俺の大切な家族達
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
こしょこしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きるよ……」
従魔達総出で起こされた俺は、違和感を感じて目を開いた。
「あれ、この真っ白な腹毛は誰だ?」
いつものニニの柔らかな腹毛とはちょっと違うその毛を、手を伸ばして撫でる。
「おはようご主人、お寝坊さん」
嬉しそうなビアンカの声に思わず吹き出したよ。
「あはは、そうだったなあ。このけしからんもこもこは誰だ?」
両手を伸ばしてもこもこの首筋に抱きつき、そのまま起き上がってもらい俺も立ち上がる。
「はあ、三度寝最高〜〜だな。良い加減起きよう」
大きく欠伸をした俺は、とりあえず顔を洗いに水場へ向かった。
いつものように顔を洗ってサクラに綺麗にしてもらって、スライム達を順番にフリースローで水槽に放り込んでやり、続いて集まってきた狼トリオとマックスに場所を譲ってやる。
慌てたように羽ばたいて後を追いかけるお空部隊を見送ってから、俺はベッドへ戻って自分の身支度を整えていった。
「一応、今日は地下洞窟に入る予定だから、しっかり装備しておかないとな」
そう呟いた俺は、すっかり着慣れた新しい装備を順番に手早く装着していった。
『おおい、良い加減起きてくれよ〜〜』
『もう皆起きてるぞ〜〜〜』
その時、笑ったハスフェルとギイの念話の声が聞こえて、思わず吹き出す俺。
『おう、悪い悪い。もう準備は終わってるからすぐに行くよ』
笑いながら、最後の脛当てをしっかりと装備してそう答える。
『了解、じゃあリビングで待ってるよ』
ハスフェルの笑った声が聞こえて気配が途切れる。
「おおい、そろそろ水遊びは終わりにしてくれよ〜朝飯に行くから戻って来てくださ〜い」
まだ聞こえる賑やかな水音に笑いながら大きな声でそう言ってやると、笑った従魔達の声が聞こえた。
「はあい、今行きま〜〜す!」
楽しそうなサクラの声がした後に、何やら賑やかな音と声が聞こえてから次々に従魔達が戻って来た。
鞄を開けて待ち構えていると、跳ね飛んだスライム達が次々に綺麗な弧を描いて鞄に飛び込んでいった。物理的に絶対無理なレベルでどんどん入っていく様子は、まるでマジックを見てるみたいだよ。
鞄を覗き込むと、金色合成したアクアゴールドと、クリスタル合成したゲルプクリスタル。それからダイヤモンドダスト合成したダイヤモンドアワユキがそれぞれピンポン球よりも小さなサイズになって揃ってこっちを見た。
「その大きさなら、揃って入っても大丈夫だな」
笑ってそう話しかけてやると、三匹が嬉しそうにこっちに向かって伸び上がっている。
「はあい、普段は良い子でここにいま〜〜す!」
「でも、地下洞窟に入ったらいっぱいお手伝いするからね〜〜!」
「ジェム拾いと防御はお任せくださ〜〜〜い!」
「おう、頼りにしてるからな」
笑って鞄に手を突っ込んで小さくなった三匹を順番に撫でてやった。
「さてと、あいつらが餓死しないうちに行くとするか。ええと、お前らは今日は……ああ、行くんだな」
揃って起き上がった全員を見て、俺は慌てて振り返った。
「いやいやニニは駄目だって。ニニは留守番だよ!」
「ええ、今日は庭の地下洞窟へ行くんでしょう? それなら私も行くわ。それくらいなら全然大丈夫よ」
当然と言わんばかりにそう言って大きく伸びをする。だけどその体型はどう見ても臨月寸前の妊婦さん。絶対駄目だろう。
真顔で止めようとしたんだけど、笑ったベリーが進み出てきた。
「ご心配なく。まだそこまで用心するほどではありませんよ。言ったでしょう? 元は単体で行動するのが基本の野の獣です。本来であれば産まれる寸前まで普通に狩りに出ていますからね」
「いや、そうは言われても……本当に大丈夫なのか?」
割とマジで心配なんだけど、そんな俺を見てニニは目を細めて大きく喉を鳴らした。
「心配性のご主人ね。大丈夫よ。ちゃんと分かってるから、本当に無理になったらここから出ないわ」
甘えるように頭突きをされて、咄嗟に踏ん張って転びそうになるのを堪えた俺は、一つ大きなため息を吐いてニニの大きな顔を抱きしめてやった。
「本当だな? 無理は駄目だぞ」
「大丈夫です!」
またもの凄い音で喉を鳴らすニニを苦笑いした俺はもう一回抱きしめてから、全員揃ってリビングへ向かったのだった。
「外へ出たら、ニニちゃんには私とフランマが常について見ていますからご心配なく」
笑ったベリーにそう言われて、俺は改めてお礼を言ってニニの事をお願いしておいたのだった。
元の世界にいた時のマックスやニニは避妊手術や去勢手術をしていたので、実を言うとペットの妊娠出産の面倒を一から見た経験だけは俺には無いんだよ。
熱帯魚なら水槽に産卵箱を入れてそこで卵を産ませたり、別に水槽を用意して稚魚を育てた事はあるけどさ。
確か幼稚園くらいの時に一度だけ子猫を拾って来て育てた記憶はあるけど、あれは母さんがほとんど面倒を見てくれて、俺はお掃除なんかの手伝いをした程度だ。それなりの大きさになった子猫達は全部里親に出しちゃったんだよ。寂しくて寂しくて、わんわん泣いた記憶がある。
その後、父さんが知り合いから譲ってもらったとかで、犬を飼ってくれたんだ。
だけどその犬は家に来た時点ですでに成犬のすごく大きな犬で、びっくりするくらいに賢かった。
後で聞いたら、引退した警察犬だったらしいから、そりゃあ賢いわけだよ。
俺が高校に上がる少し前に、老衰で亡くなっちゃったんだけど、最後まで本当に賢い良い子だった。
その時の犬の名前がマックスで、俺の中では犬といえばマックス! だったんだよ。
それで、俺が大人になってから縁あって引き取った犬の名前も迷う事なくマックスにしたんだよな。
俺のすぐ横に半ばくっつくみたいにして廊下を歩いているマックスを見て、懐かしい記憶に浸っていた俺はなんだか不意に堪らなくなって立ち止まり、腕を伸ばしてマックスの大きな首に抱きついた。
「どうしたんですか? ご主人?」
優しいマックスの声に、目を閉じた俺は黙って首振りながらしがみつく。
「何も心配いりませんよ。ご主人には我々がついていますからね」
ブンブンと音がしそうなくらいに尻尾を振り回したマックスの優しい声に、俺はしがみついたまま言葉もなくうんうんと頷く事しか出来なかったよ。