お風呂と雪スライム達
「さてと、それじゃあ風呂に入って温まってから寝るか」
解散して部屋に戻った俺は、鞄に入っていたスライム達を出してやりながらそう呟いた。
ちなみに、コタツではマックスとビアンカが仲良くくっついて蕩けながら絶賛爆睡中だ。ニニとカッツェは産室用に置いてある小屋に潜り込んでいるみたいでコタツにはいない。
寒くないのか心配になって覗き込んだら、小屋の中には二匹だけじゃあなくて猫族軍団が全員集合していてニニを真ん中にした巨大猫団子状態になっていた。
「あはは、これなら絶対に寒くないな。じゃあ、風呂に入ってくるから、もうちょっと待っててくれよな」
小屋の中から聞こえてくる喉を鳴らす音の大合唱に吹き出した俺は、まずは風呂場へ行って元栓を開けて湯船に湯を流しておいた。
「よし、じゃあ風呂に入るぞ。ええと、お前達はどうする? 温かいお湯は大丈夫か?」
足元にいた、アワユキ達雪スライムに聞いてみる。
「お湯って?」
「お風呂って何ですか?」
「初めて聞きま〜す」
逆にそう聞かれて思わず吹き出したよ。そりゃあずっと雪の世界にいたんだから、お湯を知らないのは当然か。
「ええと、水は分かるか?」
「氷になる前の液体だね?」
代表してアワユキがそう答える。
「そうそう、それを火を使って温めればどんどん温度が上がっていくんだ。それで温度が上がった水の事をお湯って言うんだよ。俺が今からするのはお風呂って言って、俺の体温くらいまで温めたお湯に服を脱いで浸かるんだ。俺は暖かくなるから気持ち良いと感じるんだけど、お前達がどう思うか分からないからさ」
服を脱ぎながら説明すると、雪スライム達はまるで相談するかのようにくっつきあってモゴモゴし始めた。
「一度見せてもらっても良いですか?」
揃ってこっちを振り返った雪スライム達が揃ってそう言っている。
「もちろん構わないよ。もしもお湯が嫌だったら、すぐに風呂場から出てくれたら良いからさ。ちなみに、他のスライム達は風呂が大好きでいつも一緒に入っているよ」
脱いだ服一式は、サクラが一瞬で綺麗にしてくれて畳むところまでしてくれたよ。
「うん、いつもありがとうな」
サクラをおにぎりにしてやり、畳んでもらった服は一旦収納しておいた俺は、手拭いを手に風呂場へ向かった。当然のようにスライム達は全員ついて来ている。
「おお、すごい湯気だな。ううん、これだけでも良い感じだ」
風呂場は、既に湯気がもうもうと立ち込めていて全体に白っぽくなっている。
置いてあった手桶でお湯をすくって掛かり湯をしてから、俺はゆっくりと湯船に浸かる。
「うああ、気持ち良い〜〜〜」
気持ち良さのあまり脱力して声が出るのは仕方ないって。
頭を湯船の縁に引っ掛けて手足を伸ばして脱力した俺は、のんびりと風呂を楽しんでいた。
「ふわあ、何これ〜〜!」
「水が水じゃないね!」
「でも気持ち良い!」
「確かに気持ち良いですねえ〜!」
嬉々とした雪スライム達の声が聞こえて、俺は閉じていた目を開いて周りを見る。
いつものようにソフトボールサイズになったスライム達が好き勝手に広い湯船の中を泳ぎ回っているんだけど、それに混じって半透明の乳白色になった雪スライム達が一緒になって嬉々としてお湯の中を泳ぎ回っていたのだ。
「おお、お湯に入って溶けたら大変だと思っていたけど、どうやら大丈夫みたいだな」
笑って近くにいた雪スライムを突っついてやる。これはタマユキだな。
「あれ? 冷たい」
雪スライムに触れた指先が思いのほか冷たくてびっくりする。
「なあ、ちょっとこっちへ来てくれるか。へえ、お湯に浸かっても冷たいままなんだ」
タマユキを捕まえて両手でおにぎりにしてやったんだけど、いつものスライム達と違って手に当たる温度はひんやりしたままだ。
さっきテイムした時は外だったし雪の上にずっといたのだから冷たいのは当然だと思っていたけど、どうやら雪スライム達は常にひんやり状態みたいだ。
「って事は、夏になってもひんやりのままなのかなあ? ううん、これは要観察ってところだな」
アクア達スライムは、夏でもある程度はひんやりとしているけれど、俺がずっとくっついているとある程度は温まってしまうから、スライムベッドもちょっと生ぬるくなっちゃうんだよな。
お湯に入ったアクア達はお湯と同じ温度にまで温まるので、触ると完全に人肌状態。なので俺的には色々と問題があるんだよな。主に倫理的な部分で。
「じゃあ、もしかしてこれとか好きなのかな?」
ふと思いついてそう呟き、笑いながら湯船の外に氷の塊を作って転がしてやる。
「わあい! 氷だ〜〜〜!」
すると、それを見た雪スライム達が先を争うようにして湯船から飛び出し、氷を転がして遊び始めた。
当然だけど、ここの風呂場は洗い場も広くて全部タイル張りだからスライム達が遊び回っても何ら問題無しだ。
すると、それを見た他のスライム達までが次々に湯船を飛び出して氷を転がして遊び始めた。
言ってみればスライム達による混戦サッカー状態。
「あはは、また新しい遊びが出来たな。だけど俺は体を洗いたいから一旦中止〜〜! ほら、また後で作ってやるから、風呂に戻ってください」
湯船から出た俺の言葉に元気な返事が返り、氷ごと湯船に飛び込んでいくスライム達。そして湯船の中で水球が始まったよ。
だけど、今作ったのは単なる氷。別に特別硬く作ったわけでも、解けないように念を込めて作ったわけでもない。なので、ちょっと熱めの湯だったから、みるみるうちに溶けて小さくなっていく。
「きゃ〜〜! 溶けちゃう溶けちゃう!」
「大変です〜〜〜!」
触手がニュルンと出てきて慌てたように氷をお湯から取り出す。
石鹸を泡立てて体を洗っていた俺は、突然始まったスライム達の触手による氷争奪戦の空中戦を見ながらもうずっと笑っていたのだった。
まあ、皆楽しそうで何よりだよ。