ご馳走様と盾の扱いについて
「いやあ、どれも美味しかったねえ。ご馳走様でした!」
半分にしても絶対一人前以上は余裕である超ボリュームのミンチカツバーガーセットをかけらも残さず綺麗に平らげたシャムエル様は、ご機嫌でそう言ってせっせと身繕いを始めた。
食べている間は触り放題だったもふもふ尻尾も、ああなってしまってはもう触らせてもらえない。
諦めてまだ少し残っていたポテトを摘みつつ、丸ごと残っていたナゲットはそのままサクッと収納しておいたよ。
食べ終えて一息ついた俺は、収納していた小さい方の丸盾を取り出した。
戦いの時に被っていたヘルメットもどきは、収納してあるので今は被ってはいない。
「なあ、これってここに腕を通して使うんだよな。じゃあ剣は片手で扱うのか?」
ヘラクレスオオカブトの剣は、片手でも両手でも扱える仕様になっているけど、俺は今まで基本的に剣は両手で持って戦っていたので片手で剣を扱って戦った経験が無い。
それでいきなりステゴザウルスに突っ込むのは、どう考えても高難易度クエじゃね? 改めて丸盾を見ながら急に不安になる俺だったよ。
「ああ、それなら貸してみろ」
ハスフェルにそう言われて素直に丸盾を渡す。
「ここをもう少し緩めて……」
何やら呟きながら、盾の裏側部分を見ながら何かしている。
「ほらこれでいい。左腕を出してみろ」
作業はすぐに終わったみたいで、顔を上げたハスフェルにそう言われてこれまた素直に彼の前に左腕を差し出した。
「両手剣を使う時には、ここに腕を通してしっかりと丸盾自体を腕に固定するんだ。ちょうど今装備している籠手と位置が合うはずだからな。ほら、ここのところに籠手を留めて固定する為の金具が付いているだろう」
裏返した盾を見せながらそう言われて覗き込む。
「ああ、この小さな金具か? あれ? ここのところに握る持ち手が付いていたよな?」
見ると、盾の裏側部分には先ほどまであったはずの握る持ち手部分が無くなっている。
「ああ、持ち手は倒してあるだけだよ。ほら」
そう言って、今教えられた籠手と丸盾を留める金具の横を触るとコの字型の持ち手が起き上がってきた。
成る程、持ち手はそのまま斜めに畳んでしまえるのか。
「片手で持てる丸盾は、だいたいこの仕様になっているよ。片手剣でも両手剣でも扱えるようにな。これを作った職人達も、まさかお前が盾の仕様そのものを知らないとは思わなかったみたいだな。ほら、装備してみろ」
苦笑いしながら丸盾を返されて、受け取った俺はとりあえず言われた通りに丸盾を左腕に装着してみた。
「この革の筒の部分に腕を通して、金具で籠手と丸盾を固定するっと。よし、これで出来たぞ」
しっかりと丸盾を固定したところで立ち上がって軽く腕を振ってみる。
肘から手の甲部分まで丸ごと覆う形で固定されている丸盾は、腕に思った以上にしっかりと固定されていて揺らぐ様子も無い。
「ああ、これなら両手で剣を握って攻撃も防御も出来るわけか」
両手を握った状態にしてみても、腕に装備した丸盾は邪魔にならない。
「ああ、それでいい。攻撃する時は今言ったようにいつも通りに両手で持って攻撃すればいいし、いざって時にはその丸盾で防御が出来るわけだよ。まあこれも慣れだからな。じゃあこれで、腹ごなしと練習を兼ねてちょっとだけ手合わせしてみるか?」
笑ったギイがそう言って取り出してくれたのは、二本の木刀。まあ、これは剣の形をしているから木剣って言うのかな?
旅に出てハスフェルと出会ってすぐの頃に、彼に戦い方を一通り教わった時に何度かそれで手合わせをしてもらっているが、あの時はもう全く手も足も出なかったんだよなあ。
それでその結果分かったんだけど、俺には戦いそのものは出来るからジェムモンスター狩りは出来るけれども、対人戦のセンスだけは壊滅的なまでに無いから、絶対に気をつけろって真顔で注意されたんだよ。
まあ、今では俺もそれなりに場数を踏んで戦闘経験はあるけど、やっぱりハスフェルやギイとではそもそもの戦闘能力そのものが違いすぎる。
「無茶言うなって。お前らと手合わせしたら俺が一方的に叩きのめされる未来しか見えないよ」
顔の前でばつ印を作って必死で無理アピールをする。
「それならハスフェルとギイで丸盾付きで戦って見せてあげればいいよ。ケンには一通りの武器や防具を扱えるように能力を付与してあるから、見て覚えればいいと思うな」
まだ尻尾の身繕いをしていたシャムエル様が、突然俺達の会話に乱入してきた。
だけどそれを聞いて納得したのかやや細身の木剣を一旦収納したギイが、また別の大きな木剣と、俺が使っているのと同じような丸盾を取り出した。それを見て、ハスフェルも収納していた自分の木剣と丸盾を取り出して、それぞれ腕に丸盾を装着し始めた。二人が持っている木剣は、どちらもかなり大きめの両手剣タイプだ。
「それなら俺達が両手剣での盾の扱い方の見本を見せてやるから、そこでしっかり見ていろよ」
装備を整えて広い部屋の真ん中に流れている水路の向こう側へ歩いていた二人が、揃って振り返りながらそう言ってニンマリと笑う。
「よろしくお願いします!」
目を輝かせてそう叫んだ俺は、慌てて真ん中の水路から少し下がったところへ椅子を持って行き、向かい合って立った二人を丁度横から見える位置に置いて座り直す。
神様二人の木剣での手合わせ、しかも丸盾付き。特等席で見せてもらうぜ!
すると、それを見て慌てたように椅子を持ったアーケル君達が走って来て揃って俺の横に椅子を並べて座り、更にはリナさん達とランドルさんもそれぞれ椅子を持って走って来てその両横に座った。
どうやら彼らも一緒に見学したいみたいだ。
まあ、そりゃあそうだよな。彼らの戦いなら誰でも間近で見たいと思うぞ。
「じゃあ、まずは軽く手合わせだな」
「おう、お前と盾付きでするのは久し振りだなあ」
妙に嬉しそうにそう言った二人が揃って向かい合って身構えるのを見て、見学している俺達も揃って前のめりになったのだった。