朝食とテイムの予定
「ごめんごめん。もう大丈夫だから行こうか」
廊下でマックスの首に抱きついていた俺は、顔を上げて誤魔化すように笑ってそう言い、足早にリビングへ駆け込んで行った。
「お待たせ! じゃあ出すから好きなのを選んでくれよな」
到着したリビングには、もう準備万端整えた全員が待っていて、俺は慌てて鞄からいつものサンドイッチやおにぎりなんかを取り出して並べた。
「よし、俺はおにぎりにしよう。今日は狩りに行くんだし、しっかり食っておかないとな」
お皿に肉巻きおにぎりと梅干し入り、それから大きめの三色おにぎりをそれぞれ二つずつ取った。もちろん一個ずつはシャムエル様用だ。
それから大きめの焼いたソーセージを二本と、ランドルさんが出してくれた赤いスパイスが振りかけられた唐揚げも大きめのを二つ取る。温野菜の盛り合わせにはマヨネーズをかけておく。
「だし巻き卵は……いるんだな。了解」
大きめのお皿を手に目を輝かせてステップを踏みながら頷いているシャムエル様を見て、だし巻き卵も二切れお皿に乗せたよ。
「ええと、味噌汁くらい出しておくか」
わかめと豆腐の味噌汁を取り出し、お椀に入れておく。これは熱々のまま収納していたから温め直す必要無しだ。それを見て、ハスフェル達もお味噌汁の鍋に集まって来ていた。
まあ、あいつらはパンに味噌汁も有りみたいだからな。
色々選んでいる間にスライム達が用意してくれたいつもの簡易祭壇に、まずはおにぎりと選んだおかず、それからお味噌汁とマイカップに入れた麦茶も並べる。
「今朝はおにぎりとおかず色々、ワカメと豆腐のお味噌汁付きです。少しですがどうぞ。ええと、今日は雪スライム達をテイムした後は、地下洞窟に入るみたいです。身重なのにニニも一緒に行くみたいなので、どうぞお守りください」
並んだ料理を前に手を合わせて小さな声でそう呟く。
いつもの収めの手が現れて、俺を何度も撫でた後に料理を一通り撫でて持ち上げる振りをしてから、ニニのところへ一瞬で移動して優しくニニを何度も撫でてから消えていった。
「ありがとうな。赤ちゃんが産まれたら是非見に来てくれよ。すっごく可愛いらしいからさ」
消えていく収めの手に小さな声でそう話しかけると、こっちを向いた収めの手はサムズアップを返してくれた。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャジャン!」
小さく笑って振り返った俺が見たのは、いつもの大きなお皿を手にしたシャムエル様とお椀を手にしたカリディアの一糸乱れぬシンクロダンスだ。時折交互に前後しながら目にも止まらぬ速さのステップを踏み、最後は尻尾を絡ませながらのキメのポーズ。
「あはは、お見事お見事。それで何がいるんだ?」
カリディアにはいつもの激うまブドウを出してやり、空のお皿を受け取った俺はおにぎりを見せながらそう尋ねる。
「おにぎりとおかず全部半分ずつください! ああ、お味噌汁はここにお願いね!」
カリディアが持っていたお椀を差し出しながらのあまりに堂々とした全部半分ください宣言に、もう俺は乾いた笑いしか出ないよ。
絶対、自分の体の大きさよりも食う量の方が物理的に間違いなく多いぞ。マジでシャムエル様の胃袋ってどうなってるんだ?
だけどまあ、神様に欲しいと言われれば断る訳にはいかないよな。
苦笑いしつつそれぞれ半分ずつ綺麗にお皿に盛り付けてやる。
味噌汁も一通り具が入るように取り分け、盃には麦茶を入れてやる。
「はい、どうぞ」
「わあい、美味しそう! では、いっただっきま〜〜〜す!」
ご機嫌でそう宣言したシャムエル様は、肉巻きおにぎりに頭から突っ込んでいった。
「相変わらず豪快だねえ」
すでに、タレまみれになったシャムエル様を見て吹き出した俺は、もふもふ尻尾をそっと突っついてから、自分のおにぎりにかぶりついた。
「はあ、ご馳走様。美味しかったです!」
かけらも残さず綺麗に平らげたシャムエル様は、今はご機嫌で尻尾のお手入れ中だ。
「ええと、それじゃあ一服したらまずは雪スライムのテイムの続きからだな」
「そうですね。俺はクーヘンにもお土産にしたいので、せっかくですからあと十匹テイムしますよ」
笑ったランドルさんの言葉に俺も笑って頷く。確かにクーヘンへのバイゼン土産に雪スライム十匹。うん、これ以上ない良い土産だよな。
「って事は、ハスフェルとギイ、それからオリゴー君とカルン君、それからクーヘンの分と、ベリーの残り八匹分は最低でもテイムするとして、残りはどうするかなあ。あれ、多分千匹どころじゃあないくらいにいるぞ」
思わず指を折って数えながらそう呟いて考える。残りをケンタウロス達にテイムしたとしても絶対余ると思う。
とりあえず、俺はスライムだったら一日に二十匹くらいはテイムしても余裕だと思うんだけど、一応一日の上限は十匹くらいだって言っている手前、あまり無茶は出来ない。
って事は、今庭で待っている雪スライム達を全員ケンタウロス達にテイムしてやるとしたら、下手をすれば何日もかかる事になるけど、そんなに待ってくれるかねえ?
若干不安になりつつ、片づけたお皿やお椀を鞄の中にいるサクラに収納してもらった。
「では、参りましょうか」
姿を現したベリーの嬉しそうな言葉に俺も笑って立ち上がる。
「おう、じゃあ行きましょうか」
俺の言葉に全員が揃って立ち上がり、まずは雪スライムをテイムする為に揃って庭へ出て行ったのだった。