相変わらずの朝の光景
「はい、二個目の氷だよ」
体を洗い終え、髪もガッツリ濡らして気分一新した俺は、スライム達に先ほどよりも少し大きめの氷の塊を作ってやった。しかも、一応出来る限り丸くなるように作ったよ。
「わあい! ありがとうございま〜〜す!」
嬉々としたアクアの声の直後、転がした氷の球にスライム達が殺到して大混戦サッカー第二弾が始まったよ。
おかげで湯船の中にいたスライム達は全員出て行ってしまったので、俺はもう遠慮なくて足を伸ばして心ゆくまでお湯を楽しんだのだった。
よし、次からは俺がお湯に浸かる時には氷を作ってやって、俺はスライム達と一緒にお湯につからないようにしよう。主に俺の精神的安定のためにな!
しっかり温まってからお風呂から上がり、風呂場から出たところでいつも通りにサクラが一瞬で綺麗に水気を取ってくれる。濡れていた髪も体も一瞬でサラサラだよ。いやあ、相変わらず良い仕事するねえ。
「お待たせ〜〜もう寝るよ」
手早く服を着てそう言いながらベッドを見ると、当然のようにニニとマックスが転がって待ち構えている。
「おう、今夜もよろしくな!」
嬉々としてマックスとニニの隙間に潜り込む。背中側には巨大化したラパンとコニーがくっつき、足元にはカッツェとビアンカが並んでくっついてくる。
さすがに巨大な魔獣四匹がくっついたベッドは、キングサイズ以上の大きさがあるとはといえどもぎゅうぎゅう詰め状態だ。
フランマが俺の腕の中に潜り込んできて収まり、出遅れたタロンは俺の顔の横にくっついて丸くなった。
残りの子達は、いつの間にか戻って来ていたベリーのところへ行ったみたいだ。
スライム達は、部屋の中を好きに転がっている。
「では、明かりを消しますね。おやすみなさい」
ベリーの声が聞こえて、部屋が一瞬で真っ暗になる。
「いつもありがとうな。おやすみ」
欠伸をしながらそう言った俺は、雪スライムのダイヤモンドダスト合成の話をベリーにしていないのを思い出した。
だけど襲って来た眠気に抗えずに、俺はそのまま眠りの海へ沈んでいったのだった。ドボン。
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
こしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん……起きる、よ……」
もふもふなニニの腹毛に埋もれて熟睡していた俺は、いつもの従魔達総出のモーニングコールに起こされて半ば無意識で返事をしていた。
だけど、相変わらず寝汚い俺の体は全然目覚めてはくれず、ひとつ欠伸をしただけでそのまま気持ちよく二度寝の海へ落っこちていったのだった。ボチャン!
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
こしょこしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、だから、起きてるって……」
胸元のフランマを無意識に抱きしめながら、俺はなんとかそう返事をする。
「相変わらずだねえ」
「そうですねえ。まあ気持ちよさそうに眠っている事」
「じゃあ、遠慮なく起こしてくれたまえ!」
「はあ〜〜い!」
「じゃあ私達が起こしてあげるわね!」
「ほら、ビアンカもいらっしゃいな!」
はるか頭上から聞こえる嬉々としたその声に、俺は内心で大いに焦った。
おいおい、今朝の最終モーニングコールはソレイユとフォールの猛獣コンビじゃんか。
しかもあれは絶対に巨大化している上に他にもいそうな気配だ。それにまさかのビアンカまで一緒にいる。
これは絶対まずい! 今度こそ肉がもげるぞ。起きろ俺〜〜〜!
ジョリジョリジョリ!
ザリザリザリ!
ジョリジョリジョリ!
ゾリゾリゾリ!
ジョリジョリジョリ!
ベロ〜〜〜〜〜ン!
「うぎゃ〜〜〜〜〜!」
横向きに寝ていた俺の、右頬と額、それから顎の辺りを同時に舐められ、時間差で最後に耳の後ろと首筋を後ろから思いっきり舐められて、情けない悲鳴を上げて飛び起きる俺。
「げふう!」
そして俺が抱きしめていたフランマも、いつものごとく俺の胸元を思いっきり蹴っ飛ばして逃げていったよ。これも絶対わざとだろうって言いたくなるぞ。
仰向けに転がり、そのままニニの腹から転がり落ちて一回転した俺は、しかしそのまままた別のもふもふに顔から突っ込んで止まった。
「あれ、これは誰だ?」
あまり覚えのないもこもこっぷりに顔を上げた俺は、ビアンカと正面から見つめ合う形になった。
「ご主人、おはようございます。成る程、こうやって起こして差し上げるんですね」
目を細めて嬉しそうにそう言ったビアンカは、もう一回俺の顔面を大きな舌で思いっきり舐め上げてくれた。
「うひゃあ!」
仰け反ってそのまままたしても転がる俺。
「ご主人大好き!」
そのままビアンカに覆いかぶさられてしまい、笑いながら俺はもこもこなビアンカの腹毛の海に埋もれていったのだった。
ああ、何この幸せ空間……ああ、だめだ。また意識が……。