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新たなるモフモフの仲間

「ええと、それでこれから……どうするんだ?」

 目の前にお座りして俺を見上げているピンクのもふもふは、大きな真っ黒な目で何か言いたげに、じっと俺を見つめている。

 しかし、シャムエル様を始め、ハスフェルもギイも黙ったまま動こうとしない。


 ええ、俺が交渉係なのかよ?


 諦めて小さくため息を吐いた俺は、その場にしゃがみ込んだ。

 当然、ピンクの毛玉のカーバンクルは俺から視線を外さない。

「俺の言ってる言葉が分かるよな?」

 コクリと頷く。

「ええと、それでどうしてこんな所にいたんだ?」

 すると、カーバンクルは困ったように小さく身震いをした。

「我らの仲間同士で、マナの枯渇から、恵みの木の実を巡って諍いになり、最後には(さと)を二分する大きな戦いになった。私は戦いは嫌だったから郷から逃げたの。だけど背後から襲われて……逃げる為に転移の魔法を発動しようとしたんだけれど、発動しなかった。マナの枯渇は私が思っていた以上に深刻だったの。結果、術の失敗により私は空間の狭間に放り出されて……気が付いたらここにいた。だけど、酷い怪我を負ってしまっていてもう動く事も出来なくなっていたの」

「幻獣界でも、マナの枯渇はそこまで深刻だったんだね」


 シャムエル様の困った様な言葉に、俺は右肩を見た。


「はい質問。その幻獣界って、この世界とは違うのか?」

 俺の質問に、顔を上げたシャムエル様は小さくため息を吐いた。

「幻獣界は、ここと非常に近い位置にある、隣接する多重世界(パラレルワールド)だよ」

 あ、また出たな。多重世界(パラレルワールド)

「幻獣界も、ここを作る前に私が作った世界なんだけどね。そこはもう安定して完結しちゃったから、そこは置いておいてこっちを作ったんだ。だけど、マナの枯渇は隣接する世界にまで酷い悪影響を及ぼしてたんだ。あ、主に被害を受けたのは幻獣界と精霊界だね」

「ええと、つまり……タロンが元々いたのが幻獣界で、ケンタウロスのベリーがいたのは精霊界?」

「そうそう。この三つの世界は非常に近い位置で、だけど混ざり合う事なく影響しあって安定していたんだけど、マナの枯渇によってあちこちに穴が開いたり亀裂が生じたりしてね、タロンのように気が付けばこっちの世界に落っこちちゃった子や、このカーバンクルみたいに、術の発動の衝撃で生じた亀裂に飲み込まれてこっちの世界に落ちちゃったりした子が現れたわけ。ベリーも同じだね。精霊界の自分の郷から出て少しでも安定する場所を求めていて、こっちの世界に来ちゃった訳」

 その話を聞きながら、隣でベリーが苦笑いして頷いている。

 うん、これまた何となく、解ったような解らん様な話だぞ。


「それで、もしかして幻獣界に帰れないのか?」

 困った様なシャムエル様は黙って頷いた。


「そうなんだよね。ケンのおかげで、地脈が整ってマナは完全に回復したからね。だから逆に言うと、ベリーの様に自分の意思で次元を移動出来ない子達は、結果としてこっちの世界に取り残されちゃった訳」

「それって不味いんじゃないのか?」

 しかし、俺の心配をよそに、シャムエル様は小さく首を振った。

「もちろん、見つけて困っていたら保護するよ。だけどどちらもここと近い世界だから、当然食べる物や環境も近いんだよ。だから、どちらの世界にいても、まあ生きていく事は出来るよ」

 タロンとベリーが、シャムエル様の説明に頷いている。

「本当なら元いた世界に帰してあげたいんだけど、無理に次元を繋ぐのは、世界の均衡を崩しかねない危険な術だからね」

「ええと、でもベリーは自力で帰れるんだよな?」

「はい、精霊界の私達の郷は、この世界と同期していてこちらの世界でも同じ場所に郷があるんです。まあ、その郷の扉を開くのは、誰にでも出来る程簡単な事ではありませんけれどね。ですので、郷のある場所まで行ければ私は戻ろうと思ったら簡単に戻ることが出来ますよ」

 胸を張るベリーの言葉に、俺はタロンを見た。

「じゃあもしかして……お前はもう、自分のいた世界に帰れないのか?」

「我らにとっては、ここも元いた世界も大して変わりません。ただ……私はあなたに保護してもらえて、この世界に紐付けされましたので、もうこれ以上落ちる事はありませんから大丈夫ですよ」

 あ、また知らない言葉が出て来たぞ。

「この世界に紐付けって、何? それに落ちるって?」


 また右肩のシャムエル様を見る。

「多重世界では、時に亀裂や裂け目が出来てその間を落ちる子がいる。ケンがいた世界は、物質が一番安定している、いわば多重次元世界の中心だったんだ。だから、君が来てくれた事でこの世界が安定したって話はしたでしょう?」

「うん、確かに聞いたよ。俺にはさっぱり理解出来ないけどな」

「それでね、話は戻るけど、多重世界から別の次元に落ちて来た子は、ちょっと安定度が低いんだよ。だから、また他の次元に飛ばされる危険性が高い。それを回避する唯一の方法ってのが、ケンがした様に、この世界の誰かが保護するって事。だから……」

