱山を再開するわけにもいかないんだよね。いくら個人所有の鉱山であっても実際に採掘するとなると、当然大勢のドワーフ達や人間の鉱夫達に働いてもらわなければいけなくなるからね』
『ああ、成る程。確かに水晶樹の森がある以上、迂闊にここに赤の他人を入れるわけにはいかないのか』
うんうんと頷くシャムエル様を横目で見て、苦笑いした俺はこっそりため息を吐いた。
『じゃあ、鉱山再開は諦めるよ。第一、ジェムモンスターが出るような場所で、採掘作業なんて危なくてやってられないよな』
『あはは、確かにそうだね。ジェムモンスターと戦いながらツルハシやスコップを使うのはかなり無理がありそう。いっそツルハシで戦ってみる?』
以前俺が水路に落ちた時の、岩の壁を破る為に、必死になってツルハシを振りまくったことを思い出してしまい、遠い目になる俺だったよ。あれでジェムモンスターと戦ったら、早晩俺の腕力と握力がお亡くなりになりそうだよ。
いや、冗談抜きでここでは安全第一で行くぞ!
冗談でも、自分の家の庭で遭難するなんて絶対にごめんだからな!