地下洞窟の探検開始!
「ええと、こっちの通路の先は埋まっているから行けないんだったよな」
通路を抜けて一番最初にある三叉路で立ち止まった俺がそう呟きながら取り出したのは、このお城を買った時に貰ったこの地下洞窟がまだ鉱山だった頃に書かれた地図だ。
「ああ、これはもしかしてここがまだ鉱山だった頃の地図ですね」
地図を覗き込んだアーケル君の言葉に、俺達は苦笑いして頷く。
そう、この三叉路を抜けた先の広場にあるのは、あの水晶樹の森。
超貴重なお宝らしいけど、雪スライム同様、あんなに大量にあると有り難みなんてゼロ。
だけど、さすがに迂闊に人目には晒さない方が良いらしいのであの広場自体をギイが結界魔法で閉じてくれている上に、あの広場へと通じる通路は全て岩で埋めて入れないようにしてある。もちろん、これをやってくれたのはスライム達だよ。
何でも一箇所だけ、岩同士を組み合わせてしっかりと埋めているけど、入ろうとしたら簡単に崩せるようにしてある箇所があるらしい。もちろん、それを知っているのも出来るのもハスフェルとギイ以外では俺のスライム達だけだ。
「ここ以外にも、何箇所も崩落して通路が埋まっているから、もうこの地図はほぼ使えないんだよ。で、少し前からハスフェルとギイが頑張って描いてくれた新しい地図がこっち」
そう言いながら古い方の地図は一旦畳んで収納して、自分で収納していた新しい地図を取り出して広げて見せる。
前回ここの地下洞窟を調べた時、従魔達が率先して走り回って調べてくれて、さらにリナさん一家やランドルさんも参加して一通りのマッピングは終了しているので、俺とハスフェルとギイはこの地下洞窟の完璧な地図を頭の中に持っている。
だけど、マッピングの能力の無い彼らにはこれが必要だろうと言って、ハスフェルとギイが完璧な地図を描いてくれたんだよ。
ここの地下洞窟は、以前入った地下迷宮と違い明快な階層の区切りが無いから、これを立体的に正確に描くのは多分すごい技術だと思う。仮に俺にこの地図を描けって言われても、絶対に無理だと思うぞ。
その地図に描かれている、まるで迷路のように不規則に繋がって伸びる何本もの通路と通路の先にある幾つもの巨大な広場。当然、そこに様々な恐竜達の出現スポットになってもいる。
広場には、どんな恐竜が出るかも詳しく書かれている。ただしこれは今現在の出現内容であって、ある日突然出現する恐竜の種類が変わる事も充分あり得るんだって。
「それで、このハスフェルとギイがマッピングした地図を描き起こしてくれたやつは、全員に渡しておくから持っていてくれよ」
全部で十枚描いてくれてあるので全員に渡しても余裕がある。なので、一人一枚ずつ渡そうとしたら、何故か全員揃って惑っていて受け取ってくれない。
「いや、ケンさん。いくらお城に泊めていただいているからと言って、さすがにこれを、はいそうですかと貰うわけには……」
小さく首を振るランドルさんの言葉に、リナさん一家も首がもげそうな勢いで揃って頷いている。
「ええと……これはどうするべきだ?」
だって、何があるか分からない地下洞窟。俺が以前地下水脈に落ちた時みたいに、突然一人だけはぐれる事だって可能性としては無いわけじゃあない。となると、最低でも自力で戻ってこられるように地図は必須だと思うんだけど、違うんだろうか?
「まあ、とりあえず今は必要だろうから受け取ってくれるか。外へ出たら返して貰えばいい。マップの共有はパーティーの基本だろう?」
笑ったハスフェルの言葉に、ようやく納得したように苦笑いしつつも頷いて地図を受け取ってくれた。
「もしかして、こういう地図って……」
「ああ、地下洞窟や地下迷宮の地図は貴重だよ。あったとしても相当な高値で取引されているからなあ。それをタダで渡すと言われたら、そりゃあ冒険者である彼らが戸惑うのは当然だろうさ」
笑ったハスフェルの言葉に、全員揃ってまたしてもすごい勢いで頷いていたよ。
ううん、この辺りの感覚は以前の世界の感覚とはかなり違うみたいだな。以前は、地図なんてあって当たり前だったからなあ。
って事で、先頭をハスフェルとギイが務め、小さくなれる従魔達は出来るだけ小さくなってもらい俺とリナさん一家を真ん中に従魔達が前後を固めてくれている。しんがりはランドルさん。万一後方から通路に迷い込んだ恐竜が襲って来たとしても、一匹くらいなら彼なら余裕で大丈夫なんだってさ。
そうだよな。ランドルさんだってリナさん達だって上位冒険者なんだよ。
ちなみに冒険者自体にAランクやBランクみたいな細かいランク付けは無くて、上位冒険者はギルドが判断して指定した冒険者の称号らしい。
ううん、その辺りの判断基準って何なんだろうなあ。
俺なんて、冒険者登録した時から勝手に上位冒険者扱いされていたし……。
のんびりとそんな事を話しつつ通路を歩いていると、最初の広場に到着した。
そこには、前回と同じくウジャウジャとトライロバイトが出現していて、水浸しになった地面一面を埋め尽くしていたよ。
「どうする? トライロバイトなら槍の方が良いから後にするか? それとも新しい槍の使い心地を先に試してみるか?」
振り返ってにんまりと笑ったハスフェルにそう言われて、俺もこれ以上ない笑顔になって、作ってもらったカメレオンビートルの角で作った槍を一瞬で取り出し、同じく取り出したヘルメットみたいなシンプルな方の兜を取り出して被った。
「もちろんやるよ! 一通りの武器の使い心地は確認したいからね!」
槍を構えた俺の言葉に拍手が起こり、全員が嬉々として槍を取り出し、それを見て小さくなっていた従魔達が一斉に最大サイズまで巨大化して広場に散って行った。
さあ、まずは新しい武器を持ってのトライロバイトとの戦いだよ!