雪スライムの希望?
「実は、昨夜外にいる雪スライム達と色々と相談したんですよ」
廊下を歩きながら、堂々と姿を現したベリーが嬉しそうにそう話し始める。
「うん、何を相談したんだ?」
驚いた俺がベリーを振り返ると、ベリーは自分の背中に乗せていた二匹の雪スライム達をそっと撫でた。
「今日以降に私に残り八匹とハスフェルとギイ、それからオリゴー君とカルン君とアルデアさん、クーヘンへの土産の子までテイムするのだとしても、合計すると百匹にもなりません。外にはまだまだ相当数の子達がいますので、もしかしたら全員はテイム出来ないかもしれないと言ったんです」
「おう、それってまさに俺が心配していた事だよ。ケンタウロス達にテイムするとしても、確かにそんなに沢山はテイム出来ないだろうからさあ」
俺の言葉に苦笑いしたベリーも頷く。
「そもそも彼らが集まって来たのは、真っ白な雪原でバラバラに過ごしていて孤独で寂しい、というのが一番の理由です。これは自我が芽生えた訳ではなく本能的な部分ですね。スライムは元々群れをなしているジェムモンスターですから。なのでテイムが無理でも、出来れば他の子達と一緒に遊びたいのだそうですよ。どうやら、雪スライムは元々持つ本能的な部分の知恵がかなり普通のスライムよりも高いようですね。これは非常に興味深い現象です」
「へえ、成る程ねえ。まあ、確かに一緒に遊びたいってのがテイムの理由だったわけだからなあ」
納得した俺の呟きに、笑ったベリーも頷いている。
「なので、テイムされなかった子達も、ここから動くつもりは無いみたいですね。それから聞くところによると、春になって雪が溶け始めると、今いる雪スライム達は移動を開始して北にある山の万年雪のある高地へ行くのだそうです」
春になるとどうなるのか密かに心配していた俺は、安堵のため息を吐いた。まさか、春になったら溶けて無くなるとか言われたら悲しすぎるって。
「あれ? それなら俺達がテイムした雪スライム達は、春以降もそのまま連れていて大丈夫なのか? 夏場は?」
もしかして、実は雪スライムって冬限定の従魔だったらどうしよう。内心焦りつつそう呟くと、笑ったベリーが首を振りながらまた雪スライム達を撫でる。
「大丈夫ですよ。テイムされた子達は、それぞれのご主人に紐付けされていますから、何処へ連れて行っても何ら問題ありません。まあ、真夏はもしかしたら他の子達よりは暑がるかもしれませんけれどね。基本的な扱いは他のスライム達と同じで構いません。強いていえば、火に気をつけるくらいですね」
「ああ、もちろんそこは普段の料理をする時なんかも気をつけているよ。成る程。テイムしてしまえば大丈夫なのか」
「ええ、大丈夫です。それで、さっきの話なんですが、テイム出来なかった子達は、春以降も出来ればここに住みたいらしいんですよ」
「へ? ここに住みたいって?」
「はい、春になれば貴方達はまた旅に出るのでしょう?」
もちろん、そのつもりなので頷く。
「なので、貴方達が留守の間は遠い北の山まで行かずにあの地下洞窟にいたいとの事です。あそこなら、確かに不用意に人が来る事はほぼありませんし、天候や外気温の変化からも無縁ですからね」
「ええと、俺は別に構わないけど雪が無くても問題無いのか? それにあそこには恐竜のジェムモンスターが出るぞ」
どう考えても、雪スライム如きでは恐竜達と勝負にならないだろう。一番弱いトライロバイトが相手でも、出会った瞬間に一瞬でプチっと潰されていそうだ。
「ああ、その辺りは心配無用ですよ。雪も必ずしも必要という訳では無いようですし、あのくらいの温度なら充分暮らしていけるみたいです。それにスライムは、どのジェムモンスターとも共棲しますからね」
「へえ、そうなんだ」
その辺りのジェムモンスターの普段の生態についてはあまり知らないので、俺はただただ感心しながら聞いているだけだ。
「野生のスライムの寿命は十年前後と言われています。ですが、あの様子だとまだまだお友達希望は増えそうですね」
「あはは、地下洞窟がお友達希望の雪スライムに埋め尽くされないように願うよ」
次に来た時に地下洞窟がお友達希望の雪スライムに埋め尽くされていそうで、思わず乾いた笑いをこぼす俺だった。
「それは大丈夫だよ。雪スライムは冬しか出現しないし、そもそも全体の出現数も他のスライム達に比べたら遥かに少なく設定してあるからね!」
マックスの頭の上に座っていたシャムエル様の言葉に、苦笑いしつつ頷く俺だったよ。
「ちなみに、ここの地下洞窟でもご希望の収納袋が出るように設定したから、頑張って集めてね! 時間遅延の三百倍の収納袋が一番の超レアだからね!」
ドヤ顔で胸を張るシャムエル様の言葉に、堪える間も無く吹き出した俺だったよ。