「つまり、このカーバンクルも俺に保護しろって事?」

「まあ平たく言えば、そうなるね」

 平たく言おうが山盛りに言おうが、要は同じ事だろう。


 うん、新たなるモフモフがパーティーに参加決定!だな。


「って事なんだって。良かったら、俺達と一緒に来るか?」

 俺を見上げて動かないカーバンクルに、そう話し掛けてやる。

「よろしいのですか?」

「まあここまで関わって、知らん顔して放置する方が俺は嫌だよ」

 すると、カーバンクルは嬉しそうに目を細めて俺の足に頭を擦り付けた。

「ありがとうございます。死にかけていた私は貴方に助けられました。このご恩は一生忘れません、どうかよろしくお願い致します」

「ケンだよ。よろしくな」

 そう言って、手を出した俺はカーバンクルのふわふわな頭をそっと撫でた。


「ケン、私の宝石に触って頂けますか」


 頭を差し出すカーバンクルに頷き、俺はさっきから気になっていた額に光る赤い宝石にそっと指先で触れた。

「熱っ!」

 一瞬、手袋をしていてさえすごい熱さを感じ、慌てて手を引いて手袋を咥えて外す。火傷をしているのなら、ここは万能薬の出番だろう。

 だけど、改めて見た指先は火傷の痕もなく綺麗なものだ。

「あれ? 今すごく熱く感じたんだけど?」

 念の為触ってみるが全く痛くない。


「うわあ、ケン。今すごい事したね。カーバンクルの宝石に触って無事でいた人を初めて見たよ」

「はあ? だって、こいつが触って良いって言ったから触っただけだぞ!」

 呆れた様なシャムエル様の言葉に、俺は驚いてカーバンクルを見る。

『我が名はフランマ。炎を司るものなり。我ここに大恩あるお方、ケンへの忠誠を誓う事を宣言する』

 まるでシャムエル様が何かする時の神様っぽい声みたいに、今まで話していたのとは違う声でそう言ったカーバンクルは、改めて俺の足に額を擦り付けた。

 宝石の嵌ったその額を。


「おお、幻獣から忠誠を誓われるとは、さすがは異世界人ですね。私も誓いの場に立ち会うのは初めてです」

 感心した様なベリーの言葉に、俺は壊れたオモチャみたいにゆっくりと振り返った。

「ええと、今の、説明を、求めても……良い?」

 すると、俺の足元から嬉しそうな声が聞こえた。

「貴方は何も気になさる事はありません。私が貴方のお側に居たいからそう誓っただけです。貴方への負担は一切ありませんから」

 すると、タロンがニニの背中から足元に飛び降りて来た。

「タロンよ、よろしくね」

「ええ、どうぞよろしくお願いします。私以外にも幻獣を従えておられるなんて。ケンはやはり普通のお方では無いのですね」

「うん、ケンは異世界人なんだって。私もとっくにケンへの忠誠を誓ってるわよ」

「異世界人! ではケンも落ちて来た方なのですか?」

「カーバンクルのフランマよ。我の声が聞こえるかい?」


 あ、シャムエル様の神様バージョンの声キター!


 俺の右肩に座ったシャムエル様が、フランマに向かってそう言い、顔を上げたフランマの尻尾は、一気に膨らんだ。

 うわあ、あの尻尾だけで、以前のマックスの身体全部より大きいかも。


 ああ、今すぐあの尻尾を触りたい!


 無言で悶絶する俺に構わず、シャムエル様は神様バージョンの声で俺の事を説明した。

「彼は異世界人。彼がここに来た事で、次元は安定し、地脈が整いマナが復活して世界は救われた。この意味が分かるな?」

 何度か目を瞬かせたフランマは、一層尻尾を膨らませて立ち上がった。

「私を助けてくださったお方が、世界を救ってくださったお方だったなんて!」

 キラキラの目で見つめられて、俺はまた困ってしまった。

「ええと、それについては、俺もよく分からないからさ。別に気にしないで……」

「あの! それなら、私に何か出来ますでしょうか? 何かしてほしい事などありませんか?」

「あ、それなら……もふらせて下さい!」

「はい、よろこんでー!」

 思わず両手を広げてそう言ったら、思っても見ない快諾の言葉と共に、毛玉が俺に突っ込んで来た。


 モフモフ攻撃頂きましたー!


 飛び込んで来たもふもふの塊を、俺は抱きしめてやった。

「なんだよこれ、ふわふわなんてもんじゃ無いぞ」

 ニニの腹毛とも、ラパンやコニーの毛ともまた違う、超ふかふかの柔らかい手触りだ。

 尻尾をもふり、腹毛をもふり、額の宝石を避けて何度も撫でてやる。

「あ、ケンならもう石に触っても大丈夫ですよ」

 言われて恐る恐る石に触ってみたが、もう熱くも何とも無い。

 硬い手触りはあるが、平気だった。

 心ゆくまでフカフカな手触りを堪能した俺は、ふと我に返って振り返った。

「なあ、カーバンクルって、テイムした事になる? ってか、そんなの街へ連れて行っても大丈夫か?」


 振り返った俺が見たのは、呆れた様な目で、俺を見ているハスフェルとギイと、マックス達従魔全員の視線だった。

 クーヘンは、この騒ぎの間中もずっと気絶したままだった。まあ説明の手間が省けて良いけど、色々大丈夫かよ、おい。

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