初戦の相手はトライロバイトだ!
「よし、行くぞ〜〜!」
「おお〜〜〜〜!」
カメレオンビートルの角で作った槍を手にした俺の掛け声に、全員の大声が重なる。
すると、それを合図にしたかのように、地面をモゾモゾと這い回っていたトライロバイトが一斉に跳ねたのだ。
鞄からサクラ達が一斉に飛び出てくれたのを視野の端っこに捉えつつ鞄を背後に放り投げた俺は、手にした槍でまずはこっちに向かって跳ね飛んで来たかなり大きなトライロバイトを思い切り突いた。
「へっ?」
思わず声が出るくらいに、全く何の抵抗も無く易々とトライロバイトの胴体を槍が貫き、直後にジェムになって転がって落ちる。
ちなみにこいつはブラックトライロバイト。しかも角付きじゃあないので素材は無しだ。
「うわあ、すっげえ。ミスリルの槍を初めて使った時にも全く抵抗無いと思ったけど、これはその比じゃあないぞ。何だこれ? めちゃめちゃ斬れるよ」
手にした槍を見ながらそう呟き、また次のトライロバイトを思い切り突き刺す。
もう、豆腐に箸を突っ込んでいる気分だ。全然抵抗無し。
「これなら、余裕だな」
小さくそう呟き、持ち直した槍で飛び跳ねてこっちへ飛んでくるトライロバイトを冷静に見ては次から次へと一撃で仕留めていく。
あまりにも簡単に倒せるもんだから、段々流れ作業みたいになってきた。
いや、これはいけない。緊張感を持て。俺!
絶対油断したところで、巨大な角付きが突然近くに出てきて酷い目に遭うんだ。まだまだ万能薬が貴重な今、ここで怪我をするのは絶対に駄目だからな!
内心で自分に必死になって言い聞かせつつ、もうひたすらに俺の攻撃範囲に飛び込んでくるトライロバイトを延々と突き続けたよ。
ううん、切れ味鋭すぎる武器って案外危険だ。武器に頼りすぎて冗談抜きで油断しそうだ。
マックスやニニを始めとした従魔達も、広場いっぱいに広がって嬉々としてトライロバイトを叩き潰したり噛み付いたりしてジェムを量産している。
もう、さっきまでトライロバイトだらけだった地面は、今はジェムで埋め尽くされている。
ごくたまに素材の角が転がってはいるけど、地下迷宮にいた巨大な角付きのやつに比べたら、まるで大人と子供くらいに大きさに差があるよ。
「よし、これで一面クリアーだな」
かなりの時間戦い続け、ようやく広場にトライロバイトがいなくなった。
そう言って槍を一瞬で収納したハスフェルの声に俺もため息を吐いて槍を収納してから、改めて静かになった周囲を見回した。
大暴れして大満足したのだろう。巨大化したままの従魔達はご機嫌で身繕いを始めている。
「おお、確かに一面クリアーしたみたいだな。あはは、従魔達も張り切ってずいぶんと倒してくれたんだな。ああ、背中を守ってくれてありがとうな」
ちょっと得意げに伸び上がっているスライム達を手を伸ばして撫でてやる。
レインボーとメタルスライム達はそれぞれ半分ずつになって四つの塊に分かれ、雪スライム達数匹とそれぞれ一体化した大きな塊になり、主に俺の背後や死角になる左右後方を中心にピッタリとついて守ってくれていたのだ。
おかげで俺は、背後はほぼ気にせずに前に集中出来たよ。
「任せてね〜〜!」
「守るのは得意だからね〜〜〜!」
「アワユキ達も教えてもらって頑張ってま〜〜す!」
「では、ジェム集めに行ってきま〜〜す!」
ジェムを集め始めた他のスライム達を見て、サクラ達も慌てたようにそう言ってジェム集めに参加してくれたのだった。
「よし、スライム達のジェムも集め終わったな。それじゃあ、次に行くか」
しばらくしてジェムを集め終えたスライム達がそれぞれの主人のところへ戻って行く。
トライロバイトのジェムはまだまだ大量に持っているので、一面クリアーした今となってはいつまでもここに留まる意味はあまりない。
ハスフェルの言葉に、それぞれ放り出していた収納袋を拾って集まり、それを見て寛いでいた従魔達も集まってきた。
だけど、広場にはまたポツリポツリとトライロバイトが出現し始めているのを見て、俺達はとりあえず広場の端に移動したよ。
今いるこの広場からは複数の通路が広がっていて、それぞれまた別の広場へと通じている。
その中に、もう一つトライロバイトが出る広場があるんだけど、トライロバイトはもういらないのでその通路は却下だ。
他の通路のうち五本はそれぞれ肉食恐竜の出る広場と草食恐竜の出る広場へと繋がっていて、残りの一本は休憩場所になる元食堂のあった場所に繋がっている。
「そうだな。では次はせっかくだから一対一で恐竜と戦える場所へ行こうか」
嬉しそうなハスフェルの言葉に俺は慌てて振り返った。
「いきなり絶対王者とか、無茶しないでくれよな。出来ればまずは、あんまり大きくない草食恐竜でお願いします〜〜!」
ここでうっかり頑張るとか言ったら、間違いなく絶対王者の出現場所へ連れて行かれる。
確か、あの通路の先にある広場を通り抜けて別の通路を進んで行くと、絶対王者が出る可能性のある大きな広場に続いていたはずだ。
さっきの地図を思い出してそれを確信した俺は、慌ててそう言いながらブンブンと首を振った。
「何だよ。ヘラクレスオオカブトの剣の試し切りをするんだろう? それなら強いの相手にしないと面白く無いじゃないか」
「いやいや、そこでどうして面白いって言葉が出るんだよ! 俺は安全第一主義なんです〜〜〜!」
「せっかくの装備が泣くぞ」
呆れたように笑われてしまい、とりあえず笑って誤魔化す。
だけどまあ、さすがにまだ絶対王者の相手は俺には難しいと思ってくれたみたいで、ハスフェルとギイが顔を寄せて相談を始めた。
「それならトリケラトプスかステゴザウルス辺りかなあ」
「いやあ、あの装備なら、ディノニクスかヴェロキラプトル辺りでも大丈夫なんじゃあないか?」
「ス、ステゴザウルスでお願いします!」
漏れ聞こえた相談する声に、俺は右手を挙げて咄嗟にそう叫んだ。
今の四種類の中では、まだステゴザウルスが一番マシそう。
「おう、それならそうしようか」
「まあ、その装備なら大丈夫さ。それなら左腕に小さい方の丸盾を取り付けておけ」
「ああ、確かに防具はある方が良いな」
ハスフェルの言葉にギイも笑って頷いている。
ええと、ステゴザウルスもそんなに危険……だよなあ。あの棘のついた尻尾の一撃。まともに受けたら吹っ飛ばされて一巻の終わりだぞ。
何だかハメられた気がしてちょっと遠い目になった俺は、諦めのため息を吐いて丸盾を取り出した。
しかし、その直後に俺とハスフェルとランドルさんの腹がほぼ同時に鳴った。
突然響き渡った大きな音に、全員揃って思わず吹き出す。
「腹減ったな。じゃあ、まずは安全地帯へ移動して昼飯かな?」
にんまりと笑った俺の提案に全員の同意の声が上がり、またしても全員揃って大笑いになったのだった。